地域交通の課題を解決する「コミュニティバス運行管理アプリ」開発ユースケース

高齢化や過疎化が進行する地方自治体において、住民の移動手段をどう確保するかは、行政サービスの根幹ともいえる課題です。特に、高齢者や免許を返納した住民の生活インフラとして機能する「コミュニティバス」は、地域にとって不可欠な存在です。
しかし、運用面では慢性的な問題を抱えているケースが少なくありません。運行本数が少なく利便性が低い、利用者が少ないために採算が取れない、ダイヤが固定されていて非効率、紙による管理が煩雑、といった声が多く寄せられていました。
本記事では、ある自治体との連携で実現した「コミュニティバス運行管理アプリ」の開発事例を通じて、どのような技術を活用し、どう運用効率化を実現したのかを詳しく紹介します。これからシステム開発を依頼しようと考えている事業者や担当者にとって、非常に実用的な参考となる事例です。
開発に至った背景と解決すべき課題
このプロジェクトは、北関東にある中山間地域の自治体が抱える交通課題からスタートしました。地域では、利用者の高齢化と車社会の加速によって、公共交通の必要性が増す一方で、財政面や人材面での制約が大きく、次のような問題が浮かび上がっていました:
- バスが定時に走っているにもかかわらず、利用者がほとんどいない
- 一日に数便しかなく、買い物や通院のタイミングが合わせにくい
- 利用状況が紙ベースでしか管理できておらず、集計や分析に時間がかかる
- 運転手不足により増便や特別ルート対応が難しい
このような背景から、「住民が必要なときに呼べるオンデマンド型の運行」「スマートフォンからの簡単な予約・支払い」「リアルタイムのバス位置表示」「自治体による効率的な運行管理」の4つを軸とするシステムの開発が提案されました。
採用されたシステム構成と技術スタック
本アプリの開発にあたっては、短納期・柔軟性・拡張性の3点を重視し、次のような技術構成で実装されました:
- バックエンド:Python(Django REST Framework)により安定したAPIを提供
- フロントエンド:Vue.js(管理画面)、Flutter(住民向けアプリ)でマルチデバイス対応
- インフラ基盤:AWS(EC2、RDS、S3、Lambda、CloudWatch)で高可用性を確保
- 通信機能:車両のGPS情報をWebSocketでリアルタイム送信
- 決済機能:Stripeを用いてクレジット・QR決済に対応
特筆すべきは、クラウドベースで運用全体を統合管理している点です。バスの運行状況、予約状況、決済履歴などすべてを一元的に可視化・分析できるため、自治体職員の負担が大幅に軽減されました。
開発プロセスと要件定義のアプローチ
開発は以下のようなプロセスで行われました:
- 実地調査とヒアリング:地域住民、ドライバー、自治体職員からの意見を収集
- システム要件定義:対象エリアの詳細マップ、予約ロジック、バスの稼働ルールを明文化
- プロトタイプ作成:住民向けアプリと管理画面を先行開発し、2週間の社内検証を実施
- 実証実験:2台の車両を用い、平日・週末それぞれで予約率と運行の最適性を確認
- 本番開発と導入:PoC結果を反映し、最初のリリースを3カ月で完了
特に力を入れたのが、予約とルート最適化のバランス設計です。あまりに自由に予約を受け付けると非効率な運行になる一方、制約が強すぎると利便性が下がるため、AIによるリアルタイムのルート提案機能を限定導入し、効率化と柔軟性を両立させました。
導入後の実績と住民への影響
このシステム導入による効果は、数値的にも明確に表れました:
- 月間利用者数は、実証前の約60名から300名超に増加(5倍)
- 稼働車両の稼働率が45%から83%に上昇
- 一人当たりの運行コストが30%削減
- 自治体からの運営補助金が想定よりも20%低く抑制可能に
- バスを利用した高齢者からの満足度アンケートが平均4.6/5.0を記録
また、運用データを可視化することで、曜日別・時間帯別の利用傾向やキャンセル率の可視化も可能となり、サービス改善サイクルが確立されました。
拡張と今後の展望
このアプリは、バージョン1.0のリリース後も進化を続けています。以下のような機能が段階的に実装される予定です:
- 英語・中国語・ベトナム語など、観光客・外国人居住者向けの多言語対応
- 目的地に応じた「病院優先予約枠」や「買い物サポート便」機能
- 学校との連携で、登下校時の送迎予約機能を子育て世帯向けに展開
- 利用履歴に基づくポイントシステムによる地域経済の活性化
また、スマホを使えない高齢者への対応として、音声通話予約+職員手入力でアプリと連動するシステムも開発中で、すべての住民に公平なアクセスを提供する取り組みが進められています。
開発パートナーとしての視点と発注側への提言
このようなプロジェクトでは、発注側と開発側が対等なパートナーシップを築くことが成功の鍵となります。開発会社としては、以下の点を提案・共有しながら進行しました:
- 技術の提案だけでなく、「使い方の設計」に踏み込む
- 要件定義フェーズで現地実態を理解する時間を確保する
- リリース後の改善計画までを見据えた体制を作る
- 管理画面のUI/UXにも注力し、自治体職員のITリテラシー差に配慮
発注者側にとっても、「システム開発会社=外注先」ではなく、「ともに考えるチーム」として接することで、最終的な満足度と効果は飛躍的に高まります。
まとめ
「コミュニティバス運行管理アプリ」は、単なるデジタル化ではなく、「住民の移動という体験全体を再設計するプロジェクト」でした。課題の本質を見極め、シンプルで運用しやすい仕組みを技術で実現することが、持続可能な地域インフラの第一歩となります。
自治体や地域企業が抱える交通課題に対して、デジタルソリューションが実用的に機能する時代。これから開発パートナーを探す方にとって、本事例が一つの参考になれば幸いです。