多言語対応はなぜ「後から対応」が難しいのか?開発初期に押さえるべき設計の勘所

Webシステムやアプリ開発の現場で、「海外展開は今後の話だから、まずは日本語だけで」という方針はよく見られます。しかし実際には、リリース後に「やっぱり英語対応したい」「外国籍ユーザーが増えてきた」といった理由で、多言語対応の追加開発が求められるケースが少なくありません。
本記事では、非エンジニアの方にもわかりやすく「多言語対応を後から実装することの難しさ」と「初期設計でやっておくべきこと」を解説します。開発会社からの提案や見積もりを評価する際の参考にもなるはずです。
よくある課題:後からの多言語対応はコストもミスも跳ね上がる
「言語を増やすだけなら、テキストを英語にすればいいんでしょ?」という認識のまま開発が進み、以下のような問題に直面することがあります。
- UIテキストがコードに直書きされていて、すべて手作業で抜き出しが必要
- テキストの長さが変わることで、ボタンやレイアウトが崩れる
- エラー文やシステムメッセージの一部が多言語化されず、ユーザー混乱
- データベースに格納される文言(カテゴリ名など)が翻訳できない設計
- 対応言語の切り替えにリロードが必要だったり、セッション管理が破綻
こうした問題は、UIやデータ設計、コード構造など多方面に影響を与えるため、リリース後に対応するには大きな工数がかかり、全体の改修が必要になるケースも珍しくありません。
技術的背景:多言語対応に必要な設計と構造の考え方
多言語対応は単なる「翻訳」作業ではありません。システムの構造そのものに関わる要素であり、以下のような観点から設計が必要です。
1. テキストの外部化(i18n / l10n)
- UIに表示される文言をすべて定数ファイルや翻訳辞書に分離
- JavaScriptやテンプレートエンジンでキーを使って呼び出す
- 多言語ファイル(JSONやYAMLなど)を言語ごとに管理
2. 言語切り替えの設計
- ヘッダーや設定画面から言語選択が可能なUIを設計
- Cookieやセッション、URLパラメータなどで選択情報を保持
- 画面遷移時に選択が維持されるようにする
3. レイアウトの柔軟性
- 英語・中国語など、文字数や改行ルールが異なる言語に対応するための余白や改行制御
- フォントや行間の調整
- ボタンやラベルの可変幅に対応した設計
4. データベースの多言語対応
- ユーザーが投稿するデータではなく、カテゴリ名や商品説明など、システム側が表示する内容は多言語に対応できる構成に
- テーブルを言語別に持つ/多言語カラムを持たせる/別テーブルで紐付ける などの選択肢
5. フォールバックと翻訳管理
- 翻訳が未登録の場合にデフォルト言語で表示する設計
- 翻訳漏れがシステムエラーにならないようにする
- 翻訳ファイルの更新管理やチェック体制も重要
開発初期に押さえるべき設計の勘所
開発の初期段階で以下のような方針を決めておくことで、将来的な多言語化にかかる工数やトラブルを大幅に抑えることができます。
UIテキストは必ず「外部化」する
- 日本語だけの対応であっても、文言はコード内に直書きせず、翻訳ファイルとして管理
- 翻訳不要な案件でも、後から辞書ファイルを追加するだけで済む構造にしておくと安心
言語切り替えの想定だけでも設計に含めておく
- 将来的に多言語化する可能性が少しでもあるなら、UIに言語選択の仕組みを入れるか、コード上で対応可能にする
- 切り替え方式(Cookie、URLパラメータなど)は開発初期に方針を定めておく
「翻訳が必要になる部分」をリストアップしておく
- フロントエンドだけでなく、DBの項目、管理画面の説明文、エラー文言、メールテンプレートなど
- 全文を一括で抜き出せる仕組み(辞書ファイル管理や翻訳管理ツール)を導入できるかを確認
提案・見積もり時に確認すべきポイント
開発会社に多言語対応を依頼する、あるいは将来的な対応を見越して設計してもらう場合、以下の観点で提案書や見積もり内容をチェックしましょう。
多言語対応の方式と範囲が明示されているか
- 対応言語数と表示範囲(画面UI/DB項目/通知文言など)が明記されているか
- テキスト管理の仕組み(外部ファイルの使用、管理ツールなど)が提案されているか
レイアウトや画面構成への配慮があるか
- 各言語でテキスト量が変わることを見越した可変幅のレイアウト設計
- スマホ/PCそれぞれでの表示崩れ対策や検証方法の有無
翻訳データの管理と更新運用の仕組みがあるか
- 管理画面から翻訳ファイルを更新できる仕組みがあるか
- 外部翻訳サービスとの連携、翻訳チェックの体制が提案に含まれているか
こうした内容があらかじめ設計に組み込まれていれば、将来的な言語追加や運用変更にも柔軟に対応できるシステムになります。
まとめ:「今は日本語だけ」でも、将来を見据えた設計を
多言語対応は、対応言語を増やすこと自体が難しいというよりも、その準備ができていない設計でスタートしてしまうことが難しさの本質です。
非エンジニアの方でも、「コードにテキストが直書きされていないか?」「言語切り替えの仕組みはあるか?」「翻訳の更新は誰がどうやってやるのか?」という視点で確認できれば、設計の質を判断することができます。
後から困らないために、開発初期のタイミングで一歩踏み込んだ設計を意識することが、多言語展開のスムーズな実現につながるはずです。