「画面仕様書の限界」を超える開発へ|UIフィードバックループを導入するという発想

システム開発依頼における要件定義や画面設計は、仕様書をベースに合意を取りながら進めるのが一般的です。しかし、実際に完成したシステムを使い始めてから「あれ、想像していた使い勝手と違う」「この操作、分かりづらい」といった“ギャップ”に直面する企業は少なくありません。
その背景にあるのが、「画面仕様書ベースの一方通行の設計」に頼りすぎているという構造です。
本記事では、このようなギャップを根本から解決するアプローチとして「UIフィードバックループ設計」を紹介します。これは、画面仕様の完成をゴールとせず、利用者の声や行動を反映し続ける“循環型の画面設計プロセス”です。
受託開発においても現実的に導入可能な方法として、開発会社との連携のあり方や運用設計まで含めて実践的に解説します。
なぜ「画面仕様書」だけでは不十分なのか?
従来の受託開発では、画面設計=仕様書で定義された要素を正確に実装することが重要視されてきました。しかしこの方法には、以下のような構造的な限界があります。
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実装前にすべてのUIパターンや動作を想定しきれない
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利用者の行動が分からないまま決めるため仮説だらけになる
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フィードバックの反映が「リリース後の改修」に先送りされる
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コストやスケジュールの都合で改修のハードルが高くなる
結果として、仕様書通りには作られたが使い勝手が悪いシステムが出来上がってしまうのです。
UIフィードバックループとは何か?
UIフィードバックループとは、ユーザーの操作・反応・行動ログなどの定性・定量情報を定期的に収集・分析し、それをUI/UXの改善に継続的に反映していく仕組みです。
この考え方はSaaSやモバイルアプリでは一般的ですが、受託開発や業務システム開発の世界ではまだ広く浸透していません。
UIフィードバックループは以下のようなフェーズで構成されます:
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仮説にもとづいたUI設計(画面仕様書作成)
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初期利用ユーザーからの定性フィードバック収集
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行動ログやヒートマップなどの定量データ収集
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改善点の洗い出しと優先順位付け
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改修案の提示と実装
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再度ユーザーに利用してもらい評価・検証
このサイクルを短期間で回すことで、「仕様書にできない気づき」を反映しやすくなるのです。
なぜこのプロセスが受託開発でも機能するのか?
受託開発の多くは「完成=納品」であり、継続的な改善のイメージが湧きにくいかもしれません。しかし、以下のような体制を前提にすれば、実はこの手法は十分現実的です。
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保守契約や月次開発契約の中に「UI改善バッファ」を設ける
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初期リリース前にステージングで仮ユーザーによる仮運用を行う
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Google Analytics、Hotjar、Clarityなどの行動分析ツールを導入
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定期的なヒアリングMTGをスプリントの1ステップに組み込む
これにより、開発会社との関係性が「請負」から「共創」へと進化し、仕様書に頼らずに本質的な改善が行える体制になります。
UIフィードバックループ設計のための実務ポイント
実際にこの設計を導入する際、開発会社と共有しておくべき技術・実務的ポイントを紹介します。
UI改善のトリガー条件を明文化する
「どんなときにUIを見直すのか」を事前に定義しておくと、曖昧な不満や属人的な要望に振り回されずに済みます。たとえば:
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同一操作に対するエラー発生率が一定以上になった
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離脱率が特定画面で20%を超えた
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1画面内の操作が3ステップ以上になった など
「仮説と目的」を明記した画面設計書を作る
通常の画面仕様書に、「このUIはなぜこのように設計したのか?」を明記するだけで、フィードバックの議論が深まり、改善方針を共有しやすくなります。
フィードバックの受け皿となる運用設計を用意する
フィードバックを受け取るための「運用設計」がなければ改善サイクルは回りません。以下のような体制があると理想的です:
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社内ユーザーが意見を出せる専用フォーム/Slackチャンネル
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改修候補リストを開発会社と共有するタスク管理ツール(Backlog/Notionなど)
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利用状況を月次でレポート化して振り返るサイクル
UIフィードバックループを導入して得られる成果
この取り組みによって、システムに以下のような変化が生まれます:
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利用者にとって本当に使いやすいUIが形になっていく
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説明書やマニュアルの作成コストが削減される
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現場のストレスが減り、システム定着率が向上する
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改修時の工数見積もりがしやすくなる
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開発会社との関係性が改善サイクル中心の建設的なものになる
つまり、短期的な開発工数よりも「長期的な費用対効果」を最大化するための手法と言えるのです。
開発依頼時に確認すべき質問項目
このようなフィードバックループの実現可能性を探るために、開発会社に次のような質問をしてみてください。
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「UI改善の方針を提案いただける体制はありますか?」
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「利用ログの取得や分析の支援は可能ですか?」
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「初期リリース後の改善フェーズを組み込む提案は可能ですか?」
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「仮説と検証をセットにした画面設計の経験はありますか?」
こうしたやり取りを通じて、「完成品を作るだけの業者」か「課題解決に寄り添うパートナー」かが見えてくるはずです。
まとめ:「仕様書で正しく作る」だけでは、システムは活きない
システム開発では、設計書どおりに開発することが当然とされます。しかし、特にUI/UXにおいては「人の使い方」が前提となるため、仕様書では表現しきれない“暗黙の前提”が多く含まれています。
その前提を前提のまま放置せず、開発後も見直し続ける。それが「UIフィードバックループ設計」です。
システム開発会社を選ぶ際には、このような「長期運用を前提とした改善文化」を持っているかも、選定の軸としてぜひ考慮してみてください。