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開発ユースケース紹介

音声チケット × 生成 AI:医療機関向け「ボイス・トリアージ」自動化ユースケース

なぜ医療現場で“音声チケット”が求められるのか

救急外来やクリニックの代表電話には、予約変更・症状相談・薬局連絡など多種多様な問い合わせが 1 日あたり数百件寄せられます。多忙な現場では 「電話応対の待ち時間=患者体験の悪化」 につながり、ひいては病院の口コミ低下や離反につながります。一方、既存の Web チャットボットは高齢患者の利用率が伸びず、音声インターフェース へのニーズが拡大しています。

ユースケース概要:ボイスボット+LLMで実現する問い合わせ分類

本ユースケースでは、

  1. 患者が病院代表番号へ発信

  2. Twilio など通信 API が音声をリアルタイム文字起こし

  3. 生成 AI が症状・意図・緊急度を推論し JSON で出力

  4. RPA が電子カルテ(EHR)や予約システムへ自動登録

  5. 対応優先度に応じて院内チャット・SMS に即時通知

という流れで トリアージ工数を最大 70 %削減 することを狙います。医療機関がシステム開発会社へ依頼する際の「費用相場」「発注ポイント」を交え、実装手順を解説します。

システム構成と役割分担

  • Voice Gateway:Twilio/AWS Connect が電話を受信し WebSocket で音声ストリームを中継

  • Speech to Text サービス:Whisper API(HIPAA 準拠リージョン)で文字起こし

  • LLM エージェント:症状キーワードをマルチラベル分類(痛み部位・緊急度・科目)

  • トリアージルールエンジン:JSON 出力を基に待機番号・優先度を付与

  • RPA Bot:電子カルテへ患者基本情報を照合し、診察枠を仮確保

  • ダッシュボード:Node.js+React で待ち人数・緊急度ヒートマップを表示

これにより、従来は看護師が手入力していた 「電話 → メモ → システム転記」 の 3 重作業を排除できます。

企画段階での要件定義チェックリスト

医療 DX 特有の要件を漏れなくヒアリングするには、次の 8 項目を RFP に入れるとスムーズです。

  1. 診療科目リスト(外科・内科・小児など)

  2. 優先度スケール(救急度 5 段階など院内基準)

  3. 電子カルテベンダ名 と API 有無

  4. オンコール体制(夜間は SMS/休日は留守番受信など)

  5. IP 電話回線数 と 同時通話ピーク

  6. 患者データ暗号化要件(TLS 種別/FIPS140-2)

  7. ログ保持期間 と 匿名化ポリシー

  8. モデル評価指標(F1>0.85 など)

これらを盛り込むことで、システム 開発会社 選び方 予算 費用 相場 発注 の比較軸が増え、後々の追加費用を抑えられます。

プロンプト仕様書の作り方――医療専門語の扱い

生成 AI に医療語を理解させるには 症状シノニム辞書患者語録 を前処理で渡すことが重要です。たとえば「腹痛」「おなかが痛い」「みぞおちがキリキリ」は同一タグ <腹痛_general> に正規化します。

### SYSTEM
あなたは病院の電話窓口ボットです。ユーザー発話から「症状」「緊急度」「科目」を日本語で JSON 出力してください。

### CONTEXT
- シノニム: みぞおち=腹部上部, ハキケ=嘔気
- 緊急度基準: A=救急車レベル, B=当日来院, C=翌日以降

費用シミュレーション:API+RPA+音声回線

月 3,000 件の電話を処理する場合の試算です。

項目 単価 月間量 月額 備考
Twilio 通話 ¥0.09/分 4,500 分 ¥405 1.5 分平均
Whisper API ¥0.006/15s 18,000 セグ ¥7,200
GPT-4o API ¥0.0006/1K tk 900k tk ¥540
RPA Bot ¥60,000 1 Lic ¥60,000 電子カルテ転記
ダッシュボード VM ¥5,000 1 台 ¥5,000
月額合計 ¥72, ~000

LLM の課金比率は 1 %未満で、音声 API と RPA がコストの大半を占める構造です。予算説得の際は「AI そのものは安い」ことをグラフで示すと経営層が理解しやすくなります。

スプリント計画と KPI 設定例

  • Sprint 0:PoC(通話→文字起こし→分類精度 70 %)

  • Sprint 1:EHR API 接続・患者照合エラー率<5 %

  • Sprint 2:優先度付与・待ち時間中央値 15→7 分

  • Sprint 3:ダッシュボード運用・看護師工数 30 h 削減

KPI を業務指標(待ち時間、誤分類率)とモデル指標(F1、トークン)に分けると、費用対効果 を数字で追跡できます。

セキュリティ設計――医療データと HIPAA/GDPR

  • PHI マスキング:氏名・生年月日を {hash} へ置換

  • S3 SSE-S3:音声ファイルをサーバサイド暗号化

  • ゼロトラスト IAM:LLM へのアクセスキーを 24h ローテート

  • DLP ルール:チャット履歴に個人識別語が含まれたら自動削除

SOC2 Type-II を保持する Web開発会社を優先し、責任共有モデルを契約書に明記しましょう。

観測性――音声/LLM/RPA の 3 レイヤにメトリクスを配置

  1. 音声レイヤ:通話ドロップ率、ASR 時延

  2. AI レイヤ:分類信頼度、リトライ回数

  3. RPA レイヤ:転記成功率、Bot 実行時間

Grafana で 30 秒粒度のダッシュボードを作成し、SLI/SLO を可視化すると、保守運用の SLA 交渉が容易になります。

データセット構築とアノテーション戦略

本番精度を 90 % 以上に引き上げる鍵は、発話ログの教師データ化 にあります。医療機関の場合、以下 5 ステップでアノテーションを回すと効率的です。

  1. 非機密化:患者番号・氏名をハッシュ化し HIPAA 準拠の S3 バケットへ格納

  2. 自動タグ付け初期案:症状辞書でルールベース分類し下書きを生成

  3. 看護師レビュー:1 サンプルあたり 20 秒でラベル校正(痛み強度・持続時間など)

  4. 二重エスカレーション:判定が一致しないサンプルは医師が最終承認

  5. アクティブラーニング:LLM 不確実度が高いサンプルを優先抽出し次サイクルへ投入

1,500 通話ぶんのコーパスであっても、アクティブラーニングを併用すれば 3 週間で F1=0.88 を達成できます。重要なのは「看護師の校正コスト × データ価値」を定量化し、外部アノテーション会社より自院スタッフの方がコスパが高いケースを見極めることです。

パイロット導入の結果とベンチマーク

関東の 300 床規模病院で 2 か月間パイロットを実施した結果、次の指標を達成しました。

指標 導入前 導入後 改善率
電話一次受け待機時間 4.8 分 1.3 分 −73 %
症状誤分類率 7.1 %
看護師入力工数 45 h/月 12 h/月 −73 %
患者満足度 (NPS) 4.2 7.8 +3.6

待機時間短縮と NPS 向上が同時に得られたことで、来院リピート率が 5.4 % 上昇し、病院収益にもインパクトを与えました。

マルチテナント展開—医療グループ全体への横展開

1 病院で成功した仕組みを医療法人グループ 10 拠点へ広げる際は、TenantID 付きメタデータ をトレーサビリティとして活用します。

  • 共通 LLM 推論基盤:ランタイムは共有しつつ、患者データは KMS でテナント分離

  • 施設別ルール層:優先度基準や診療科目は YAML ファイルでオーバーレイ

  • CI/CD:GitHub Actions で各テナントへ一斉デプロイ、ダウンタイム<90 秒

これにより、機能追加が全施設へ 1 日で波及し、保守コストを 40 % 削減 できます。

開発会社選定 10 チェックシート

  1. 医療機関案件の HIPAA/GDPR 実績

  2. Twilio・AWS Connect の 音声 API 実装経験

  3. 電子カルテ API(ORCA・MISEL など)連携数

  4. プロンプト仕様書の 定額メニュー の有無

  5. プロジェクト管理を JIRA/Azure DevOps で可視化できるか

  6. LLM ガバナンスの 自動テストスクリプト 提供可否

  7. 24h オンサイト 必要時のリソース確保力

  8. 契約更新後の 成果報酬モデル 提案事例

  9. SLI/SLO ダッシュボード の雛形提供

  10. 年 2 回の 脆弱性診断 を内包した保守プラン

上記を RFP に「必須」「加点」「参考」に分類して評価すると、数値に基づく選定が可能です。

保守運用フェーズ—MLOps と RPAOps の融合

運用開始後は Prompt バージョン管理RPA シナリオ回帰テスト を統合 CI に乗せます。

  • Prompt Repo:YAML+JSON でバージョンタグ付け

  • Canary Deploy:新モデルを 5 % 通話に適用し A/B 比較

  • エラーシグナル:LLM 信頼度 <0.4 かつ RPA エラー時に自動ロールバック

  • Bot Telemetry:Prometheus Exporter が実行時間と API コールを収集

こうした MLOps+RPAOps をワンパイプラインにすると、障害 MTTR が 68 分 → 19 分へ短縮しました。

将来拡張ロードマップ—音声 UI からマルチモーダルへ

次のフェーズでは、画像認識と LLM を組み合わせ、患者が送信した患部写真を初期トリアージに利用します。

  • Vision API:皮膚発疹・外傷の自動ラベリング

  • 多モーダル GPT-4o:音声説明+写真を統合し緊急度推論

  • 拡張現実 (AR) 診察:看護師が HoloLens でリアルタイム確認

マルチモーダル対応により、電話だけでは判断できなかったケースの再診率を最大 50 % 減らせる見込みです。

まとめと次のアクション

  • 音声チケット自動化は 待機時間短縮 × 医療安全 の両立が可能

  • コスト構成は RPA と音声 API が主体、LLM 課金は 1 % 前後

  • 成功の鍵は 高品質アノテーション → スプリント KPI → ガバナンス の三段ロケット

  • 医療特化のセキュリティ基準とテナント分離で、多拠点展開も現実的

まずは 1 日 30 件程度の代表電話ログを収集し、分類プロトタイプを作るところから始めてみてください。ROI が見えた段階で、専門の Web開発会社へ正式発注するのが最短ルートです。

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