ローカル店舗向けデジタル販促支援システムの構築事例:紙から脱却し「地域密着型DX」を実現

デジタル化が進む一方、全国には依然として紙のチラシや電話連絡を中心とした「アナログ運用」が主流の小規模店舗が多数存在します。こうした現場において、地域密着型の業態に特化した業務支援システムを構築することは、開発受託会社にとって大きな社会的意義とビジネスチャンスを秘めています。
この記事では、ある地方都市の商店街向けに導入された「ローカル店舗向け販促DXシステム」の構築ユースケースをもとに、開発の勘所や受託企業としての提案戦略を深掘りします。
課題の所在:「チラシ配布」と「電話確認」の限界
対象となったのは、地域密着型の約70店舗が加盟する商店街連合会。日々の販促情報(セール告知・イベント案内)は紙チラシをFAXで各店に送信する形で共有されており、以下のような課題が浮き彫りになっていました。
- 情報共有の即時性に欠ける(FAX送信は1日1回)
- 紙の掲示は見落としが多く、集客にムラが出る
- 事務局と店舗間の確認作業が電話中心で非効率
- 若手後継者がデジタル化を希望しても既存体制に阻まれる
さらに、セール情報やイベント内容は急遽変更になることも多く、そのたびに再度FAXを送ったり、電話で各店舗に個別確認を行ったりと、事務局側の業務負荷も深刻でした。事務局のリソースが限られている中で、こうした属人的な運用が続くことに限界が見えてきていたのです。
要件定義:紙文化と共存しながら段階的DXを設計
本プロジェクトでは、いきなり紙を廃止するのではなく、「紙とデジタルを併用しながら段階的に移行する」方針がとられました。急激な変化に抵抗を示す店舗もあったため、無理なく受け入れられる設計が重要でした。主な要件は以下の通りです。
- 事務局が販促情報を一括入力→各店舗に通知
- 店舗ごとに「実施・不参加」の確認をスマホで返信
- 売場写真やPOP素材のアップロード機能
- チラシ作成のテンプレート支援機能
- 通知・返信履歴の自動アーカイブ(PDF出力)
このほか、スマートフォンに不慣れなスタッフにも配慮し、アプリではなくPWA形式のWebアプリを採用し、インストール不要・アイコン設置のみで利用可能なUXを実現しました。こうしたハイブリッドなアプローチによって、紙文化を尊重しながらも、自然にデジタルに移行していける仕組みを構築しました。
技術構成と開発体制:ローコードとノーコードの融合
小規模店舗の業務特性と予算に配慮し、以下のような構成が採用されました。
- フロントエンド:Vue.js(店舗用はPWA対応)
- 管理画面:Retool(ノーコードで内製運用可能)
- バックエンド:Supabase + Cloud Functions
- 通知基盤:LINE公式アカウント+Webhook
- ファイル管理:Google Drive API連携
この構成により、コードを書く必要のある部分は開発会社が担当し、Retoolのダッシュボードは事務局自身が日常的に操作・更新できるように設計。例えば、特定の販促テンプレートを翌月用に複製・編集するといった作業も、エンジニアを介さずに事務局だけで完結するため、運用コストが大幅に削減されています。
UXのこだわり:スマホ世代とアナログ世代の両立
導線設計においては「ITに不慣れな方でも直感的に操作できる」ことを最重要視しました。
- 画面内のボタンは1画面に3つまで、不要な機能は表示しない
- 最初のログイン方法や使い方を説明したチュートリアル動画をQRコードで郵送し紙面で補完
- 全体の配色はユニバーサルデザインに準拠し、視認性を最大限に確保
- 「未確認」の通知には視覚的に強調された赤バッジ表示を採用
- 音声読み上げに対応し、視覚障害や高齢ユーザーのアクセシビリティも意識
こうしたUX設計は、システムそのものの導入効果を高めるだけでなく、「使いやすいから継続したい」という心理的なハードルを下げる要因にもなっています。
定量的な導入効果と現場の反応
導入後6か月時点で以下のような効果が報告されています:
- FAX配信量:週15件 → 週2件(85%削減)
- 電話確認業務:1日平均3時間 → 40分へ短縮
- 各店舗の販促実施率:平均62% → 89%に上昇
- 若手店主の満足度(アンケート調査):92%が「継続利用したい」と回答
- 事務局の販促関連業務時間:40%削減
数値面だけでなく、「事務局からの連絡が見やすくなった」「以前より販促企画に前向きになれた」といった定性的な声も多く、システムが業務文化の変革に寄与していることが伺えます。
受託開発会社としてのポイント:提案力と柔軟性
本プロジェクトにおいて発注側が高く評価したのは、以下の点でした。
- 紙文化に寄り添った段階的DX提案
- ノーコードによる「改善運用の内製化支援」
- 技術的な最新性よりも「業務視点に立った実装方針」
- 教育コンテンツ・印刷物も含めた伴走支援
- システム導入後の「現場の声」を吸い上げる改善サイクル
これにより、開発会社は単なる外部ベンダーではなく、「一緒に商店街を支えるパートナー」としての信頼を獲得しました。現場と共に走る姿勢が、結果的にシステムの定着率や導入効果を押し上げたのです。
まとめ:「アナログ業務こそDXの宝庫」である
業務システム開発の現場では、複雑な要件を技術的にいかに制御するかが注目されがちです。しかし実際には、「紙・FAX・電話」といった旧来の手法にこそDXの余地は多く残されています。
特に地方・高齢者・小規模団体といった「デジタル弱者」に向けた支援には、開発受託会社の設計力・運用提案力が問われます。
今後、社会全体が急速にデジタルシフトしていく中で、こうした「段階的DX」こそが、最も広い市場と最も深い課題解決を提供できる分野であると言えるでしょう。