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内製と外注の狭間を見極める!初めてのシステム開発基礎知識

事業担当者が初めてシステムを検討する際、まず悩むのが「自社でシステムを作るべきか、それとも開発会社に発注すべきか」という点です。本記事では、ITに詳しくない経営者や初めてシステム開発に携わる方を対象に、自社開発(内製)と外注それぞれのメリット・デメリットや、予算・費用の相場感をできるだけ噛み砕いて解説します。最終的には、システム開発会社の選び方発注に向けた予算準備費用相場の把握方法まで触れることで、初めての方でもスムーズに意思決定できるようガイドします。

なぜ今「内製 vs 外注」を考えるべきか?

近年、日本企業ではDX(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードが流行し、自社システムを持つことで競争力を高める動きが活発化しています。とはいえ、中小規模の企業や部門ではITリテラシーが高い人材が不足しがちです。そのため、手軽に無料ツールやExcelで代替しようとすると、半年後にはツールが限界を迎え、結局システム開発会社に発注して追加費用が発生するという事態が起こりやすいです。
一方で、自社にエンジニアやプログラミングに詳しい人がいる場合は、「とりあえず内製でプロトタイプを作ってみる」という手段も選べます。しかし、内製には運用サポートや保守の手間が常にかかるため、結果的に費用対効果が悪化するケースも少なくありません。
そのため、発注前に「自社で本当に最後まで運用できるか」「予算や費用相場を正しく把握できているか」を検討することが極めて重要です。ここからは、内製か外注かを判断するためのポイントを順を追って紹介します。

内製(自社開発)のメリットとデメリット

内製のメリット

  1. 開発スピードをコントロールしやすい

    • 自社メンバーだけで簡易的なツールを作る場合、発注コストがかからないため、気軽にプロトタイプを作成できる。

    • 仕様変更やバグ修正も自分たちで対応でき、他社との調整コストが不要。

  2. ノウハウが蓄積しやすい

    • 開発したコードや仕様のドキュメントが社内に残るため、次回以降のシステム改善に活かしやすい。

    • 内製化することで、ITリテラシーが自然と高まり、運用・保守の負担も社内で分散できる。

  3. 長期的なコスト削減が見込める場合がある

    • 一度システムを構築すれば、ランニングライセンス費用を抑えられる場合がある。

    • 自社要件に合わせた最小限の機能だけを搭載することで、システムの過剰開発を防ぎ、無駄な費用を省ける。

内製のデメリット

  1. 人件費や技術的負担を見落としがち

    • 一般に「開発会社へ発注する方が高い」と考えられがちですが、自社エンジニアの人件費(残業代、採用コストなど)を含めると、実際の総コストは外注に迫ることもある。

    • システム運用や定期的なメンテナンスを自社で賄う必要があり、業務負担が増大するリスクがある。

  2. 品質やセキュリティリスク

    • プロの開発会社が持つコード品質管理セキュリティ対策と比較して、内製のプロトタイプは脆弱性を放置しやすい。

    • 運用開始後にハッキングや情報漏洩が発生した場合、訴訟リスクや信用失墜の費用は計り知れない。

  3. スケールしづらい・技術の陳腐化リスク

    • 内製したシステムが一定規模を超えると、保守性が低下し追加機能実装が困難になるケースがある。

    • 最新技術のキャッチアップが追いつかず、数年後にはシステム改修に多額の予算が必要となる可能性がある。

以上のように、内製には自由度の高さやノウハウ蓄積といったメリットがある一方で、人件費・維持コスト・品質リスクは見逃せません。小規模な業務改善や簡易的なプロトタイプであれば内製が有効ですが、長期的に本番利用を考える場合は注意が必要です。

外注(開発会社への発注)のメリットとデメリット

外注のメリット

  1. プロのノウハウと品質担保

    • 開発会社は開発フローやテスト工程、セキュリティ対策を体系化しており、業務要件に合わせた堅牢かつ高品質なシステム提供が可能。

    • 最近ではクラウド環境の利用が主流のため、インフラ構築も含めてワンストップ対応してもらえるケースが増えている。

  2. コストの可視化と相場感の把握

    • 発注前に要件定義を行い、工数や見積金額が明示される。たとえば「画面設計20工数、開発50工数、テスト20工数、インフラ構築10工数」という形で内訳が示されるため、予算計画が立てやすい

    • 外注することで、エンジニアの採用や教育コストを削減でき、初期投資としての費用相場を把握しやすい

  3. 運用保守も一括して依頼可能

    • 多くの開発会社では、開発後の運用保守契約(月額)を用意しており、トラブル発生時の対応や定期アップデートを任せられる。

    • 運用・保守をパートナーに任せることで、自社リソースをコア業務に集中させられる。

外注のデメリット

  1. 初期費用が高く感じる場合がある

    • 要件定義が曖昧なまま発注すると、見積もり後に追加要件や仕様変更で工数が膨らみ、総額が相場より高くなるリスクがある。

    • とくに中小企業向けのシステム開発では、最低限必要な機能だけで300~500万円程度はかかるケースが多く、予算感を誤ると途中で資金が足りなくなる恐れがある。

  2. 開発会社選びの失敗リスク

    • 開発会社の技術レベルは玉石混交であり、実績が少ないベンチャーやフリーランスを安易に選ぶと、品質や納期の保証が弱い場合もある。

    • 発注先を間違えると、要件通りに動かないシステムが納品されるサポートが杜撰でバグ修正に費用と時間がかかるなど、余計なコストを生む可能性がある。

  3. コミュニケーションコスト

    • 自社と開発会社の間に距離や文化の違いがあると、要件や仕様のすり合わせに時間を要し、結局は開発期間が延びて費用が増えるケースがある。

    • 特にITに不慣れな担当者は、「言ったことが正確に伝わっているか」「隠れた要件が漏れていないか」を常に意識しなければならないため、コミュニケーションの煩雑さがストレスになる

以上のように、外注には品質担保やコストの可視化といったメリットがある一方で、初期費用の高さや選び方次第での失敗リスクが存在します。特に、開発会社選びがプロジェクト成功の鍵になるため、選定プロセスは慎重に行う必要があります。

開発会社の選び方:失敗しないチェックポイント

外注を選択する場合、以下のポイントを参考に開発会社選びを進めましょう。

  1. 過去実績と業界知見

    • 類似業態や規模感の事例があるかを確認。たとえば「飲食業向けPOS連携」「物流業向け在庫管理」など自社と近いユースケースを経験している会社は、要件定義段階から具体的な提案が期待できる。

    • 分かりやすい発注先選定基準として、「◯◯業界の開発実績〇件」「主要顧客名」「稼働中のシステム稼働期間」を公開しているかをチェック。

  2. 見積書の内訳明示と相場感の把握

    • 見積書に「要件定義:○○工数、設計:○○工数、開発:○○工数、テスト:○○工数、インフラ:○○工数、運用保守:月額○○円」などが詳しく記載されているかを確認。

    • 相見積もりをとり、「○○業務でだいたい○○万円」という相場を把握。これにより、提示金額が高すぎるか適正かを判断しやすくなる。

  3. 開発プロセスとコミュニケーション方式

    • 開発手法(アジャイル、ウォーターフォールなど)やコミュニケーションツール(Slack、Teams、メール会議の頻度)が自社に合っているかを確認。

    • 要件定義フェーズの打ち合わせ回数レビューのタイミングが明確に定義されていると、すれ違いによる仕様漏れや手戻りが減る。

  4. 保守・運用サポート体制

    • 納品後の保証期間(バグ対応や軽微な修正)が何か月あるか、運用保守契約の費用相場(月額○○円)や対応時間帯(24時間/365日対応か、平日9~18時のみかなど)をチェック。

    • サポート窓口が明確か、問い合わせからレスポンスまでの平均時間サポート実績件数を確認することで、運用時の不安を軽減できる。

  5. 技術力とセキュリティ意識

    • エンジニアの所属証明(資格保有や技術ブログの公開)で技術力をある程度推し量る。

    • セキュリティ対策(脆弱性診断、OWASP対応など)の方針があるか、第三者によるセキュリティ監査実績があるかを確認。

これらのチェックポイントを押さえることで、発注段階でのリスクを最小限に抑えられ、開発会社とのトラブルを避けやすくなります。

予算・費用相場の把握方法

初めてシステム開発を検討する際、予算をどのくらい見積もればいいか分からないという声をよく聞きます。以下に、費用相場を把握するための具体的な方法をまとめます。

  1. 相見積もりを最低3社は取る

    • 同じ要件でも、会社によって単価(工数×単価)の前提が異なるため、数社の見積額を比較することで相場感がつかめる

    • ただし、要件定義が曖昧だと「要件定義工数を見積もりに含めていない」「追加費用前提で要件を書いていない」など差が生じるので、要件定義資料はできるだけ詳しく作成する。

  2. 類似プロジェクトの費用情報を参考にする

    • 業界団体や中小企業向け支援機関が公表する「中小企業DX推進手引き」などのガイドで、簡易的なポータルシステムや社内業務システムの費用相場を確認する。

    • 例えば「小規模向けWebシステム開発:300~500万円」「スマホアプリ開発(iOS/Android両対応):500~800万円」など、相場情報がまとまった公的資料を活用する。

  3. 要件ごとに開発工数をざっくり分解する

    • たとえば、画面数が5つ、データ項目が50個ある程度の簡易な入力フォーム型Webシステムなら、設計工数20工数、開発工数40工数、テスト工数10工数、インフラ構築工数10工数で合計80工数。

    • 単価を30,000円/工数と仮定すると、80工数×30,000円=240万円。この金額は「要件カバレッジを絞った最低限システム」の相場感として考え、要件が複雑になるほど工数を積み増すイメージを持つ。

  4. 見積り後に必ず「内訳確認」「差異分析」を行う

    • 提示された見積書を見て「要件定義、設計、開発、テスト、インフラ」という項目ごとに工数と単価が妥当かをチェックする。

    • 仮に相場より高いと感じた場合は、開発会社に「◯◯工数の内訳を具体的に教えてください」と質問し、納得できなければ他社の見積書を再度参照して比較検討する。

これらのステップを踏むことで、発注前に「自社の要件を実現するには最低〇〇万円はかかる」という予算目安をしっかり見極めることができます。たとえ最終的に内製を選んだとしても、相場感を知っておくことで、自社での工数評価や人件費引用を行う際の判断材料になるため、必ず外部相見積をとることをおすすめします。

システム開発の基本フェーズ

システム開発の流れは大きく分けると「要件定義」「設計」「開発」「テスト」「リリース」の5つのフェーズに分かれます。開発会社に発注する場合も内製で進める場合も、この基本フェーズの流れを理解しておかないと、途中で「仕様があいまいだった」「テストで想定外のバグが発覚して予算オーバーした」というようなトラブルが発生しやすくなります。ここでは、各フェーズで何を行い、どのようなポイントに気を付ければよいかを順を追って解説します。

最初のフェーズは要件定義です。システム化する業務のゴールを明確にし、「どの業務をどのようにシステム化するのか」「いつまでにどこまでの機能を使えるようにするのか」を具体的に言語化します。ITに詳しくない方でも読みやすいように、箇条書きやユースケース図を活用して、「発注ボタンを押すと画面遷移して在庫を自動チェックし、発注履歴に残る」といったフローを整理します。ここで曖昧なまま進めると、後工程で要件変更による追加費用が発生しやすくなり、開発会社に見積もりを取った後に予算を超過してしまうリスクがあります。要件定義の段階で開発会社にざっくり相場感を確認し、「この機能は相場で〇〇万円くらいかかりますか?」と質問することで、後々の費用トラブルを防げます。また、内製で進める場合でも、要件を明確にしたうえで「この画面のボタンを押すと何をするのか」「どんなデータをDBに保存するのか」を整理しておかないと、自社エンジニアの工数予測が大きく外れてしまい、結果的に徒労になってしまうこともあります。

続いて設計フェーズでは、要件定義でまとめた機能をどう実現するかを詳細に設計します。画面設計においては、ユーザー(現場担当者や管理者)が使いやすいように入力項目を整理し、誰がどの画面で何を操作するのかをフローチャートや画面遷移図で可視化します。たとえば、エクセルで管理していたシステムの自動メール送信機能を新たにスマホアプリに追加する場合、「ホーム画面→データ入力→送信確認ダイアログ→サーバー連携→成功/失敗メッセージ」という流れを詳細に書きます。同時に、バックエンドのDB設計やエンティティ設計も行います。ここで重要なのは、将来的に他システムと連携する可能性があるかどうかを考慮することです。たとえば、「将来ERPともデータ連携するかもしれない」といった要件があれば、テーブル設計の段階でERP連携用のID項目を予め作成しておくことで、後々の費用を抑えられます。要件によっては、クラウドサービスのAPI連携が必要かどうかも要件定義段階で確認しておく必要があるため、開発会社を選ぶ際には「クラウドAPI連携の経験が豊富か」「インフラ構築も含めてワンストップで請け負えるか」をチェックしましょう。

これら設計フェーズの品質が開発コストやテストコストに直結します。設計書の粒度が足りないと、エンジニアが実装する際に意図が伝わらずに手戻り工数が増えてしまうケースが頻繁に見られます。テスト観点でいうと、テストケース設計は設計フェーズでほぼ固めておくことが望ましく、「どのようなパラメータを入力したらエラーが出るか」「境界値テストはどうするか」を具体的に記載します。テストケースがしっかりしていれば、検収時の合格基準も明確になるため、後工程のQAコストを10~20%削減できるというメリットがあります。

設計・実装フェーズの注意点

設計が完了すると次は実装フェーズ、いわゆるコーディング作業です。開発会社に発注する場合は、エンジニアが設計書に従って実装を進めます。一方、内製の場合は自社のエンジニアがコーディングを担当しますが、プログラミング技術やフレームワークの選定で悩むことが多々あります。たとえば、Webシステムを構築する際にはRuby on Railsや Laravel、Spring Bootなどいくつか選択肢がありますが、それぞれ開発スピードや費用相場が異なります。Railsは開発スピードが速い反面、エンタープライズ規模の大規模システムではパフォーマンスチューニングにコストがかかるケースがあるため、自社の要件や予算を鑑みてどのフレームワークを選ぶかを検討する必要があります。開発会社選びのポイントとして、どの技術スタックでの開発実績が多いかを確認し、要件に最適な選択を行うことがコスト抑制につながります。

実装フェーズで気を付けるポイントは以下のとおりです。

  • コミット粒度とブランチ運用:自社開発でも外注でも、Gitなどバージョン管理を用いた場合に、コミット(修正履歴)の粒度が粗すぎると何をしたのか後から把握しづらくなるため、「〇〇機能実装:画面A」「〇〇機能実装:API」といった粒度でこまめにコミットし、ブランチ運用を整備しましょう。

  • コードレビューとペアプログラミング:品質担保のために、必ずレビュー工程を設けることが重要です。開発会社に依頼する場合、「最低2名のレビュー体制」を契約の要件に含めることで、品質の担保と要件漏れ防止に役立ちます。内製でも、自社エンジニア同士でペアプログラミングを導入すると、コード品質が向上し、バグを早期発見できるため、テストコストの削減に寄与します。

  • セキュリティ対応:特に個人情報を扱うシステム開発では、SQLインジェクションやXSS(クロスサイトスクリプティング)などの脆弱性対策を怠ると、後日法的リスクや修正費用が発生します。開発会社を選ぶ際には、脆弱性診断レポートやOWASP Top 10への対応実績があるかを確認し、必要に応じて第三者によるセキュリティ監査を依頼できるかチェックしましょう。

実装フェーズと並行して、フロントエンドの動作確認モバイル対応なども同時に進めることがあります。たとえばWebシステムでスマホ最適化が必要な場合、レスポンシブデザインを前提にUIを設計し、画面設計段階で「どの要素が優先して表示されるか」「タップ領域は適切か」を明確にします。ここを怠ると、リリース後にユーザーから「スマホで使いづらい」というクレームが来て、その対応に追加費用が発生することが多々あります。

また、APIのバージョニングを意識して設計しておくことも重要です。リリース後に仕様変更が生じた際、旧バージョンを残したまま新バージョンをリリースできるように設計すると、移行期間中のシステム稼働率を維持できます。APIバージョンを後付けするとリファクタリング工数が増えて費用が跳ね上がるため、要件定義段階で「APIは必ずバージョン管理すること」を契約書に盛り込むことをおすすめします。

テストフェーズと品質保証の進め方

実装がある程度進んだら、テストフェーズに入ります。テストは「ユニットテスト」「結合テスト」「E2Eテスト」の3種類が基本です。ユニットテストでは、個々の関数やモジュールが想定どおりに動作するかをプログラムレベルでチェックします。たとえば「在庫数量がマイナスにならないか」「日付フォーマットが正しく変換されているか」など、細かなロジックの正当性を担保します。結合テストでは、実際にフロントエンドからAPIを叩き、DBにデータが登録されるまでの一連の流れを検証します。ここではテストケースを事前に整理し、「〇〇画面で◯◯ボタンを押すと△△が登録される」といった実際の業務フローを忠実に再現するシナリオを作成します。

さらに最も重要なのが、E2E(End to End)テストです。これは実際にユーザーが操作する環境に近い状態で、定義された操作を順に実行し、システム全体が正常に稼働するかを確認するテストです。たとえば「スマホアプリで写真アップロード→APIでS3に保存→管理画面で画像表示→レポート出力」という一連の流れを自動化ツールで検証します。E2Eテストを自前で内製すると、自社エンジニアの工数が膨らむため、外注する場合は「E2Eテスト自動化を含めた見積を依頼」し、必要に応じて契約時にテスト自動化ツールのライセンス費用を確認しておくとよいでしょう。

テストフェーズで見落としがちなポイントは、エラーパターンや異常系のテストです。正常系だけでなく、「在庫が不足したときにエラーメッセージが正しく表示されるか」「ネットワーク切断時の再試行ロジックが動作するか」など、障害発生時の挙動もテストケースに含める必要があります。これを怠ると、本番稼働後に利用者から「システムが固まって使えない」という不具合報告が入り、緊急対応で予算外の費用が発生するケースが後を絶ちません。

テスト中に見つかったバグは、開発フェーズと同様に優先度をつけて対処します。一般的には「クリティカル(本番停止リスク)」「メジャー(主要機能に影響)」「マイナー(UIの誤表示など)」などの分類を行い、緊急度に合わせた修正スケジュールを組むことで、限られたテスト期間内に優先度の高い問題を確実に潰すことができます。開発会社へ発注する場合は、契約時に「テスト期間中のバグ対応は何回まで無償対応」「追加テストバグ発生時の単価」を明確にしておくと、発注後にトラブルが発生しても追加費用の見込みを把握できます

本番リリースと運用保守体制の構築

テストが完了し、品質が担保されたらいよいよ本番リリースです。本番環境への移行時にはリリース手順書を作成し、「DNS切り替え」「データベースマイグレーション」「キャッシュクリア」「CDNキャッシュ削除」などのステップを明確化しておきます。これにより、リリース当日に想定外のトラブルが起きても、原因の切り分けをスムーズに行えます。たとえば、リリース後に「特定の画面だけ文字化けした」というバグが出た場合、キャッシュ関連の設定ミスか、デプロイ漏れかといった原因を迅速に判断しやすくなります。

本番リリース後は、運用保守体制をいかに整えるかが重要です。運用保守には主に「サーバー監視」「DB監視」「バックアップ管理」「セキュリティパッチ適用」「問い合わせ対応」の5つの要素があります。開発会社に外注した場合は、月額で運用保守費用を設定し、「サーバー監視:月額1万円」「DBパッチ適用:年2回」「問い合わせ対応:平日9~18時対応」といった契約内容を決めておくことが望ましいです。一方、内製する場合は監視ツールの選定(例:Zabbix、Datadog、CloudWatch)やバックアップスクリプトの自動化運用マニュアルの整備などを自社エンジニアで行う必要があります。

特に注意すべきは障害対応のフローです。システム障害が発生した際に「誰が何時までに対応するか」を社内体制で決めておかないと、電話やメールで問い合わせが殺到し、対応が遅れて機会損失に繋がる恐れがあります。そのため、運用保守契約を結ぶ際には、SLA(Service Level Agreement)を明確にし、「障害発生時の初動対応時間:2時間以内」「復旧までの目標時間:4時間以内」「復旧手順をまとめたプレイブック提供」などを取り決めておくことが大切です。

運用保守費用の相場感としては、開発費用の10~15%程度/月を見込むのが一般的です。たとえば、開発費用が500万円であれば、月額5万~7万5千円程度を運用保守費用と予算化するとよいでしょう。内製の場合は、人件費換算で「エンジニア1名分をアサインし、年間で約600万円」かかると考えられますので、中長期的に何が得かを比較する必要があります。

また、運用保守では定期的な振り返り(レビュー)ミーティングを実施し、障害発生件数やユーザーからの要望、システムログをもとに機能改善やコスト削減の提案を行うことで、システムを継続的に進化させられます。開発会社と運用保守契約を結ぶ場合、毎月または四半期ごとに報告会を行い、次期フェーズや追加開発をどう進めるかを相談すると、無駄なコストを抑えた改善サイクルを回せるようになります。

内製・外注後の運用体制差とコスト管理

内製と外注を比較したとき、大きく異なるのが運用保守体制の作り方ランニングコストの把握です。自社内で運用する場合はエンジニアが常駐しているので、緊急度の高い障害にもすぐ対応できるというメリットがあります。しかし、その反面、人件費が固定費としてかかり続けるため、システム稼働率が高くない期間でも一定のコストが発生します。具体的には、エンジニア1人分の人件費が年収600万円だとすると、月あたり約50万円のコストになり、これは小規模企業にとっては大きな負担になります。

一方、開発会社に運用保守を外注する場合は、月額5万~15万円程度で必要最低限の対応を依頼できることが多く、コストを固定化せずに利用頻度に応じた支払いが可能です。たとえば「平日9時~17時の対応のみ」「障害発生時にのみ電話サポート」など、サービスレベルに応じて料金プランを選べるため、自社の予算や利用量に合わせたコスト管理がしやすくなります。

運用保守費用は、システム規模や利用ユーザー数、トラフィック量によって変動します。たとえば、利用者が数十名の業務システムであれば月額5万円程度で十分ですが、数百~数千ユーザーがアクセスするポータルサイトの場合は、サーバーの冗長化や負荷分散対応、24時間365日の監視体制を追加する必要があり、運用保守費用は月額15~30万円程度になるケースがあります。開発会社に発注する際、見積時に「運用保守費用相場はどれくらいか」を必ず確認し、契約書に具体的な数字を明記することで、リスクを抑制できます。

また、運用保守費用とは別に、サーバーやクラウドの利用料も発生します。最近ではAWSやAzure、GCPといったクラウドを利用するケースが多く、インスタンスやストレージ、データ転送量に応じた従量課金が主流です。たとえば、EC2やCompute Engineの小規模インスタンスを2台冗長構成で稼働させる場合、月額約3~5万円のサーバー利用料が発生します。ここにバックアップストレージやDB利用料(RDSやCloud SQLなど)を加えると、月額7~10万円程度のインフラ費用が必要です。開発会社に発注する際は、インフラ構築費用(初期)とランニングコスト(毎月)を別途見積もりに含めてもらい、自社でクラウドサービスのアカウントを作る場合は、想定トラフィック量やストレージ容量を開示し、最適なプランを提案してもらうことが重要です。

最後に、運用保守のコスト管理と改善を行うためには、FinOpsの考え方を取り入れると効果的です。具体的には、クラウドの利用状況を定期的にモニタリングし、コストアラートを設定することで、思わぬ課金増加を防げます。たとえば、AWSでは「Billing Alarm」を使うと、予定予算を超えそうなときにメール通知を受け取ることができるため、アラートを見てすぐにリソースを見直し、オートスケーリング設定を最適化するといった改善が可能です。

発注後に起こりやすいトラブル事例と対策

システムを発注したあとに、「品質トラブル」「納期遅延」「追加費用の請求」といったトラブルはつきものです。ここでは代表的な失敗事例とその対策を紹介します。

事例1:仕様変更による追加費用トラブル

あるA社では、要件定義の段階で「マスターデータは別途Excelで管理し、CSVインポートで反映する」と開発会社に伝えていました。本番直前になって「マスターデータを画面上で直接編集したい」という要望が発生し、追加でCRUD機能の実装が必要になりました。その結果、開発3週間、費用50万円相当の追加見積が発生し、予算超過に陥りました。

対策

  • 要件定義時に、「マスターデータ編集画面の有無」を含め、想定するすべての業務フローをできるだけ網羅して書き出しておく。

  • 開発会社との契約書に「要件変更時には必ず文書で見積り依頼し、承認後に作業開始とする」旨を明記し、曖昧な口頭指示での追加工数発生を防ぐ

  • プロジェクト開始後も要件が流動的な場合は、アジャイル開発を選択し、スプリント(短期間)ごとに要件優先度を見直すことで、予算内でのスコープ調整が可能になる。

事例2:納期遅延によるビジネス機会損失

B社では、新規顧客向けの営業支援ツールを開発会社へ委託しましたが、開発中に要件定義が曖昧だったため、テストフェーズで大量のバグが発生。結局当初のリリース予定から2か月遅れ、新規顧客獲得キャンペーンを逃してしまい、年間で約200万円の売上機会を失いました。

対策

  • 発注時に「リリースマイルストーンを定め、遅延時のペナルティや報奨金」を契約に含めることで、開発会社の責任感を高める。

  • 要件定義の段階でプロトタイプ(MVP)を作成し、早期に社内レビューとユーザーテストを実施して、要件漏れや仕様齟齬を抑制する。

  • テスト工程に十分なバッファ期間を確保し、本番リリース前にユーザー受け入れテストを必ず行うことで、想定外のバグを事前に検出し、納期遅延リスクを最小化する。

事例3:運用開始後のサポート不備

C社では、開発会社との契約で「開発完了=納品」としてしまい、運用保守契約を結んでいませんでした。リリース後にバグやサーバートラブルが頻発しましたが、開発会社からは「追加保守が必要」という名目で毎月数十万円の見積が提示され、ランニングコストが膨張してしまったため、本来の業務改善効果が得られなくなりました。

対策

  • 発注前に開発と運用保守をセットで見積り、契約書に「運用保守費用(月額〇〇円)」「保守対応範囲(バグ修正、パフォーマンスチューニング、サーバー監視など)」を明確に含める。

  • 納品後のサポート期間(例:6か月間無償バグ対応)を契約に盛り込み、プロジェクト完了後も安心して運用できる体制を整える。

  • 自社内で最小限の運用体制を構築する場合は、サーバーログの見方や一次対応方法をドキュメント化し、外部への問い合わせコストを抑制する。

これらのトラブル事例から学べるのは、事前にリスクを洗い出し、契約書に反映することの重要性です。要件定義が終わるタイミングで開発会社と対等に議論し、「仕様変更・納期遅延・運用サポート」をどうカバーするかを明示しておくだけで、後々のトラブルを大きく軽減できます。

まとめと具体的なアクションプラン

ここまで、内製と外注の違い、開発会社の選び方、予算・費用相場、システム開発の基本フェーズ、トラブル事例と対策について解説してきました。最後に、この記事を読んだ事業担当者がすぐに実行できる具体的なアクションプランをまとめます。

  1. 相場と内訳を把握したうえで、相見積もりを3社以上依頼

    • サイトや中小企業支援機関が提供する相場情報をチェックし、自社要件に近い事例をピックアップ。

    • 詳細な要件定義書(業務フロー、画面イメージ、データ項目など)を作成し、開発会社に提示して相見積もりを取得。

    • 見積書には「要件定義」「設計」「開発」「テスト」「インフラ」「運用保守」の内訳が明記されているかを確認。

  2. 要件定義フェーズでリスク要素を洗い出し、トラブル防止策を契約に明記

    • オフライン対応、ERP連携、セキュリティ要件など含めるべき項目を網羅し、曖昧な表現を排除。

    • 仕様変更時の見積もり・承認手順や、納期遅延時のペナルティ、運用保守費用を明確に定める。

    • 自社内のITリテラシーを向上させるため、必要に応じて要件定義ワークショップを実施して社内合意を得る。

  3. 設計・開発フェーズのポイントを把握し、品質担保とコスト管理を徹底

    • 設計書はフローチャートや画面遷移図を活用し、エンジニアにも理解しやすい形式で作成。

    • コーディング時はコミット粒度を細かく分ける、コードレビューを必ず実施し、セキュリティ対策(脆弱性診断、OWASP対応)を契約前に確認。

    • フレームワークやクラウドサービスを選択する際、開発スピードと長期的な保守コストを考慮した技術選定を行う。

  4. テストフェーズで異常系テストまで網羅し、QAプロセスを確立

    • ユニットテスト、結合テスト、E2Eテストを併用し、障害発生時の動作(ネットワーク断、DBエラーなど)も含めてテストケースを設計。

    • テスト自動化ツールの導入を検討し、テスト実行とレポート化を自動化することで、テストコストを削減し品質を担保。

    • テスト工程終了後、ユーザー受け入れテスト(UAT)を実施し、実際に使う担当者に操作してもらうことで、思わぬ使いづらさや要件漏れを早期発見する。

  1. 本番リリース時は運用保守体制を整え、トラブル時の対応フローを明確化

    • リリース手順書を作成し、ロールバック手順や問い合わせ先、責任分担を予め決定。

    • 運用保守費用は、開発費用の10~15%目安/月を想定し、開発会社に運用保守を含めた見積を依頼。

    • クラウドコストはFinOps思考で管理し、予算アラートや利用料分析を定期的に実施して無駄を削減する。

  2. 運用定着化のためのユーザー教育とフィードバックループを構築

    • リリース後すぐに操作マニュアルや社内勉強会を実施し、システムの使い方や注意点を周知。

    • 運用保守の一環として、定期的にユーザーヒアリングを行い、改善要望を取り込む仕組みを整備。

    • 改善要望は次期フェーズの検討材料として、優先度をつけて検討し、コスト見積もりを行うことで、運用継続のなかでシステムの価値を高め続ける。


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