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要件定義の曖昧さで追加発注を招かないための開発ノート

プロジェクト概要と課題発生の背景

ある製造業向けシステム刷新プロジェクトでは、旧来のオンプレミスERPと社内Webアプリを統合し、データの二重入力を解消することを目標に掲げました。経営層からは「来年4月までにリリースし、月次売上報告を自動化したい」という大まかなゴールしか示されず、プロジェクト責任者は概算予算として約1,500万円を確保しました。システム要件は「在庫管理」「受注入力」「レポート出力」の3機能ですが、業務フローの細かい部分に関しては事業部からのヒアリングが不十分なまま要件定義書を作成。結果として、リリース後のユーザー受け入れテスト段階で「発注残のステータス管理」「返品処理」「帳票の項目並び替え」といった追加要望が頻出し、当初の想定外の費用増につながりました。開発会社からは「要件変更に伴う工数別途見積り」の提示が複数回あり、当初の予算を200万円超オーバー。これにより事業部と経営層の信頼を一時的に失いつつ、スケジュール遅延と追加発注対応に追われる結果となりました。以降、本プロジェクトでは、要件を「曖昧にしない」ためのノウハウとコミュニケーション手法を徹底的に改善することを開発ノートとしてまとめています。

要件定義フェーズでの失敗事例

まず、事業部ヒアリング段階で課題となったのが「表層的な要望の吸い上げ」に終始し、根本業務フローへの深掘りが行われなかった点です。営業担当者からは「見積から発注までがワンクリックで終わればいい」という要望が出されたものの、実際には見積依頼→社内承認→メーカー発注→納期調整→納品検収という6ステップに分かれており、それぞれの担当者間でExcel帳票共有が必須でした。ところが要件定義書には単に「発注ボタンを実装」としか記載されず、開発会社も「ワンクリック実装=ボタン1つ」と解釈。後日「承認フローの自動化」は別工数と判明し、約50万円の追加費用相場でオプション依頼を出す羽目になりました。さらに、帳票レイアウトは既存の基幹システムと完全一致させる必要がありましたが、要件定義時に見積対象から漏れ、UIデザインフェーズ中に「既存に合わせるなら再設計が必要」と提案され、追加数十万円のデザイン工数が発生しました。これらの失敗から学んだポイントは以下の通りです。

  • 「要件定義=機能一覧」ではなく、業務フロー図を用いてステップごとに必要な入力・承認ポイントを洗い出す

  • 既存システムの帳票は、スクリーンショットやPDF原本を必ず要件資料に添付し、開発会社と合意する

  • 仕様書上で「別途追加工数」となる要素は、見積依頼段階でオプション項目として明示しておく

これらを踏まえ、次章以降では開発中に起こったコスト増の実例を掘り下げ、どのようにコミュニケーションを改善したかを解説します。

開発進捗中に発生したコスト増の実例

要件定義段階で拾い切れなかった細部の業務要件は、実装フェーズに入ってから顕在化しました。たとえば、在庫引当機能では「予約済み在庫のみを引当対象としたい」という要望が後から追加され、単純なDBクエリでは対応できないロジック変更が必要になりました。開発会社側ではRailsモデルを修正し、在庫テーブルにステータス管理を追加。これによりテスト項目も増加し、約40万円の追加予算が発生しました。さらに、受注CSV出力機能についても、標準のUTF-8形式ではなくSJIS形式での納品が運用上必須となり、エンコード処理を追加実装。こちらに20万円強の追加工数が発注となりました。

テストフェーズでは、E2Eテストの自動化スクリプト作成が見落とされ、手動テストに切り替えられたため、品質保証チームに1名×2週間の手動テスト工数が追加計上。約60万円のコストアップ要因となりました。合わせて、開発サーバのSSL証明書更新手順やデータマイグレーション手順をドキュメント化していなかったため、環境構築トラブルに対応する費用も発生し、運用フェーズの初動で約15万円のサポート費がかかっています。

これらを受け、以下の対策を打ちました。

  1. 追加要件発掘ワークショップ

    • 週次で開発会社と事業部の合同レビューを実施し、隠れた業務フローを都度洗い出し

  2. オプション見積テンプレート

    • 単機能・単件追加の工数見積りテンプレートを作り、要望ごとに即時概算を提示

  3. テスト自動化計画の見える化

    • E2E自動化スクリプト作成範囲を要件定義書に記載し、テスト工数の不足を未然に防止

これら改善策により、プロジェクト後半は要件変更に伴う追加発注を30%削減でき、最終的な費用相場を抑制しました。

コミュニケーション改善によるコスト抑制策

プロジェクト成功には、技術的課題の共有だけでなく、部署横断のコミュニケーション設計も必須です。本案件では、以下の施策が功を奏しました。

  • チャットチャネルの最適化

    • Slackで「要件定義」「設計」「テスト」などテーマ別チャネルを作成し、投稿漏れを防止

  • デイリースタンドアップの時間厳守

    • 事業部・内製SE・外部開発会社が30分以内で進捗共有・課題抽出

  • 専用Wikiのリアルタイム更新

    • 画面仕様変更やDB定義をConfluenceに即時反映し、誰でも最新情報を参照可能に

  • 階層的エスカレーションルールの明文化

    • 小さな仕様転換はPM間で合意、大きな要件追加は部長レベルまで通さないと発注不可と定義

これらにより、「誰が」「何を」「いつまでに」対応するかが明確になり、要件変更時の議論や再見積もりに費やす時間が半減。結果として、プロジェクト全体の費用を約10%圧縮し、品質を維持したまま納期に間に合わせることができました。

納期遅延防止の具体策と教訓

納期遅延を引き起こす要因は大きく「要件変更」「コミュニケーション不足」「進捗管理の不徹底」に分けられます。本プロジェクトでは、これらを抑制するために以下の施策を導入しました。

  1. マイルストーン細分化とガントチャート公開

    • 要件定義、基本設計、詳細設計、実装、テスト、リリース準備の各フェーズを週単位で区切り、WBSとガントチャートを事業部と共有。

    • 各マイルストーン完了時にレビュー会を開催し、遅延リスクを早期発見。

  2. リスク登録と未然防止シートの活用

    • 要件不明点、技術的チャレンジポイント、外部依存事項などをリスクとして一覧化し、「未然防止シート」に記録。

    • 毎日のデイリースタンドアップでリスクステータスを更新し、未対策のリスクは上長にエスカレーション。

  3. 追加発注コントロールルールの制定

    • 要件追加が発生した場合、必ず「簡易影響分析シート」を作成し、工数/費用/スケジュールへのインパクトを定量化。

    • 影響が小さい場合はPM判断、大きい場合は事業部責任者の承認を要件に追加。

  4. タスクボードの可視化強化

    • JiraやBacklogのカンバンボードでタスクの「ToDo」「In Progress」「Review」「Done」をリアルタイムで管理。

    • ボード上でタスクが停滞している場合は、即時ペアプログラミングや社内SEによるフォローを実施し、停滞時間を最短化。

これらの対策により、当初遅延リスクが高まっていた詳細設計→実装フェーズのギャップを解消し、リリース前倒しにも成功しました。遅延が予想される場合は早段階で追加予算/工数調整を協議し、開発会社との発注契約書に「スケジュール変更時の費用負担ルール」を盛り込むことが後悔しないポイントです。

テストフェーズでの品質担保と追加費用抑制

テスト工数が膨らむ原因は「テスト範囲の曖昧さ」と「手動テスト依存」にあります。当初、テスト項目は機能一覧に基づくブラックボックステストのみを想定していましたが、結合テストやパフォーマンステストが必要となり、手動テスト人員を追加することになりました。

  • 自動テスト導入計画

    1. ユニットテスト:モデル/コントローラ単位でのテストコードを100%カバー目標に設定

    2. 結合テスト:主要APIエンドポイント10本をPostman/Newmanで自動化

    3. E2Eテスト:Cypressを使い、画面遷移と帳票出力の主要パスを自動化列挙

  • テストカバレッジの見える化

    • SonarQubeやCoverallsを活用し、テストカバレッジをビルドパイプラインで自動計測。

    • カバレッジが80%を下回る場合、ビルド失敗として警告し、手動テスト追加工数を抑制。

  • テスト設計レビュー会

    • 開発会社のQAエンジニアと内製SE、事業部担当者で週1回のテスト設計レビューを実施。

    • すべてのテストケースを要件定義書にリンクし、漏れ・重複を解消。

これらにより、手動テスト依存度を50%削減し、テスト工数コストを約30%圧縮しました。自動テスト導入は初期費用がかかりますが、中長期的な品質担保と追加発注抑制の観点からは最適投資と言えます。

運用移行時のトラブル対応とコスト最適化

本番移行後に発覚しがちなトラブルとして、データ移行ミスや環境設定不備が挙げられます。本プロジェクトでは以下のように対応しました。

  1. データ移行リハーサルの実施

    • 本番DBのスナップショットを使い、開発環境で複数回データ移行テストを実施。

    • 移行スクリプトがログにエラーを残すよう改修し、移行漏れ/型違いを早期検知。

  2. インフラ構成のIaC化

    • TerraformやCloudFormationでインフラ構成をコード化し、ステージング環境と本番を一致。

    • 環境差分チェックを自動化し、人為的ミスによる設定違いを撲滅。

  3. ロールバック/フェールオーバー手順作成

    • リリース失敗時の即時ロールバック手順を50ステップ以内に短縮。

    • 主要サービスをマルチAZ構成にし、フェールオーバー時のシームレス切替を実現。

  4. 監視・アラート設定強化

    • CloudWatch/DatadogでAPIレスポンスタイムやエラー率の閾値アラートを設定。

    • 監視アラートにDevOpsチームを自動通知し、初動対応の遅延を防止。

これら施策により、運用初期のトラブル対応工数を従来の80時間→20時間に短縮し、サポート費用相場を約75%削減しました。

ナレッジ定着と継続改善のための体制構築

プロジェクト完了後の継続的改善を実現するには、人や組織へのノウハウ定着が欠かせません。以下の取り組みで、内製化と長期的なコスト最適化を図りました。

  • ナレッジ共有プラットフォーム整備

    • Confluence上に「要件定義」「設計」「開発」「テスト」「運用」のテンプレートとベストプラクティスを整理

    • テンプレートの更新履歴を残し、プロジェクトごとの学びを体系的に蓄積

  • OJT制度の導入

    • 開発会社エンジニアと内製SEがペアで開発を進め、知見移転を実施

    • 週1回のコードレビュー会でベストプラクティスをフィードバック

  • 定期プロジェクト振り返り会

    • 3ヶ月ごとにクロスファンクショナルなメンバーでKPT(Keep, Problem, Try)形式の振返りを実施

    • 改善KPTを翌フェーズに反映し、PDCAを高速回転

  • 社内勉強会・ハンズオン

    • 年2回、最新技術やフレームワーク動向、事例共有をテーマに社内勉強会を開催

    • ハンズオン形式で実際に手を動かし、開発会社依存のリスクを低減

これらにより、運用体制の人員交代やプロジェクト規模拡大時にもナレッジが途切れることなく、追加予算発生を抑制しています。

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