ローコード時代の予算戦略:低コードプラットフォームが変えるシステム開発の基礎知識

はじめに
近年、ノーコード/ローコード(低コード)プラットフォームが急速に普及し、ITに詳しくない経営者や事業担当者にも身近な選択肢となりました。「システムをつくりたいけど、予算や発注先の選び方がわからない」という声に答え、連載第○回では「低コードで実現する開発の基礎知識」をテーマに解説します。本稿では、
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低コードプラットフォームとは何か
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従来の発注とどう違うのか
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予算・費用相場の読み方
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開発会社ではなく「プラットフォーマー」を選ぶポイント
といった、初めてシステム開発を検討する皆さんに押さえてほしい基礎を、専門用語をできるだけ噛み砕いてお届けします。
低コードプラットフォームの全体像
低コードプラットフォームとは、プログラミングの専門知識を最小限に抑え、ドラッグ&ドロップでUI設計やワークフローを組み立て、必要に応じてコードを追加できる開発環境です。従来のシステム開発が「設計→要件定義→コーディング→テスト→リリース」の長いサイクルを要したのに対し、低コードでは最短数週間でMVP(最小限の機能セット)を市場投入できます。
この背景には、
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クラウド基盤への自動デプロイ
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あらかじめ用意されたテンプレートやAPI連携モジュール
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コーディング不要のデータベース設計
といった仕組みがあり、プロジェクト担当者が予算を組みやすいように、月額ライセンス+開発工数で費用を見積もるケースが増えています。
従来の開発会社への発注と比べると、初期投資が低く抑えられる一方で、相場観を理解しておかないとランニングコストが高騰するリスクもあります。後述の「選び方」「予算の組み方」をご参考にしてください。
発注先の選び方—プラットフォーマー対コンサル系開発会社
低コード導入を進める際の発注先は大きく2種類あります。
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プラットフォーム提供企業:自身でスクールやオンラインヘルプを持ち、SaaSライセンスと組み合わせたサポートを提供
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コンサルティング系開発会社:プラットフォームを利用しつつ、要件定義~運用保守まで一貫支援
両者の違いを整理すると以下の通りです:
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費用体系:
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プラットフォーマーは月額ライセンス+システム設定工数で予算を算出
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開発会社は要件定義からリリースまでの一括見積もり+保守費用
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選び方のポイント:
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自社リソースで設定・運用できるならプラットフォーマーに直接発注し、費用を抑える
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予算に余裕があり、伴走型で手厚い支援を受けたいなら開発会社を選ぶ
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特に、**予算が小規模(50〜200万円)**であればプラットフォーマーを、**大規模(300万円以上)**や複雑な業務フロー統合が必要なら開発会社への発注を検討しましょう。
予算・費用相場をざっくり把握する方法
低コード導入の初期費用相場は、以下の要素で構成されます:
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ライセンス費(月額5万円~30万円)
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初期設定工数(20~100時間、@1.5万~2万円/時)
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データ移行/API連携費用(10~50万円)
中小企業が「まず小さく」はじめる場合、初期50~150万円+月額5~10万円を見込めば概ねMVPレベルのシステムが構築可能です。一方、「フルスクラッチ×低コード併用」で複雑要件を一部自前開発するケースでは、300万円以上となることも。
相場を理解するには、必ず複数社から見積もり取得し、「ライセンス単価」「工数単価」「保守費用」を項目ごとに比較すると良いでしょう。見積もり比較の際、内訳が曖昧な場合は詳細を求め、相場から大きく外れている部分の理由を質問してください。
低コード導入成功の3つのポイント
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社内リソースの役割定義
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内製化を目指す場合、担当者のスキルアップ計画と時間確保を明確化
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MVPのスコープ絞り込み
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最低限の機能に絞り、早期リリース→ユーザーフィードバックで改善
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運用保守の計画
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発注後も月次定例や機能追加時の追加見積もりルールを社内合意
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これらを押さえると、開発コストを適切にコントロールしながら、短期間で価値を検証できます。
プラットフォーム導入後の運用成功事例
導入前は紙ベースだった運送業のイマジン物流社(仮称)が、低コードプラットフォームで業務システムを構築した事例をご紹介します。イマジン物流社では、ドライバーへの配車指示と配送進捗の確認を電話とFAXで行い、毎月50時間以上のコミュニケーションロスが発生していました。そこで、予算150万円を確保し、低コードベンダーと共に以下のプロセスでシステムを開発しました。
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要件定義(10時間):現場の運転士や管理者にヒアリングを実施し、最重要機能を「配車指示自動化」「配達完了報告」に絞り込み
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MVP開発(60時間):プラットフォームのドラッグ&ドロップを活用し、1週間で試作版をリリース
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パイロット運用(1か月):10名のドライバーに利用してもらい、フィードバックを迅速に反映
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本番展開(残工数40時間):全ドライバー向けにアクセス権を配付し、操作マニュアルを社内Wikiに掲載
結果、通信コストと事務工数を月間で約30時間削減。FAXミスによる再配達もゼロに近づき、年間で約150万円のコスト削減効果を達成しました。さらに、管理者の残業時間も月平均20時間減少し、システム化によるROI(投資対効果)は導入初年度でほぼ回収できています。ここまで短期間・低予算で成功したのは、プラットフォーム選定時に「業務フローの可視化」に強みを持つ開発会社を選び、発注リスクを最小化したためです。
予算オーバーを防ぐためのチェックポイント
予算150万円で上記の成果を得られたイマジン物流社の例に学び、予算オーバーを防ぐポイントを整理します。
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要件フェーズでの優先順位付け:機能をMVP/必須/将来追加予定に分ける
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見積もりの内訳比較:工数単価・ライセンス単価・保守料を複数社で比較
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定例ミーティングの設定:週次で進捗とコスト消化状況を共有
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リスク要素の早期洗い出し:API連携可否やデータ移行量を事前に確認
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追加工数のルール化:超過工数は承認フロー経由で予算調整
これらをチェックリスト化し、発注前に自社PJで必ずレビューすることで80%以上の予算超過リスクを事前に払拭できます。特に「優先順位付け」は、当初想定しなかった細部機能でコストが跳ね上がるのを防ぐ鍵となります。
拡張時に注意したいライセンス費用の増分
初期導入後、利用ユーザー数の増加や新規機能追加でライセンス費用が増えるケースがあります。例えば、月額10万円のプランで始めた企業が、
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ユーザー数50名→200名に拡大
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外部クラウドストレージ連携モジュール導入
を追加すると、ライセンス費は月額10万円→30万円、連携モジュールで月額+5万円と、年間で300万円超のコスト増になることも。これを避けるには、以下を検討しましょう。
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段階的プランアップ:最初から全ユーザー分のプランではなく、必要に応じてライセンスを追加
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モジュール単体検証:連携モジュールのPoC(概念実証)を小規模で実施し、本番化判断
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長期ライセンス割引の交渉:年間一括契約で5~10%割引を適用
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ユーザー権限の整理:管理者/一般ユーザーで機能アクセスを制限し、不要ライセンスを削減
これらの工夫により、拡張フェーズの見積もり精度を高め、予算管理をより厳格に行えます。特に「段階的プランアップ」では、最初の数か月は最小ユーザー数で契約し、利用実績をもとに調整するスタイルが効果的です。
開発以降のコストを最適化する方法
システム開発はリリースで終わりではなく、運用・保守フェーズが予算の大半を占めます。以下のポイントでコスト最適化を図りましょう。
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ナレッジ共有プラットフォーム活用
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ドキュメントやFAQを社内Wikiに集約し、問い合わせ工数を半減
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自動化ルールの拡張
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定期バッチやメール通知の自動化を随時追加し、手動作業を削減
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定期的なコード・設定レビュー
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プラットフォームアップデートに合わせて不整合箇所を修正
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運用レポートの自動生成
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データダッシュボード機能を活用し、月次レポート作成工数を80%減少
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エンドユーザーによるセルフヘルプ強化
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チュートリアル動画や対話型サポートを整備し、サポートチケットを削減
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これらの施策は、発注先と継続的に協議しながら計画的に進めることで、年間保守費用を20~30%削減する実績があります。なかでも「自動化ルールの拡張」は、小さな改善の積み重ねで大きな効果を生む王道アプローチです。