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システムに「削除ボタン」を設けるべきか?データ削除設計における実務とリスクの考え方

なぜ「削除ボタン」がシステム開発で問題になるのか?

多くの業務システムやアプリ開発の現場で、UI上に「削除」ボタンをつけるかどうかが議論になります。

「ユーザーが間違って消してしまわないか?」
「消していいのは管理者だけか?」
「削除したデータはどこへ行くのか?」
「消せないようにして、運用で対応すればいいのでは?」

このような問いは、見積もり時点ではあまり意識されませんが、開発が進むにつれて必ず問題になります。

実は「削除設計」は、システムの安全性・業務運用・法務対応まで大きく関わるテーマであり、安易に決めてしまうと想定外のトラブルや費用の増加につながることがあります。

この記事では、実際の開発プロセスに即して「削除設計の考え方」「削除方式の選択肢」「運用や監査への影響」「開発費用や保守の観点」から、発注者が知っておくべき視点を解説します。

「削除」とは何を意味するのか?まずは定義を明確に

システム開発で「削除する」と言ったとき、それが何を意味するかは大きく2種類に分かれます。

1. 物理削除(データベースから完全に削除)

データベース上から該当レコードを完全に削除する方式。ユーザーから見えなくなるだけでなく、運用者や管理者からも復元できません

利点:

  • データ量が減る(パフォーマンス改善)

  • 実装がシンプル

欠点:

  • 復旧不可

  • 誤操作や不正削除の影響が大きい

  • ログがなければ監査対応が難しい

2. 論理削除(削除フラグを立てて非表示に)

レコードはDB上に残したまま、「削除済み」とするフラグ(例:deleted = 1)を立てて管理。UIでは非表示にし、実際の処理対象からは除外します。

利点:

  • 復元可能

  • 履歴・監査ログとして活用できる

  • トラブル時の調査がしやすい

欠点:

  • 実装が複雑化しやすい(SQLのWHERE句に削除条件が必要)

  • データベースが肥大化する可能性

  • 表示・非表示の判断ミスによるバグのリスク

発注者の多くは「消したら消える」で十分と思いがちですが、実際には「削除後に何が必要か(復旧・監査・再利用など)」によって選ぶ削除方式がまったく変わるのです。

削除ボタンの設置場所と権限設計:誰が、いつ、どの画面で使うのか?

削除機能の設計では、「どこで操作させるか」も重要です。

削除ボタンを安易に配置してはいけない理由

・一覧画面に並ぶ「×」ボタンが、ワンクリックで物理削除されてしまう
・確認ダイアログなしで消える設計
・スマホの操作ミスでタップ→データ消失

こうした実装は、ユーザーにとって非常に危険であり、「削除できる=ミスを許容する」という認識が必要です。

権限設計で防ぐ方法

  • 一般ユーザーは削除不可、管理者のみ可能に

  • 削除操作には「理由の入力」や「再確認チェック」などを挟む

  • 削除前に「非アクティブ化」や「一時停止」を経るフローにする

これにより、「削除操作の責任範囲」を明確にし、意図しない誤操作を防ぐことができます。

削除の代替案:データを「削除しない」設計とは?

「削除」=「見えなくする」だけで済む業務なら、削除という機能そのものを設けず、以下のような方法もあります。

  • 状態ステータスで管理(例:「公開」「非公開」「退会済み」など)

  • 表示条件を「有効フラグ付きのデータのみに限定」

  • UI上は「削除ボタン」だが、実際はフラグ更新のみ

このような「論理削除+ラベル付け」によって、ユーザーには削除したように見せつつ、実際には履歴や証拠を残すという運用も可能になります。

監査・保守・法務の観点から考える「削除」

削除設計は、UIや開発コストの問題だけではありません。以下のような「法的・業務的な影響」も考慮が必要です。

業務監査の観点

  • 誰がいつ削除したのか

  • 削除の理由・ログが残っているか

  • 元データを確認・再表示できるか

→ 公共系やBtoB業務では、削除ログの保存が義務的なケースも多く見られます。

個人情報保護法・情報管理の観点

  • ユーザーからの削除依頼(例:退会)にどう対応するか

  • クレーム対応時の履歴確認は可能か

  • 保有期間が定められているデータの削除タイミングは?

法令遵守や信頼性確保のためにも、「消せるようにすること」ではなく、「消すべきかどうか」のルールを持つことが重要です。

削除に関する開発・保守コストのリアル

「削除機能って簡単でしょ?」と考えがちですが、実際の開発現場では以下のような工数が発生します。

  • UIでの確認導線設計(アラート・確認画面)

  • 削除処理(論理/物理)と関連データの巻き込み処理

  • 履歴・ログ設計

  • 「削除後」の画面遷移・状態制御

  • バッチ処理やAPIの対応(データ取得時に除外条件を追加)

これらは全体の開発工数の中で、意外と見積もりに響く項目になります。

発注者側としては、以下を開発会社に明確に伝えると良いでしょう:

  • 「削除後に復元できるようにしたいのか、完全に消したいのか」

  • 「管理者だけが操作するのか、一般ユーザーも使えるのか」

  • 「削除操作がどれくらい頻繁に発生するか」

  • 「法的/業務的に削除ログや履歴の保存義務があるか」

開発会社に相談すべき設計ポイント一覧

設計項目 確認すべきこと
削除方式 論理削除か物理削除か
削除フロー 確認ダイアログ・理由入力・多段階操作は必要か
削除対象 関連データも一緒に消すのか(例:コメント→投稿)
削除履歴 ログの保存範囲(日時・操作ユーザー・理由など)
復旧可否 管理画面やDBから復元できる設計か
表示制御 UI上で非表示にする基準(例:退会済ユーザーなど)
権限制御 誰が削除できるのか、誤操作防止策はあるか

まとめ:「削除できる=責任を持つ」という視点を持とう

削除ボタンは、システムの中でも“最も危険な操作”のひとつです。
にもかかわらず、開発初期には軽視されがちで、実装直前になって問題になることも多くあります。

「誰が、何を、なぜ消すのか」
「削除後にどんな影響があるのか」
「消さないことで、何が守れるのか」

こうした観点を持つことで、発注者としても削除機能の設計判断がしやすくなります。

削除機能は「UIの一部」ではなく、「業務と情報管理における最終手段」です。
だからこそ、システム開発における削除設計は、費用対効果・運用設計・保守体制に深く関わってくるのです。

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