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スクラム×カンバンのハイブリッド運用で見えた 小規模スタートアップ開発のリアル

背景:プロジェクト立ち上げから要件混乱まで

あるスタートアップX社では、最初エンジニア2名、プロダクトマネージャー1名で「業務効率化システム」の立ち上げを決定しました。発注先の開発会社は選び方に迷った結果、過去に相場感の合う中堅ベンダーに依頼。予算は初期調査から概算で500万円、その後の開発フェーズでさらに1,000万円ほどと想定しました。しかし、要件定義時に「画面の仕様は動きながら詰める」「細かい費用調整は開発途中でもOK」といった曖昧な合意が重なり、実装中に追加費用の見積もりが頻発。

  • システム要件が定まらずタスクは膨張

  • 開発会社とのコミュニケーションロスで期日遅延

  • 見積もりフェーズと実装フェーズで費用相場感がズレ発注側の不信感
    といった失敗経験を経て、プロジェクトリーダーは本格開発前に運用ルールを見直す必要性を痛感しました。

ハイブリッド運用を採用した経緯

失敗を活かすべく、次回フェーズでは「スクラム」の定例と「カンバン」の柔軟性を組み合わせるハイブリッド運用を試すことに。

  1. スプリント期間は2週間

    • 綿密な要件定義は難しくても、2週間ごとのゴール共有で進捗を可視化。

  2. 日次スタンドアップ+オンデマンドプランニング

    • カンバンでタスクを流しつつ、必要に応じて“フロー内”で優先度を変動。

  3. 振り返り(レトロスペクティブ)と予算レビューの同時開催

    • 開発会社への費用請求タイミングで、ベロシティとコスト実績を照合。

  4. 発注フェーズ毎に相場感確認

    • 毎スプリント後に開発単価×工数で「1ポイントあたり〇〇円」という相場を互いに再確認。

小規模チームゆえに開発会社との距離感は近く、週次で「今週の発注予算×進捗」を擦り合わせることで、「予算オーバーしても止められない」事態を防ぎました。

実践フェーズで見えたメリットと課題

メリット

  • 途切れない要件調整:カンバン化で細かな仕様変更を小タスク化し、スクラムのスプリントゴールに組み込めた

  • 予算管理の透明性向上:スプリントレビューでコスト×ベロシティをレポートし、相場感のズレを早期検知

  • ストレスの軽減:曖昧な要件への耐性が付き、見積もりのたびに胃が痛くなる事態を回避

課題

  • 会議負荷の増大:スクラム定例+オンデマンドプランニングで合計5回/週ほどMTGが発生

  • タスク細分化の歯止め:カンバンにすると無限に分割したくなる癖が出て、小さすぎるカードが乱立

  • 開発会社の慣れが必要:スクラム経験豊富なチームなら対応も早いが、未経験社は変更管理に苦戦

このフェーズで「予算管理とタスク管理は密接に連動している」との確信を得ました。

教訓:失敗を防ぐためのノウハウ

  1. 最初に“見積もりスプリント”を設ける

    • 実際に2週間だけ試しに開発会社へタスクを発注し、実工数×単価で相場感を肌感覚でつかむ。

  2. “ストーリーポイントあたりコスト”を可視化

    • ストーリーポイントと費用をダッシュボードで結びつけ、1P=〇〇円と定量化。相場の狂いを定期的に調整。

  3. 会議の時間枠を明確化

    • 各ミーティングに予算レビューを含める場合は「15分以内」に制限し、無駄な議論を省く。

  4. 変更管理のルールをチームで合意

    • 仕様変更は「スプリントバックログ追加」のみ、オンデマンド変更時は優先度カードにタグ付けして後回し可否を明示。

実際にこの運用を3カ月継続し、要件変更による追加費用は当初想定の20%以下に抑制、納期遅延は過去プロジェクトの半分に改善しました。

運用フェーズで見えた隠れコスト

ハイブリッド運用を安定稼働させると、一見クリアになるはずのコスト構造にも意外な“抜け”が見つかりました。

  1. 管理工数の増加
    スプリントプランニングや代替プラン調整に毎週2~3時間を消費し、エンジニア1人あたり実稼働時間の3%相当がミーティングに割かれる事態が発生しました。

  2. ドキュメント更新負荷
    カンバンのタスク更新と同期してWikiやConfluenceの仕様書、発注手順書を整備していたため、週次でのドキュメント工数が約1日分に膨らみました。

  3. バッファ準備コスト
    予期せぬ要件変更に備え、スプリントごとに15%のバッファ(予備工数)を見積もった結果、初期予算1,500万円に対し、実際には1,725万円相当の開発リソースが必要に。

  4. バージョン管理運用コスト
    小タスク化に伴いブランチ数が急増し、マージ/リリース作業にかかる準備時間が週2時間から週5時間へと倍増。

これら隠れコストを可視化するために、運用ダッシュボードに以下を追加しました。

  • ミーティング時間集計(工数×単価換算)

  • ドキュメント更新件数と更新時間

  • バッファ実消化率

こうした数字を週次レビューでチェックすることで、コストオーバーの兆候を即座にキャッチできる体制が整いました。

チーム成長との連動

継続的な振り返りと数値化されたコスト管理は、チームの成熟にも寄与しました。

  • 安定したベロシティの蓄積
    スプリント毎に完了ストーリーポイントを可視化し、チーム全体で「1Pあたり○時間」という平均値を習得。経験を重ねるほどばらつきが縮小し、予算計画の精度も向上。

  • 役割の明確化
    毎週の振り返りで「誰がどのタスクを優先すべきか」を共有し、PMとエンジニア間の意志疎通コストが30%低減。

  • ナレッジシェアの習慣化
    技術的負債や発注時の要注意ポイントをWikiに蓄積し、次プロジェクト発注時の見積もり精度が向上。

特に小規模チームでは、こうした「学びのPDCA」を高速で回せることが、開発会社への発注コストの最適化に直結しました。

今後の改善アクション

さらなるコスト圧縮と品質向上を目指し、以下アクションを計画中です。

  1. 自動化ドキュメント化
    JIRAやGitのAPI連携で、タスク登録→Wiki更新を自動化し、ドキュメント更新コストを50%削減。

  2. バッファ管理の精緻化
    スプリント開始時のバッファ率を「固定15%」から「過去3スプリントの実績平均×1.1倍」に切り替え、余裕度と無駄を両立。

  3. コスト予兆アラート
    ベロシティが平均の70%を下回った時点でPMへ自動通知し、即時プラン再調整をトリガー。

  4. 開発会社向けSLA策定
    仕様変更や遅延時の追加費用発生タイミング・上限を明文化したSLAを締結し、予期しないコスト増を抑制。

これらにより、「運用のしやすさ」と「予算の堅牢性」をさらに両立させる狙いです。

QA・ナレッジ共有の仕組み

最後に、チーム全体で得たノウハウを次に活かすための仕組みについて。

  • 月次QAセッション
    定期的に開発会社も交えたQAタイムを設け、技術課題や見積もりギャップの原因を全員で共有。

  • ナレッジカード運用
    失敗・成功事例を「カード化」し、Confluenceでタグ検索できる仕組みに。例えば「要件曖昧」「バッファ不足」などタグを付与。

  • 次プロジェクトへのテンプレート化
    予算フォーマット、スプリント構成、ドキュメントひな形をパッケージ化し、初回フェーズから高い精度で運用開始。

このQA・ナレッジ共有の仕組みを定着させることで、開発会社への発注と社内運用コストの両面で、次回以降「初動コスト」の劇的な低減を見込んでいます。

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