マイクロサービス分割の落とし穴:再統合とテスト失敗から得た教訓

プロジェクト背景とマイクロサービス化の決断
あるECプラットフォームの改修案件では、既存モノリシックアーキテクチャが機能追加ごとに肥大化し、デプロイ時間が1時間を超える事態に陥りました。
ビジネス側からは「新販路連携」「レコメンドエンジン統合」「多言語対応」といった要望が相次ぎ、単一リポジトリでの開発体制ではスピード対応が困難になりました。
そこで技術責任者の判断により、「マイクロサービス化」を急遽検討することになりました。
マイクロサービス化とは、機能を小さなサービスに分割し、それぞれを独立デプロイ可能にするアーキテクチャパターンです。
当初は小規模な注文管理サービスの切り出しからスタートし、成功すれば段階的に決済、在庫、ユーザー管理と順に分割していく計画でした。
しかし、分割の影響範囲を正確に見積もるための準備不足が、後の要因分析で大きな反省点として挙がりました。
特に、社内外の開発会社との連携を意識した要件定義では、「システム 開発会社 選び方 予算 費用 相場 発注」のガイドラインを参照しませんでした。
その結果、ベンダーとの契約範囲が曖昧になり、後に追加開発費用請求のトラブルが発生しました。
当初の設計ではAPIゲートウェイやサービスディスカバリ、認証認可メカニズムの整備が後回しにされ、基本的なインフラ要件が抜け落ちていました。
また、ドメインごとの責任範囲をチーム横断で調整するプロセスも未整備で、「誰が何を担当するか」があいまいなまま進行してしまったのです。
それでも、ビジネス要件を満たすために「とりあえず分割してデプロイ速度を上げよう」という短絡的な方針に傾きがちでした。
この背景には、経営層からの圧力や市場投入のスピード優先といった事情があり、技術的負債を認識しながらも後回しにされた側面があります。
しかし、分割後のテスト環境と本番環境で動作差異が頻発し、トラブル対応に追われる状況に陥りました。
このフェーズで得られた教訓は、アーキテクチャ変更を決断する際にも、必ず全工程の依存関係と運用要件を洗い出すことの重要性です。
特に分散トレーシングやログ統合、監視設計をあらかじめ計画しないと、サービス間の連携障害を早期発見できません。
また、マイクロサービス分割は開発体制の変更も伴うため、チームのスキルセットやコミュニケーションフローも再設計する必要があります。
この節で共有した背景を踏まえ、次節では設計段階で見落とした依存関係の問題を具体的に解説します。
設計段階で見落とした依存関係の問題
マイクロサービス設計では、各サービスが提供・消費するAPIやメッセージキュー、データベーススキーマを明確に定義することが基本です。
しかし、今回のプロジェクトでは注文サービスの切り出しに際し、在庫サービスとの連携を「後で統合テストで対応すればよい」と軽視しました。
結果として、REST APIのエンドポイント仕様が微妙に異なるまま開発が進み、リクエスト時のパラメータやステータスコードの扱いに不整合が多発。
さらに、認証認可機構として導入したOAuthトークンの有効期限管理に齟齬が生じ、サービス間リクエストが度々失敗しました。
加えて、メッセージキューを介した非同期処理のトランザクション管理が未整備で、本来一括処理すべき操作が部分的に成功し、データ不整合を招く事態になりました。
具体例として、注文キャンセルメッセージが在庫サービスに二重投稿され、同一商品の在庫数がマイナスになるバグが発生しました。
この問題は本番環境で発覚し、顧客からの問い合わせ対応に多くの工数を消費し、サービス信用の低下を招きました。
依存関係の設計時には、以下のポイントを徹底すべきでした。
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APIスキーマ定義の共有と自動生成(OpenAPI/Swaggerなど)
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メッセージキューのスキーマとトランザクション境界の統一
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データフォーマットとステータス管理ルールのドキュメント化
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認証認可フローのエラー処理パターンの標準化
これらを設計段階でドキュメント化し、チーム全体で合意してから実装に着手すれば、後戻りコストを大幅に抑えられたはずです。
さらに、外部システムとの連携がある場合は、ベンダーにも仕様ドキュメントへの署名を求め、「システム 開発会社 選び方 予算 費用 相場 発注」の観点で契約範囲を明確化しておくことがトラブル回避につながります。
設計段階で依存関係を精緻化できないと、以下のような悪影響が起きやすくなります。
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統合テスト工程の長期化
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本番障害発生頻度の増加
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サービス間のデータ不整合
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障害対応コストの高騰
以降では、分散テスト戦略の構築方法と、統合フェーズで発生したパフォーマンスボトルネック解消の取り組みを解説します。
分散テスト戦略の構築と課題対策
マイクロサービス化後のテスト戦略は、従来のモノリシックとは大きく異なります。各サービスを単独でテストする単体テストだけでなく、サービス間連携を検証する結合テスト、さらには複数サービスを組み合わせたエンドツーエンド(E2E)テストが不可欠です。
本プロジェクトでは、CI/CDパイプライン上に3段階のテストを組み込みました。まずユニットテストでは、各マイクロサービスのビジネスロジックとエラー処理を網羅し、テストカバレッジを85%以上に維持。次に結合テストでは、Docker Composeで依存サービスをモック化せずリアルに起動し、APIリクエストとメッセージキューの往復を自動化しました。最後にE2Eテストとして、SeleniumやPlaywrightを使ったブラウザテストを実施し、UI操作からバックエンド処理まで一連のシナリオを検証しました。
しかし、テストをスケールさせる過程で複数の課題が浮上しました。
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テスト環境のプロビジョニング時間が長く、CIジョブ全体が30分を超過
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モックと実環境の差異で本番データと乖離したテスト結果
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E2Eテストのメンテナンスコスト増加によるリアクティブなテスト修正
これらの課題に対し、以下の対策を講じました。
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コンテナイメージをキャッシュし、プロビジョニング時間を50%短縮
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テストデータの初期化スクリプトを共通化し、再現性を確保
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テストスイートをクラスター化し、並列実行で全体ジョブ時間を20分まで圧縮
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テストコードとアプリケーションコードのリファクタリングルールを定め、変更に追従しやすい構造に改善
これにより、自動テストの安定性と実行速度が向上し、リリース頻度を月1回から週1回に引き上げることに成功しました。
統合フェーズでのパフォーマンスボトルネック解消
統合テストで問題が解消した後も、本番環境でパフォーマンス問題が散発していました。調査の結果、各サービスに共通実装されていたログ出力処理が同期I/Oで書き込まれており、リクエスト応答時間を平均200msほど増加させていました。また、分散トレーシングの設定ミスでサンプリング率が高すぎ、帯域圧迫を招いていました。
改善策として、以下の取り組みを実施しました。
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非同期ロギングライブラリへの切り替えによるI/O負荷の解消
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OpenTelemetry設定の最適化でサンプリング率を5%に引き下げ
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gRPCを用いたサービス間通信でREST APIのシリアライズ/デシリアライズコストを削減
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キャッシュ層(Redis)の活用で同一データ取得リクエストを80%キャッシュヒット化
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サーキットブレーカーとレートリミットの導入で障害伝播を防止
これらの技術的対策を反映した結果、平均レスポンス時間は150msを切るまで改善し、ピーク時の同時リクエスト数増加にも耐えられる安定性を獲得しました。
続く後半パートでは、障害発生からの対応プロセスやナレッジ共有、継続的改善の取り組みを紹介します。
障害発生からの対応プロセス
本番環境で突発的なトラフィック急増により、注文サービスが応答しなくなる障害が発生しました。
まずはアラートがオンコールエンジニアに届き、Grafanaのダッシュボードで異常なCPU使用率とエラー率の上昇を確認。
オンコール担当者は迅速にSlackの専用チャンネルで「障害発生」を宣言し、24時間体制のエスカレーションルールに従ってチームを招集しました。
障害対応の初動として、以下の手順を実行しました。
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影響範囲の特定:注文サービスと在庫サービス間のリクエストログを確認し、エラーがどのAPIで多発しているかを特定。
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一時対応:問題のエンドポイントを一時的にサーキットブレーカーで遮断し、他サービスへの連鎖障害を防止。
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迅速な復旧:障害前の安定コンテナイメージをカナリア環境で再デプロイし、サービスを復旧。
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原因分析ログの収集:OpenTelemetryで収集したトレースデータをDatadogに集約し、レイテンシ上昇のボトルネックを可視化。
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恒久対策の検討:ログ処理の非同期化やキャッシュ設定の再調整を議論し、次版リリースで反映するタスクを作成。
この一連の対応により、サービス停止時間は約15分で収束し、ビジネスへの影響を最小限に抑えました。
障害対応後は、ポストモーテム(事後検証)を実施し、KPT形式で以下をまとめました。
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Keep:即時チーム招集とサーキットブレーカー活用
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Problem:ログ探索の手順が属人的で時間がかかった
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Try:ランブック化した対応手順書の整備と、CIで障害想定テストの自動化
ポストモーテムの結果はConfluenceにドキュメント化し、全社に共有。これにより、次回以降の障害に対して迅速かつ効果的な対応が可能になります。
ナレッジ共有とドキュメント化の取り組み
障害対応だけでなく、日常的なノウハウも組織に蓄積することが重要です。本プロジェクトでは、以下の施策を実施しています。
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Weekly Tech Talk:毎週30分、オンラインで最新学びや失敗事例を発表
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Lessons Learned ページ:Confluence上に「障害対応」「テスト戦略」「パフォーマンス改善」などカテゴリ別に記事化
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Slack スニペット共有:障害対応中に得られた便利スクリプトやコマンドを専用チャンネルに投稿
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オンコール手順書のバージョン管理:Gitリポジトリで手順書を管理し、プルリクエストで更新履歴を追跡
また、月次で「Tech Retro」を開催し、全員でナレッジベースの改善点を議論。ドキュメント更新タスクをスプリントバックログに組み込むことで、現場の負荷を抑えつつ継続的に情報を整備できています。
さらに、テストコードやインフラ設定例などはExampleリポジトリとしてGitHubに公開し、社内のみならず他チームでも参照可能としました。
これらの取り組みにより、「自分だけのノウハウ」を「組織全体の資産」に転換し、新規メンバーの立ち上がり時間を大幅に短縮しています。
継続的改善サイクル(PDCA)の実践
現場で得た知見を素早く次に活かすため、PDCAサイクルを高速に回しています。
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Plan:KPI(エラー率、デプロイ時間、平均レスポンス時間)を四半期ごとに再設定
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Do:新機能や改善タスクをスプリント単位で開発・リリース
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Check:リリース後にDatadogやNew Relicでメトリクスを比較、Google Analyticsでユーザー行動を分析
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Act:問題点を次スプリントにフィードバックし、リファクタリングや設定調整を実施
PDCAを回す際は、必ず関係者全員でレビュー会を行い、施策の成果と課題をオープンに議論します。スプリントレトロスペクティブで出た改善案は速やかにJIRAチケット化し、優先度をつけて着手。これを繰り返すことで、プロダクト品質と開発プロセスの両面で継続的に向上しています。
チーム文化とスキルアップ支援
技術組織の成長には、文化づくりとスキル継承が欠かせません。本プロジェクトでは以下を実践しています。
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ペアプログラミング/モブプログラミング:毎週1回、異なるチームメンバーと共同開発し、ノウハウを交換
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コードドリルセッション:月1回、JS/Go/Railsなど言語別でコーディング演習を実施
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外部研修/カンファレンス参加:参加費用補助制度を設け、最新技術トレンドをキャッチアップ
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メンター制度:新人には経験豊富なシニアエンジニアをメンターとしてアサインし、OJTを通じて学習進捗をフォロー
また、社内Qiitaページにプロジェクト固有のTipsをまとめ、タグ検索で簡単に参照できる仕組みを構築。ナレッジの「見える化」と「検索性向上」により、学習コストを削減し、チーム全体の底上げを図っています。
今後の展望とまとめ
本開発ノートでは、マイクロサービス分割時の依存関係問題、分散テスト戦略、パフォーマンスボトルネック解消、障害対応プロセス、ナレッジ共有、継続的改善、チーム文化まで、実際の事例を交えて解説しました。
特に「設計段階での細部詰め」と「障害対応手順のランブック化」は、技術的負債を早期に防ぐための重要施策です。
読者の皆様も、プロジェクト立ち上げ時やアーキテクチャ変更時には、ぜひ「システム 開発会社 選び方 予算 費用 相場 発注」の視点を取り入れ、外部パートナーとの役割分担や費用管理を明確化してください。
開発効率と品質を両立させるためには、PDCAサイクルを高速に回し、ナレッジを組織全体で共有する文化を醸成することが不可欠です。
最後に、開発費用の目安を素早く把握したい場合は、