1. HOME
  2. ブログ
  3. アプリ・システム開発の基礎知識
  4. アプリ開発で見落とされがちな「状態回復性設計」の基礎と実践
BLOG

ブログ

アプリ・システム開発の基礎知識

アプリ開発で見落とされがちな「状態回復性設計」の基礎と実践

アプリ・システム開発において、要件定義やUI/UXの検討、API設計などの主要工程は多く語られてきました。しかし、実運用の現場で開発会社が直面するのが「予期せぬ中断」や「接続断」、「一時的な不整合」などの状態異常です。これらに対処する「状態回復性(Resilience)」の設計は、特にスマホアプリやWebシステムでの業務利用において、安定したUXと保守効率の鍵となります。

本記事では、見積もり依頼や開発会社選定を検討中の方に向けて、あまり知られていない「状態回復性設計」の考え方と開発現場での実装ポイントを解説します。費用対効果や運用設計との関係にも触れながら、なぜ今この観点が求められているのかを紐解きます。

状態回復性とは何か?その基本概念

状態回復性とは、「処理が途中で失敗しても、再実行やリカバリができる設計」のことを指します。サーバートラブルやネットワーク断、バッテリー切れなどにより、ユーザーの操作や処理が中断されることは日常的に発生します。その際、処理が一部だけ実行された状態で止まり、次回の実行時に重複や整合性不良を招くと、ユーザー体験や業務効率に大きな支障をきたします。

代表的な事例:ECアプリのカート処理

たとえばECアプリで、「カートに商品を追加」する処理が途中で止まり、ユーザー画面には追加されたように見えてもサーバーには登録されていないという事態が起こると、ユーザーは「操作が失敗した」とは気づかず、購買離脱が起こりやすくなります。

このようなケースに備えて、状態を一時保存し、次回起動時に復元できる仕組み(セッションキャッシュ、トランザクションログ等)の実装が必要です。

なぜ今「状態回復性」が求められるのか?

スマホアプリやWebシステムの利用は年々増加し、その用途はより業務の中枢に寄る傾向があります。それに伴い、単なる機能要件だけでなく、安定稼働や予期せぬ事象への対応力が「品質」として問われるようになっています。

また、クラウドベースのAPI構成や非同期通信の増加により、「1回の通信で完結しない処理」が増えています。こうした構成では、障害発生時の回復ロジックを事前に設計しておかないと、障害の原因特定も困難になります。

状態回復性を支える設計要素

1. 冪等性(Idempotency)

同じ操作が複数回行われても、結果が変わらないようにする仕組みです。たとえば「ポイント加算」処理が重複して実行されても、加算は一度だけ行われるべきです。冪等性の確保は、サーバー側でのリクエストID記録や、処理履歴の比較によって実現します。

2. ステートマシン設計

処理の各ステップを状態遷移として管理し、異常時には途中から再実行可能とするアプローチです。業務システムでは、各ステップにチェックポイントを設ける設計が一般的です。

3. 一時保存と復元機能

入力途中のデータや処理中の情報を、ローカルストレージやキャッシュに一時保存しておく設計です。セッション切れやブラウザクラッシュ後の再開時に、ユーザー体験を損ねず再開できます。

状態回復性を組み込む開発フローの工夫

状態回復性の設計は、開発フローの早い段階から組み込むことが重要です。

  • 要件定義:想定される中断シナリオを洗い出す
  • 画面設計:再実行やエラー復帰を考慮したUI設計
  • API設計:冪等性を意識したID設計、レスポンスパターンの標準化
  • テスト工程:中断・再開シナリオに基づくE2Eテスト項目の明文化

こうしたフローの中で、状態管理の責務分離(どこで保持・検知するか)を明確にしておくことが保守性にもつながります。

費用対効果の考え方:どこまで対応すべきか

状態回復性の強化は、当然ながら実装工数とテスト工数を押し上げます。すべての処理を対象にするのは現実的ではないため、以下のような判断軸で優先順位をつけることが重要です。

  • クリティカル処理(例:決済、書類提出)を優先
  • 復旧失敗時の業務・UXインパクトの大きさ
  • 外部サービス連携時の不確実性の高さ

また、SaaSやBaaSの活用により、状態管理や再実行処理を自動で担保するサービスの活用も視野に入れるべきです。

保守・運用フェーズで活きる「回復性設計」

状態回復性は運用開始後の保守・サポートでも大きな価値を持ちます。

  • サポートチームが再現困難な障害を調査しやすくなる
  • モニタリングやログにより原因特定が容易になる
  • 利用者からの信頼性向上とCS(顧客満足度)改善に寄与

つまり、これは「障害をなくす」のではなく、「障害から早く戻す力を設計する」ことであり、運用コストの平準化にもつながります。

まとめ:「失敗を前提とした設計」がシステム開発の成熟度を高める

アプリ・システム開発においては、正常系の設計に比べて「異常系」の検討が後回しになりがちです。しかし、実際の運用では「いつも通りに動かない」瞬間こそがサービスの価値を決める局面となります。

状態回復性設計は、こうした視点からアプリやWebシステムの信頼性を底上げする実践的アプローチです。開発費用や保守運用費用の最適化にも寄与するこの考え方を、ぜひ要件定義や開発パートナー選定の際に取り入れてみてください。

お問合せ

不明点やお見積りの依頼などお気軽にください。




問い合わせを行う

関連記事