ローコード/ノーコードツール活用の基礎知識:選び方から発注・費用相場まで

ローコード/ノーコードが注目される背景
昨今、業務効率化やDX推進の旗印としてローコード/ノーコード(LC/NC)ツールの導入が加速しています。従来のシステム開発では、要件定義から設計、コーディング、テスト、運用保守まで膨大な工数と時間が必要でした。しかし、LC/NCツールを活用すると、開発会社に大規模発注しなくとも、事業担当者自身や少人数チームでプロトタイプから本番運用まで進められます。
主な導入メリットは以下のとおりです。
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開発スピードの向上:GUI操作で画面やワークフローをドラッグ&ドロップ設計でき、従来の手書きコーディングを大幅削減
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予算の抑制:「費用相場」としては、小規模業務アプリなら数十万~数百万円、中規模でも数百万円~千万円程度と、一般的なシステム開発より低コスト
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内製化推進:ITに詳しくない担当者でも学習コストが低く、ツールの選び方次第でエンジニアリソースを温存
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変化への柔軟対応:業務変更や機能追加をツール上で容易に反映でき、保守契約費用も抑えられる
ただし、LC/NCツールにも限界があり、複雑な連携要件や高負荷処理、大量データ集計などは得意領域ではありません。本記事では、ツールの特徴と選び方、発注時のポイント、予算・費用相場、具体的な活用シナリオを解説し、読者の皆さまが自社業務に最適なLC/NCツールを導入する際の判断材料を提供します。
ローコード/ノーコードツールの種類と特徴
市場には多種多様なLC/NCプラットフォームが存在しますが、大きく分けると「ローコード開発プラットフォーム」と「ノーコードビルダー」に分類できます。
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ローコード開発プラットフォーム
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例:OutSystems、Mendix、Power Apps
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特徴:ビジュアル開発をGUIで行いつつ、必要に応じてJavaScriptやC#でカスタムコードを記述可能
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適用領域:業務システム全般、外部API連携、高度な業務ロジック
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ノーコードビルダー
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例:Zapier、Make、AppSheet
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特徴:プログラミング知識不要で、ワークフローやフォーム、チャットボットなどをドラッグ&ドロップで構築
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適用領域:業務自動化、通知フロー、マスター管理アプリ
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データベース連携型ツール
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例:Airtable、Google AppSheet
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特徴:スプレッドシートやクラウドDBを基盤に、データ入力画面やレポートを自動生成
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適用領域:小規模なCRM、在庫管理、プロジェクト管理
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表面上は同じGUIでも、機能範囲や拡張性、システム/開発会社選びのポイントは大きく異なります。たとえば、Power AppsはMicrosoft 365との親和性が高く、大企業の基幹業務との連携に有利ですが、ライセンス費用が高い傾向です。一方、Zapierは月額数千円から始められるため、予算ゼロイチの自動化に向いています。
ツール選びの「開発会社選び」と同じポイント
LC/NCツール選定は、従来のシステム開発における開発会社選びと同様、以下の視点が重要です。
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要件適合性
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自社の業務課題/業務フローが、ツール内の標準機能でどこまで実現可能か
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例:多段階承認ワークフロー、複雑な権限設計、API連携要件
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予算・費用相場
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初期ライセンス/サブスクリプション費用、ユーザー数課金か固定課金かを比較
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追加機能(プレミアムコネクタ、容量追加、保守サポート)の費用
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拡張性・運用性
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標準機能で不足する場合に、どこまでカスタム拡張コードを書けるか(ローコード)
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保守フェーズの運用コスト—たとえばユーザー/データ量増加時のライセンス追加費用
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導入支援・コミュニティ
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ベンダーや導入パートナー(開発会社)のサポート体制、教育研修プログラム
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ツール利用者コミュニティの活発度、情報共有リソースの充実度
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これらのポイントをRFPに落とし込み、複数のLC/NCプロバイダーや導入パートナーから見積を取得することで、相見積もりによる発注が可能になります。初期導入は無料トライアルやPOCから始め、標準機能で要件を満たせるか検証してから、最低限の予算内で本番契約に移行するのが賢い進め方です。
具体的ユースケース:営業支援アプリ開発
ここからは、LC/NCツールを使った具体的ユースケースをストーリー仕立てでご紹介します。架空の中堅企業B社で、営業部門の業務効率化を目的に営業支援アプリを導入した事例です。
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背景と課題
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B社の営業部門では、紙台帳やExcelで顧客情報と商談ステータスを管理しており、リアルタイム共有が難しかった
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月次レポート作成に5営業日を要し、経営判断のスピードが遅延
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予算:初期100万円、ランニング(月額)5万円
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ツール選定
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社内SEがPower AppsとAppSheetをPOCで検証
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結果、Google Workspaceとの連携容易なAppSheetを選定し、予算内での開発・運用を決定
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要件定義・設計
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顧客マスタ、商談マスタ、見積アップロード機能、ダッシュボード表示を標準機能で定義
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発注時点で必要最小限の要件を固め、後工程での追加発注をオプション化
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開発とテスト
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事業担当の営業リーダーが自らドラッグ&ドロップで画面を作成
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開発会社パートナーは、AppSheetの有償コネクタ設定とセキュリティ設定を担当
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2週間でテスト環境リリース、1週間のUATを経て本番稼働
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効果と次フェーズ
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月次レポート作成時間:5日→半日(90%削減)
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営業部CSAT:70%→85%
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今後の拡張案:LINE連携チャットボット追加(予算20万~30万円)
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このように、LC/NCツールを活用すると小規模でもシステム導入効果を短期間・低予算で実現できます。発注時の相場感を押さえ、事業部門と開発会社を巻き込んだPOC運用が成功の鍵です。
運用フェーズと保守ポイント
本番リリース後は、内製・外製を問わず運用保守がプロジェクト成功のカギです。LC/NCツールでは以下のポイントを押さえておくと、継続的な改善とコスト管理が容易になります。
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利用状況の可視化
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ツール標準のダッシュボードでAPIコール数、フォーム送信数、ユーザー数を定期レポート
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Power BIやLookerなどBIツールと連携し、カスタムレポートを発注
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問題発生時のエスカレーションフロー
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事業部門→内製担当者→開発会社サポートの3階層体制を定義
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SLA(応答時間、解決時間)を発注契約に盛り込み、費用相場を明示
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定期メンテナンスとバージョンアップ
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ツールベンダーのアップデート通知をキャッチアップし、半年ごとに機能評価
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内製チームだけで対応困難なアップデートは、発注パッケージとして開発会社へ委託
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ユーザーサポート体制
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FAQやマニュアルを社内Wikiで管理し、ツール操作マニュアルを随時更新
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問い合わせチケットのテンプレート化で初期情報を収集しやすくし、対応工数を削減
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コスト最適化
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ツール利用ライセンスのアクティブユーザー数を定期チェックし、不要ライセンス解約
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オプションコネクタやストレージ利用量に応じた追加費用を毎月レビュー
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これらを内製チームで回せるよう、初期発注時に「運用マニュアル作成」「オンサイト/リモート問合せサポート」を含むパッケージ見積もりを取得しておくと安心です。
ツール拡張とカスタマイズ
標準機能で要件を満たせない場合、ローコード/ノーコードツールの拡張性が試されます。以下のカスタマイズ方法があります。
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スクリプト/プラグイン開発
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MendixやOutSystemsでは、JavaやJavaScriptでカスタムウィジェットを作成可能
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Power AppsではPCF(PowerApps Component Framework)で再利用性の高い部品を開発
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外部API連携
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HTTPリクエストコネクタを活用し、REST/SOAP APIとノーコードで連携
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OAuth2.0認証や帯域制御を伴う場合は、Azure FunctionsやAWS Lambdaで中継層を構築
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データベース拡張
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AirtableやAppSheetではSQL Databaseへの接続が有償オプションとなるため、費用相場を確認
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NoSQLやGraphDB連携が必要なケースは、社内DB連携部を発注することも検討
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UIカスタマイズ
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CSS/Sassによるスタイル上書き、あるいはテーマ設定でブランドガイドライン適用
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アクセシビリティ対応(WCAG準拠)を優先する場合、外部デザインチームへの委託が相場的にも妥当
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拡張フェーズを想定した発注時には、「標準機能でできないこと」「どこまで内製で対応するか」「どこから外部開発会社に委託するか」を明確化し、見積りを分割して取得するのがコスト過大を防ぐコツです。
組織内ナレッジ定着の工夫
LC/NCツール導入の本当の価値は、一過性のプロジェクト完了ではなく、組織全体でのナレッジ共有と生産性向上にあります。以下の施策で定着を促進しましょう。
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定期勉強会/ハンズオン研修
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月1回程度、社内SEや開発会社講師を招いて最新機能やベストプラクティスを共有
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スプリントレビュー時に業務チームを巻き込み、成功事例を発表
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サンプルアプリケーションの整備
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社内で多用する共通パターン(承認フロー、レポート画面など)をサンプルとして用意
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GitHubなどにテンプレート化し、発注範囲の選び方にも役立てる
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FAQとトラブルシューティングガイド
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ツール特有のエラーコードや回避策をWikiに蓄積
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内製メンバーだけで一次対応できるレベルに引き上げ、開発会社への追加費用発生を抑制
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成果共有ダッシュボード
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プロジェクトごとのROIや業務効率化指標をPower BIで可視化
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社内イントラにウィジェットとして常時表示し、導入効果を継続アピール
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ナレッジ定着は短期的な予算投資だけでなく、長期的な人材育成と組織文化の醸成がセットです。効果的に内製化するためにも、初期発注時の契約で「ナレッジ移転支援」を含めることをおすすめします。
導入コストと費用相場の詳細
LC/NCツールの導入にかかる費用は、ライセンス料だけではなく、人件費や外部発注費用を含めた総合的なコスト相場を把握する必要があります。以下に典型的な小規模~中規模案件の費用モデル例を示します。
費用項目 | 小規模(〜3人月) | 中規模(3〜10人月) | 備考 |
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ツールライセンス(年額) | 50~100万円 | 100~300万円 | ユーザー数課金、容量課金による増減 |
外部発注(開発会社) | 80~120万円/月 × 2~3月 | 80~120万円/月 × 4~8月 | POC、要件定義、カスタムコーディングなど |
内製要員(人件費) | 50~70万円/月 × 1~2名 | 50~70万円/月 × 2~4名 | 社内SE、事業担当含む |
導入支援・教育研修 | 30~50万円 | 50~100万円 | ワークショップ、マニュアル作成含む |
運用保守費(月額) | 5~10万円 | 10~30万円 | 問合せ対応、バージョンアップ含む |
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合計(小規模):約200~400万円
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合計(中規模):約800~1800万円
大型システム開発と比較するとかなり低額ですが、内製人員の学習コストや運用負荷も勘案し、「予算」と費用相場を総合的に判断することが重要です。
開発会社発注時のチェックリスト
LC/NCツール導入で失敗しないため、発注前に以下のチェックリストで抜け漏れを確認しましょう。
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ツール適合性チェック
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標準機能でカバーできる要件/カスタム必要部分を明確化
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見積依頼資料整理
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必要機能一覧、ユーザー数見込み、運用体制イメージ
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契約形態決定
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時間契約 vs 固定価格契約。スコープ確定度に応じて選択
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SLA・保守範囲
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サポート時間帯、エスカレーションフロー、追加費用発生条件
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ナレッジ移転合意
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開発会社から内製チームへの研修回数、資料提供を契約に明記
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これらをクリアにし、複数社からの相見積もりを取得して比較検討することで、最適なパートナー選びが可能になります。
今後のトレンドと活用シーン
LC/NCツール市場はさらに進化を続けています。次に注目したいトレンドと代表的活用シーンを紹介します。
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AI/チャットボット連携
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ノーコードでChatGPTやDialogflowを組み込み、FAQ自動応答や簡易問い合わせ自動化
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IoTデータ可視化
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センサー情報をリアルタイムで取得し、ローコードでダッシュボード化
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マーケットプレイス連携
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ShopifyやSalesforceなどSaaSとノーコードで相互連携、EC運営やCRM強化
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モバイル-first開発
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PWAやネイティブ機能をドラッグ&ドロップで実装し、BYOD時代の業務アプリを内製
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これら先進機能をいち早く試せるのもLC/NCツールのメリットです。ただし、先進機能ほど無料枠や低価格プランでの相場は限られるため、予算を踏まえた選び方が必要です。