「モジュラー開発戦略」で学ぶアプリ・システム開発の基礎知識

ユーザー体験を損なわず、変化し続けるビジネス要件にスピーディーに追従できる――。そんな “モジュラー開発戦略” を軸に、はじめてシステム開発を依頼する発注担当者が知っておくべき基礎を徹底解説します。
モジュラー開発戦略とは?
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定義:機能群を業務ドメイン単位の「モジュール」としてゆるく結合し、段階的に拡張する設計思想。
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メリット
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機能追加の影響範囲が限定されるため、改修コストを最小化
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複数の開発会社をモジュール単位で使い分けることで価格競争力を確保
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技術的陳腐化を防ぎ、クラウド・オンプレを柔軟に切替可能
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システム開発フローを“モジュール視点”で分解する
開発フェーズ | モジュール戦略で押さえる勘所 |
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要件定義 | 業務領域 を粒度にモジュール境界を明示し、スコープを固定化 |
システム設計 | API 契約でモジュール間通信を標準化し、プロジェクト横断のインターフェース仕様書を作成 |
プロジェクト管理 | スプリントをモジュール単位で区切り、バックログを独立管理 |
保守運用 | 障害発生時はモジュールを隔離してロールバック、全停止を回避 |
モジュラー設計を採用した代表的スタック例
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バックエンド:Spring Boot(Java)/ NestJS(TypeScript)
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API ゲートウェイ:Kong / AWS API Gateway
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データ永続層:PostgreSQL + モジュール別スキーマ分割
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認証基盤:Keycloak / Auth0
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CI/CD:GitHub Actions + Argo CD(Kubernetes)
ポイント:モジュール単位で Docker イメージを分け、タグにバージョンを付与することでテスト/本番の切り替えを高速化できます。
【強化セクション】システム開発会社の選び方・予算策定の実務ノウハウ
1. 評価軸をモジュール単位で定義
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企画・要件定義フェーズに強いコンサル系
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実装速度重視のアジャイル専業
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運用保守に実績のある MS (Managed Service) 会社
2. 価格モデルで比較
契約形態 | 適合ケース | 費用相場/人月* | リスク分担 |
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固定価格 | 要件が固い小規模モジュール | 60〜80万円 | ベンダ側高 |
準委任 | 仕様変動が見込まれる中核モジュール | 70〜100万円 | 共有 |
サブスク保守 | 運用フェーズ | 月10〜30万円 | 発注側高 |
*2025年都内相場。地域やスキルセットで変動。
3. 見積もりチェックリスト
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モジュール粒度で WBS が区切られているか
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共通費(PM/QA/DevOps)が重複計上されていないか
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ライセンス費とランニング費を分離して提示しているか
4. 予算バッファの決め方
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変動費 = 見積合計 ×20% を標準とし、仕様凍結後に10%へ再調整
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クラウド従量課金は 3 か月分トレンドを試算し、別途管理
モジュール式コストシミュレーション例
モジュール | 機能概要 | 実装人月 | 単価 | 小計 |
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ユーザー管理 | OAuth2 認証/権限 | 3 | 80万 | 240万 |
受発注管理 | 注文〜請求 API | 5 | 85万 | 425万 |
在庫同期 | IoT 連携 + バッチ | 2 | 75万 | 150万 |
合計 | 10 | 815万 |
発注前に整備すべきドキュメント
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モジュール一覧表(担当部署・優先度・連携要否)
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データカタログ(主要エンティティと属性定義)
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非機能要件チェックシート(可用性・性能・セキュリティ)
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PoC 成果物(ユーザーストーリーと KPI)
ケーススタディ:モジュール戦略で成功した製造業SaaS
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課題:既存 Excel ×5 部門を統合したいが、各部門の要求が衝突
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解決策:部門ごとにモジュールを独立開発 → API 連携
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成果:リリース初年度で在庫過不足 15%削減、残業工数 30%減
コツ:部門間で KPI を共有し、API 契約書を「社内 SLA」として明文化。
発注後のリスクマネジメント
■ よくあるトラブル
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スコープクリープで費用が青天井化
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モジュール間の責任境界が曖昧で障害対応が長期化
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依存ライブラリの脆弱性対応が後手に回る
■ 予防策
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契約書にモジュール単位の受入・検収基準を明記
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API バージョンポリシーを決定(v1→v1.1→v2)
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SCA(Software Composition Analysis)を CI に組み込み自動通知
まとめ:モジュラー思考こそ発注者の最強リテラシー
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モジュール境界を意識するだけで要件定義が具体化し、開発会社への説明コストが激減
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予算と費用相場を機能ごとに見積もることで、交渉余地とリスクが“見える化”
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システム開発会社は「技術力 × モジュール提案力 × コミュ力」で選ぶべし
いま求められるのは、大規模フルスクラッチかノーコードか――ではなく、モジュールというレンズで“発注戦略”を再設計する視点です。これから開発を依頼するすべての担当者にとって、本稿が失敗しないプロジェクトの羅針盤となれば幸いです。