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オンサイト業務を伴うスタッフ管理アプリ開発における「移動・滞在」ロジック設計の勘所とは?

訪問介護、設備保守、フィールド営業、レンタカー回送など、現地に出向くタイプの業務――いわゆる「オンサイト業務」は、今や多くの産業において不可欠な存在です。

こうした現場では、勤怠管理やスケジュール登録といった従来の業務システムでは十分に対応しきれない、独自のロジックと業務構造が存在します。特に近年は、スマートフォンによるスタッフ管理アプリの導入が進みつつありますが、「移動」や「滞在」をどのようにシステム設計へ落とし込むかは、成功の鍵となる論点です。

本記事では、開発受託を検討する企業担当者、あるいはシステム開発会社にとって参考となるよう、オンサイト業務アプリにおける「移動・滞在」設計の実践ポイントを具体的に掘り下げて解説します。

なぜ「移動を業務とみなす設計」が必要なのか?

一般的な勤怠管理は、あくまで「時間単位」で労働を記録するためのツールであり、「場所」や「移動」はあまり重要視されません。しかし、オンサイト型業務においては以下のような課題が発生します。

・出勤打刻と実際の訪問先稼働時間が乖離している ・訪問件数は多いが、その移動時間が可視化されておらず労務負担が見えにくい ・現地作業を把握したい管理者が、GPSの現在地だけでは業務進捗を判断できない

これらの課題は、労務管理・人件費分析・顧客対応品質の全てに直結します。したがって、アプリ設計時に「どこに移動し、いつ滞在し、何をしていたか」というフロー全体を設計レベルで扱う必要があるのです。

オンサイト業務のための4つの時間帯区分

まず初めに、以下の4つの時間帯を業務構造として明示し、システム要件へとブレイクダウンすることが基本方針になります。

  1. 「移動前待機」
  • 事業所、自宅、前現場などから出発前の待機時間。
  • スケジューリング上、準備や段取りが発生している場合が多く、業務の一部と見なされる。
  1. 「移動中」
  • 現場間の移動を含む時間。
  • 移動手段の違い(車両、徒歩、公共交通)や交通事情による影響を考慮。
  1. 「現場作業中」
  • 訪問先で実際に作業・応対が発生している時間。
  • 到着・受付・準備・作業・説明・退出といった複数段階が含まれる。
  1. 「報告・退勤中」
  • 現場作業終了後の報告入力や写真提出など、業務後処理を含む時間。
  • 訪問先からの帰社もこの範囲に含まれる。

これらの状態を、データベースのフィールド設計、APIレスポンス設計、画面表示のステータス管理に反映することで、より現実的な業務モニタリングが可能になります。

「移動中」ロジックの設計ポイントと落とし穴

「移動中」はアプリ設計上、最も判断が分かれやすく、かつ誤判定が業務信頼性に直結するセクションです。

・GPSが動いたら「移動中」では不十分 ・数百メートル動いても、実際には別業務場所にいる可能性がある ・都市部では電波反射による位置ズレが頻発

このようなリスクを回避するためには、以下のような対策が実用的です:

  • 直近3〜5分間の連続ログの平均移動速度を取得(例:3km/h以上なら移動中)
  • 訪問先住所との距離を定点として扱い、現在地との相対移動を評価
  • トンネルや地下施設でのGPS喪失に備え、補完用のWi-Fi位置情報を参照

また、業務現場のITリテラシーが高くない場合には、自動検出だけに頼らず、「移動開始ボタン」や「到着ボタン」などを1タップで押せるUIとして実装し、システムによる自動補足とユーザー操作による手動記録を両立させる設計が有効です。

「現場滞在」の定義とタイミングの切り分け

「現場にいた」という事実だけでは、業務の質や時間を正確には把握できません。そこで、以下のような状態設計が求められます。

  • 「現場到着」≠「業務開始」
    • 到着後に受付待ちや機器準備があるケースを想定し、「到着」「業務開始」は分離
    • 業務開始から業務終了までを滞在時間として明確に定義
  • 「作業完了」≠「報告完了」
    • 作業自体は完了していても、報告写真や点検記録が未送信というケースがある
    • 「作業完了」「報告完了」「退勤完了」は別イベントとし、ユーザーの操作を促す

UIにおいては、ボタンの押しやすさ・順序・ガード処理が非常に重要です。

  • 「到着」ボタンはGPSで一定エリアに入ったときのみ押せるように制御
  • 「作業開始」ボタンを押す前には、到着が完了している必要あり
  • 「報告が完了しないと退勤できない」ようなガード処理で運用ミスを防ぐ

実際の導入構成例と運用成果

ある訪問メンテナンス企業の事例では、以下のような技術スタックで構成されました。

  • フロントエンド:Flutter + Geolocator + Local Notification
  • 状態管理:Riverpod(業務状態をenumで定義し、可視化)
  • バックエンド:Firebase Functions + Firestore
  • ロール管理:Supabase Auth(管理者/スタッフ別)
  • ダッシュボード:Next.js + Tailwind CSS
  • ログ集計:BigQuery + Looker Studio

このプロジェクトでは、ステータスマップを初期段階から設計し、

「出発予定 → 移動中 → 到着済 → 作業中 → 作業完了 → 報告済 → 退勤済」

という遷移を明示しました。これにより、管理者側では地図とタイムラインを同時に表示し、当日の現場進行をリアルタイムで把握することができています。

現場にフィットさせるUI/UXの工夫

現場スタッフはアプリ操作に時間を割けないことが多いため、「操作の簡略化」と「誤操作防止」がUI設計の鍵となります。

  • 各状態の操作は1タップで済むように設計
  • 訪問予定時刻の10分前に通知を自動表示(「移動を開始しましょう」)
  • 「報告未入力」状態で退勤ボタンを押すとエラーメッセージを出す
  • 「未完了の訪問先があります」など、状態を色で可視化(赤=未完了)

このような実装によって、導入後3ヶ月で以下のような改善が確認されました:

  • 訪問実績の可視化率:47% → 92%
  • 報告漏れ数:月32件 → 月4件
  • 勤怠工数確認にかかる管理時間:1.5日 → 0.5日に短縮

開発パートナーとして求められる視点と対応力

オンサイト業務アプリの開発においては、「業務構造の理解」が最重要です。以下の点を意識することで、受託開発会社としての信頼を獲得できます。

  • 現場ヒアリングから業務フローを言語化・視覚化する能力
  • 状態遷移やフロー図を仕様書に取り込む設計スタイル
  • GPS誤差、通信断、手動操作漏れといった実務課題への耐性設計
  • 技術的最新性よりも「操作が簡単」「ミスが起きにくい」設計への優先度判断

単に「位置情報を使うアプリを作る」のではなく、「業務構造を支えるUXを作る」視点が求められます。

まとめ:「移動=業務」であるという前提がアプリを変える

オンサイト業務を支えるアプリ開発では、「移動」「滞在」「報告」「退勤」といった時間的な流れを、単なるフローではなく「業務状態」として扱う必要があります。

この視点に立ったとき、はじめて業務データの一貫性や分析精度、そして現場での使いやすさが両立できるアプリが実現します。

受託開発会社にとっても、オンサイト業務のアプリ開発は単なるGPS活用ではなく、「業務の設計力」と「現場視点での構築力」が試されるプロジェクトであることを意識すべきです。

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