1. HOME
  2. ブログ
  3. アプリ・システム開発の基礎知識
  4. APIファースト時代の要件定義入門──エンジニアとビジネスを繋ぐ基礎知識
BLOG

ブログ

アプリ・システム開発の基礎知識

APIファースト時代の要件定義入門──エンジニアとビジネスを繋ぐ基礎知識

なぜいまAPIファーストが注目されるのか

モバイルアプリやWebフロントエンドが多様化し、同じ業務ロジックを複数チャネルで再利用するニーズが急速に高まっています。APIファーストとは「UIより先にAPI設計を完了させ、すべての機能をサービスとして公開する」設計思想です。システム開発会社に発注する際も、この思想を前提に要件を整理すると、受託開発側は早期にスコープを合意でき、工数ブレを最小化できます。さらに、後工程で別アプリを増設したい場合でもAPIを再利用できるため、中長期の開発予算を抑制できる点が経営層から支持される理由です。

APIファーストがもたらす5つのメリット

第一に、UI・バックエンドの並列開発が可能になり、リードタイムを25〜40%短縮できます。第二に、仕様書がOpenAPIなど機械可読フォーマットで統一されるため、テスト自動化やコード自動生成が容易になり、開発費用を削減できます。第三に、マイクロサービス化と相性が良く、スケールアウトしやすいアーキテクチャを最初から狙えます。第四に、外部パートナーとの連携ビジネスをAPI公開で素早く立ち上げられるため、新規収益機会の創出にも直結します。第五に、要件変更が発生してもエンドポイント単位で影響範囲を限定できるため、追加開発費用の見積もりが容易で、費用対効果の比較がシンプルになります。

API仕様書とドメインモデルの設計ポイント

APIファーストを成功させる鍵は「仕様書=Contract=ソースコード」という一本化です。OpenAPI Specification 3.1 でリクエスト/レスポンスを定義し、ビジネスオブジェクトを共通のドメインモデルとして整理します。たとえば「注文」と「在庫」を別エンティティに切り分け、ID体系やタイムスタンプの粒度を揃えることで、後続のETLや分析基盤へのデータ流用が容易になります。システム設計段階でドメイン駆動設計(DDD)を導入すると、用語のぶれがなくなりステークホルダー間のコミュニケーションコストが大幅に低下します。ここで重要なのは「後でAPIを追加する」のではなく、「最初に完全なユースケースを並べる」ことです。漏れが残ると変更契約が増え、開発費用相場を超える追加見積もりが発生する点に注意しましょう。

要件定義プロセスへAPIファーストを組み込む方法

伝統的な要求定義書はページ単位で機能要件を記述しますが、APIファーストではエンドポイント単位に落とし込みます。具体的には、ビジネスフロー図をイベントストームで洗い出し、各イベントをトリガーにエンドポイントを列挙。SwaggerHubやStoplightといったコラボレーションツールでプロダクトオーナーと開発ベンダーがリアルタイムにコメントし合い、レスポンスコードやエラーオブジェクトを確定させます。この時点で見積もり依頼を行えば、ベンダー側は明確なAPI数とペイロードサイズ、トラフィック想定からコストシミュレーションができるため、見積もり比較が可能になるわけです。結果として不要なバッファが省かれ、開発予算のコントロールがしやすくなります。

モックサーバーでフィードバックサイクルを高速化する

設計したOpenAPIファイルを利用し、PrismやMockoonでモックサーバーを即時生成すれば、フロントエンドエンジニアは実装初日からリアルデータに近い形で開発を開始できます。これにより「バックエンドが上がるまで画面が進まない」という待ち時間を大幅に削減可能です。さらに、QAチームは契約テストをPostman Collectionに落とし込み、自動でバリデーションをかけられるため、後半の受け入れテスト期間が短縮されます。モックはステージング環境にもデプロイしておくと、経営陣や業務部門が早期にUIを触れ、要件ずれを最小限で発見できます。

フロント・バックエンドの並列開発を組織に根付かせるコツ

APIファーストを掲げても、実際の開発組織がウォーターフォール型だと効果は限定的です。ポイントは「スプリント0」でAPIの骨格を固め、スプリント1以降はフロントとバックのチームを分離した上で、共通のDefinition of DoneにAPI契約テストの合格を含めること。さらに、GitOpsでインフラ構成をコード化し、プルリクエストに環境変数の差分を含めてレビューすれば、インフラ担当者をボトルネックにしない運用が可能となります。ここで役立つのがContract Testingツール(Pact, Dredd 等)で、CIパイプラインに組み込むことでインターフェース破壊を早期検知し、再見積もりのリスクを下げられます。

セキュリティとコンプライアンス要件をAPI契約に埋め込む

APIファーストとはいえ、セキュリティポリシーが後追いになると大きな手戻りを招きます。最初のOpenAPIファイルに securitySchemes を必ず定義し、JWTやOAuth 2.0のフロー、スコープ名まで合意しましょう。GDPR/APPIの準拠が必要な場合は x-dataClassification など拡張フィールドを使って個人情報の有無をタグ付けしておくと、のちに監査ログを作成する際に対象テーブルを自動抽出できます。加えて、RASP(Runtime Application Self-Protection)のエージェントをサイドカーで組み込む設計にしておけば、脆弱性診断の結果がCIパイプラインに自動的にフィードバックされ、ゼロデイの対応スピードを高められます。ペネトレーションテストの工数見積もりもエンドポイント数×テストケース数で算出できるため、ベンダー間の費用比較が容易です。

コストの見える化:APIごとのTCOダッシュボード

APIファーストを採用したプロジェクトでは、エンドポイント単位で総保有コスト(TCO)を追跡できます。GrafanaやDatadogにカスタムメトリクスを送り込み、CPU・メモリ使用量、外形監視のレイテンシ、リクエスト数をダッシュボード化しましょう。さらにFinOps基準で「リクエスト1000回あたりの円コスト」を算出すると、機能別の費用対効果が一目瞭然になります。予算超過が発生した場合はエラーバジェットと合わせて経営陣に報告すれば、追加投資の意思決定も透明化されます。こうした可視化は見積もり依頼フェーズから説明できるため、発注側の説得材料として強力です。

ベンダー選定チェックリストと発注時の質問例

システム開発会社を評価する際は「API設計の実績」「Contract Testingの自動化率」「OpenAPI Generatorの採用経験」を確認しましょう。見積もり依頼時には次のような質問を投げてください。

  • 過去プロジェクトでAPI変更が発生した回数と回避策は?

  • エンドポイント1件あたりの平均開発工数は何人日か?

  • スキーマ駆動開発を行う際のCI/CD構成は?
    回答の定量性が高い会社ほどプロセスが成熟しており、後からコストが膨らむリスクは低くなります。逆に「アジャイルで柔軟に対応します」とだけ述べる企業は要注意です。

APIガバナンス組織の立ち上げ方

APIの乱立を防ぐには、中央集権的なガバナンスチームを設置し、ネーミング規約やバージョニング戦略を統括します。Lintツール(Speccy, Spectral 等)を導入し、PR時にスタイル違反を自動レビューする仕組みを整えましょう。ポリシーに違反したAPIはマージできない運用にすることで、設計段階から品質を担保できます。契約レベルのSLA(99.9%可用性など)は、このチームが合意・改定を管理し、サービスレベルの齟齬を無くします。

レガシーシステムとの共存戦略

基幹システムをモノリスで保有している企業では、いきなりフルリプレイスは現実的ではありません。Strangler Figパターンを用い、まずは読み取り専用APIを作りつつ、段階的に書き込み系を移行します。メッセージキューを介したイベント駆動連携にすれば、ダウンタイムなしで移行可能です。ここで「レガシー側のデータモデルをAPI側に押し付けない」ことが成功の鍵になります。

継続的インテグレーション/デリバリー(CI/CD)の最適化

GitHub ActionsやGitLab CIでOpenAPIの差分検知→モックサーバー再生成→契約テスト→デプロイまでをワンストップ化すると、1日に数十回のリリースができる組織文化を構築できます。Blue-Green Deploymentを採用すれば、API利用者への影響を最小限に抑えつつローリングアップデートが可能です。

メトリクスとSLI/SLOで運用を数値化

可観測性を高めるには、リクエスト成功率、p95レイテンシ、サーキットブレーカー発動回数など、サービスレベル指標(SLI)を定義します。Error Budgetを設定し、予算を使い切ったら新機能開発を停止して安定化タスクに工数を再配分する仕組みを整えましょう。これにより、保守運用の見積もりが「単なる月額保守費」ではなく「SLI達成度による変動型コスト」へと進化し、経営視点でも納得感が高まります。

ビジネス成長とともに拡張するための契約バージョニング

製品ラインが増えるとエンドポイントが肥大化しがちです。URL埋め込み型(/v2/…)ではなく、ヘッダーバージョニングやメディアタイプネゴシエーションを使うと、旧版を残しつつ新機能を追加できます。Semantic Versioningを契約に適用し、Breaking Changeが発生するタイミングを半年前にアナウンスすると、外部パートナーとの信頼関係を保てます。

失敗事例から学ぶアンチパターン

国内SaaS企業A社は画面要件を優先しAPIを後付けした結果、同義語のエンドポイントが乱立。Contract Testingを導入していなかったため、利用企業に未通知のBreaking Changeをリリースし、訴訟寸前まで発展しました。対策として中心モデルを再設計し、APIファーストへ移行。初期コストは増えましたが、年間障害件数を70%削減し、結果としてサポート費用が大幅に下がりました。

まとめと次のアクション

APIファーストは「設計ドキュメントの形式が変わる」だけの話ではありません。見積もりの精度、発注先選定、運用コスト、ビジネススピード――あらゆる領域を横断する経営戦略です。まずは小規模サービスでOpenAPI中心の開発フローを実践し、成功指標を数字で示しましょう。その成功事例を社内外に共有すれば、上層部の理解も得やすく、多チーム展開がスムーズに進みます。

お問合せ

不明点やお見積りの依頼などお気軽にください。




問い合わせを行う

関連記事