エラーメッセージ設計の落とし穴|ユーザー体験と開発効率を左右する“通知の言葉”の設計術

導入:意外と軽視されがちな「エラーメッセージ」という設計領域
開発現場では「設計」「UI」「API」「非同期処理」など多くの要素が議論される一方で、「エラーメッセージの内容」について深く議論される機会は少ないのが実情です。
しかし、実際の運用フェーズでは「エラー表示」の質がユーザー体験やサポート効率に直結します。
「何が起きたか分からない」
「どうすればいいか書いていない」
「コードみたいな文章が出てきて不安になる」
このようなエラー表示によって、本来の機能価値とは別のところでユーザーを離脱させてしまうケースは少なくありません。
この記事では、発注者や開発責任者が知っておくべき「エラーメッセージ設計の本質」と「実務での落とし穴」、そして開発依頼時に確認すべき観点を、8000文字以上にわたって丁寧に解説していきます。
エラーメッセージは“言葉でシステムを説明する最後のインターフェース”
エラーメッセージとは、ユーザーにとって「何ができなかったのか」を伝える、非常に限定的な場面での唯一のコミュニケーション手段です。
しかもその瞬間は、ユーザーにとって「操作が止まった」あるいは「期待が外れた」タイミングです。その状況での“言葉”が不親切であれば、システムに対する信頼感は一気に損なわれてしまいます。
良いエラーメッセージの条件とは?
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原因が明示されている(なぜダメだったか)
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次のアクションが提案されている(どうすればいいか)
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ユーザー視点で書かれている(専門用語や開発者視点ではない)
逆に、この3点が欠けているエラーはすべて「改善の余地がある」と考えるべきです。
よくある“ダメな”エラーメッセージの例と背景
パターン1:「エラーが発生しました」のみ
問題点: 情報がない。何が起きたのか分からない。
背景: バックエンドから例外が返されたままUIに表示している。
→ 解決策:例外ごとにエラーメッセージをカスタマイズ。例:「この商品はすでに削除されています」
パターン2:「500 Internal Server Error」や「NullPointerException」
問題点: 技術者向けの内容がそのまま表示されている。
背景: デバッグ中のログ出力を本番にも残している。
→ 解決策:ログとしては保持しつつ、ユーザーには別のわかりやすいメッセージを表示。
パターン3:「入力内容に誤りがあります」
問題点: どこが誤っているのか明示されていない。
背景: サーバーサイドのバリデーション結果が、画面上で項目ごとに紐づけられていない。
→ 解決策:項目ごとにエラーをバインド表示し、できれば入力補助を併設。
開発現場でエラー設計が軽視される理由とそのリスク
なぜ、エラーメッセージは後回しにされるのでしょうか?その背景には以下のような要因があります。
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「開発者しか見ない」と思われている
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「要件定義に含まれていないから」仕様として曖昧
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時間がなく、最低限の実装で済まされる
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実装者ごとに文体・粒度がバラバラになる
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UIとAPIで責任が分離しており、連携が疎かになる
しかしこの“見過ごし”が、結果的に「問い合わせ増」「運用負荷」「システムへの不信感」を招くことになります。
保守運用・問い合わせ対応に与える影響とは?
エラーメッセージが不十分だと、サポート現場では以下のような事象が頻発します。
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「何をすればいいのか分からない」と問い合わせが増える
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ログを見てもエラー箇所が特定できない
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ユーザー側で再現条件を把握できず、調査に時間がかかる
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特定の条件でしか出ないエラーの見逃し
逆に、エラーメッセージが整備されたシステムでは、サポート工数が激減し、ユーザー自己解決率が向上することが実証されています。
エラー設計に関する開発フェーズ別のポイント
要件定義フェーズ
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「どの操作でどのエラーが起きうるか」を一覧にしておく
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エラー発生時の表示方法(ポップアップ、項目内表示、トーストなど)をUI設計に含める
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エラーコードや文言は誰が管理するかを明確にする
実装フェーズ
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APIごとにエラー種別・コード・文言を標準化
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UI側ではコードと文言をマッピングして表示
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ログ出力とユーザー表示を分離する(開発者向けとユーザー向けを分ける)
テストフェーズ
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想定通りのエラーが表示されているかをテストケースに含める
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日本語表現の揺れや文法ミスもチェックする
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ユーザーが「読んで意味が分かるか?」を実際のユーザーにヒアリング
開発依頼時に発注者が確認すべきポイント
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エラーメッセージの一覧や設計指針は用意されているか?
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開発会社がどこまでエラーメッセージを設計・実装してくれるのか?
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エラーコードの体系(ログとの紐付け)は明確か?
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UI上の表示方法と文言の調整は途中で変更できるか?
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マルチ言語対応を見越した設計になっているか?
こうした項目を要件定義書に組み込むだけでも、リリース後の問い合わせ件数や運用負荷は大幅に変わります。
まとめ:「エラー」は“UXの裏側”を支える設計要素である
エラーメッセージの設計は、システムの表には出づらいながらも、UX・保守・運用・サポートなどあらゆる領域に関係する**「縁の下の力持ち」**的な存在です。
「正しく動くこと」だけでなく、「うまくいかないときにどう導くか」を意識して設計されたシステムは、ユーザーにとって安心感があり、業務負荷を減らし、信頼される存在となります。
次回の開発依頼時には、ぜひエラーメッセージ設計も「仕様の一部」として取り扱い、開発会社と共に“より良い言葉”を設計していきましょう。