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モックAPI設計という選択肢:受託開発の初期スピードを支える鍵

受託開発やBtoB向けの業務システム開発において、要件定義が固まらないまま開発が先行し、設計と実装の乖離が発生するケースは少なくありません。そうした状況の中で注目されているのが「モックAPI設計」の手法です。

モックAPIとは、実際のサーバー側の実装が完了していない状態でも、APIの挙動を模倣することでフロントエンドやテスト側の開発を進めるための仮想的なエンドポイントを指します。本記事では、モックAPIの設計と活用方法を、実務でのユースケースに基づいて徹底的に解説します。

なぜモックAPIが必要とされるのか?

プロジェクト初期において、バックエンド側の開発が進んでいない状況でも、フロントエンドの実装や結合テスト、UI設計を進める必要があります。ここでバックエンドの完成を待ってしまうと、スケジュール全体が後ろ倒しになるリスクが高まります。

また、クライアントとの要件すり合わせが難航していたり、外部サービスとの連携仕様が未確定だったりする場合でも、モックAPIによって仮のAPIレスポンスを用意することで、開発やデザインの前倒し着手が可能になります。

モックAPIの設計ポイントと注意点

モックAPIは単にダミーのデータを返すだけのものではなく、「後工程への影響を最小限に抑えるための正確なインターフェース設計」が求められます。以下のポイントを意識して設計する必要があります。

1. リアルなレスポンス構造

モックとはいえ、実際の本番APIと同じレスポンス形式・ステータスコードを用意しておくことが重要です。APIレスポンスのスキーマ(JSON構造)は、OpenAPI(Swagger)などの仕様書を活用して文書化し、フロントエンドやテストチームに共有できる体制を整えましょう。

2. エラーパターンの設計

成功時のレスポンスだけでなく、エラーコードや異常系の戻り値も網羅することが大切です。これにより、バリデーション・権限エラー・システムエラーなどのハンドリング設計が前倒しで進められます。

3. ステート管理のシミュレーション

GET/POST/PUT/DELETEといったリクエストに対して、ステート(状態)を持たない静的なレスポンスだけでなく、状態遷移を模倣するモック設計も求められます。簡易的なステート管理を組み込むことで、より実運用に近い挙動が再現できます。

使用技術とツールの選定基準

モックAPIの実装には様々な方法があります。以下に代表的な技術とその選定基準を紹介します。

JSON Server(Node.js)

軽量で学習コストが低く、手軽にREST API風のレスポンスが構築可能。状態の保存やCRUDのシミュレーションにも対応。

Postman Mock Server

API仕様をPostmanで管理している場合、追加でモック機能を利用することでエンジニア以外のメンバーとも連携が取りやすい。

WireMock(Java)

大規模プロジェクトでサーバーサイド開発が主体の案件向け。APIのリクエスト/レスポンスのパターンを柔軟に定義可能。

Prism(OpenAPIベース)

OpenAPI仕様書に準拠したモックAPI生成が可能。APIドキュメントとコードの乖離を抑えたいプロジェクトに有効。

チーム体制への組み込み方と効果

モックAPIは、チーム全体の開発体制に直接的な影響を与えます。具体的には以下のような効果が期待できます。

  • フロントエンド開発の前倒し着手による総開発期間の短縮
  • QAチームによる自動テストスクリプトの早期作成
  • クライアントレビュー用デモの迅速な提供
  • API仕様の曖昧さや齟齬の事前発見

モックAPI設計を開発初期の標準プロセスとして組み込むことで、要件不確定リスクを吸収しながらスケジュール通りの進行が可能になります。

プロジェクトでの活用事例:ECシステム構築のケース

あるECシステムの開発において、商品検索や在庫確認のAPI仕様が未確定であるにもかかわらず、UIの構築とレビュー日程が先に決定していたため、モックAPIによって以下の成果が得られました。

  • UIデザイナーがレスポンス形式に沿って検索画面を構築
  • クライアントが仕様書を確認しながら挙動をレビュー
  • バックエンドチームがAPI実装中でも並行開発が可能

このように、仕様確定を待たずして手を動かせる環境を整えることが、受託開発におけるスピード感と信頼性の向上に繋がります。

まとめ:モックAPIは受託開発の「リスク緩和装置」である

モックAPI設計は、単なる技術的な便宜措置ではなく、「仕様未確定」「要件が動く」「外部連携が多い」といった不安定な開発条件を吸収し、プロジェクトを健全に進行させるための強力な戦略です。

開発会社として、見積もり段階や初期提案の時点で「モックAPI設計を前提とした進行体制」を提示できれば、顧客からの信頼獲得や工数見積の精度向上にも直結します。

フロント・バックエンド・テスト・マネジメントの全工程を横断する「API中心設計」の入口として、モックAPIは極めて重要な立ち位置にあるといえるでしょう。

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