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開発ノート:Python Dash製BIツールからReact+D3.jsへの再構築実録

プロジェクト背景と課題認識

私が所属するチームでは、社内向けのBI(ビジネスインテリジェンス)ツールをPython Dashで長年運用してきました。
当初は要件もシンプルで、ダッシュボードに数十件の指標を並べるだけのシステムでしたが、プロジェクトが拡大するにつれて「描画が遅い」「インタラクティブなグラフが作れない」という声が増えてきました。
特に、100万レコード単位の時系列データを集計するときに、ブラウザがフリーズしてしまうケースが頻発。
経営層からは「稟議申請のスピードを落とさないようにしてほしい」「費用対効果を考えて、既存のシステム開発費用を抑えたい」という要望が出ていました。
そこで、私たちは「React+D3.jsを活用してクライアントサイドレンダリングを強化し、描画性能とユーザビリティを向上させる」プロジェクトを立ち上げることにしました。
この決断を経営陣に説明する際には、既存システムの課題とD3導入による効果試算を示し、予算(費用)とROIの根拠を明確に提示しました。
また、システムを再構築するにあたっては、開発会社選びも重要な検討ポイントとなりました。
従来のDash開発会社ではReact+D3の知見が不足しているため、新たにフロントエンドに強みを持つパートナーを探す必要がありました。
本章ではまず、プロジェクトをスタートさせるに至った背景と認識した課題を整理します。
開発会社を選びやすくするため、要件定義フェーズでパフォーマンス要件を定量的にまとめ、発注スコープを明確化しました。
これにより、後述する見積もり相場や予算感のすり合わせがスムーズになり、無駄な追加費用を抑制する土台が整いました。

Python Dash製BIツールの限界

DashはPythonエンジニアにとって敷居が低く、データ可視化までの発注費用を抑えられるメリットがありました。
しかし、以下のような限界が顕在化しました。

  • 高解像度データを表示するときのレスポンス遅延

  • マウスオーバーやズームなどインタラクティブ操作のもたつき

  • カスタムグラフを組み込む際のJavaScript連携の難度

  • ライセンスやライブラリ更新による保守コスト増
    これらの課題は、エンジニアリング工数だけでなく、ユーザー体験の低下による業務遅延や問い合わせ対応工数という形で、総合的なコスト増につながります。
    実際、Dashでのバグ修正やチューニングにかかった期間は、相場でいう5工数/月程度の負担でした。
    また、要件変更が発生するたびに再チューニングが必要となり、予算超過リスクが徐々に高まっていました。
    このまま既存システムにコストを投じ続けるのであれば、将来的な拡張性と費用対効果の両立が難しいと判断しました。
    そこで、新規開発となるReact+D3.jsへの再構築によって、パフォーマンス問題と保守性を抜本的に改善する方針としました。
    この判断をするにあたり、発注先の選び方、予算配分、相場感などをあらかじめ整理しておくことが重要でした。

React+D3.js再構築の技術選定プロセス

新システムでReact+D3.jsを選んだ理由は、以下の観点からです。

  1. パフォーマンス:D3.jsはSVG/Canvas/WebGLのいずれかで高性能描画が可能

  2. 開発効率:Reactコンポーネント化により再利用性が高く、保守コストを抑制

  3. エコシステム:多数のライブラリが存在し、機能追加やカスタマイズが容易

  4. 技術人材:フロントエンド開発会社に経験者が多く、相場感の把握と発注がしやすい

  5. 将来性:Reactのロードマップとコミュニティ活性度が高く、長期プロジェクトにも耐えうる
    要件定義フェーズでは、D3で必要なグラフ種類とReactで実装するUIフローを図示し、プロトタイプを社内POCとして2週間で作成しました。
    このPOCでは、100万レコードのラインチャートをCanvasレンダリングし、クリックイベントを遅延100ms以内で実現。
    POCの結果をもとに、開発会社に対して見積もりスコープとして「D3.jsによるコア描画ライブラリ開発」と「Reactコンポーネント化」に分離して提示しました。
    この技術選定プロセスにより、開発会社間での相見積もりがしやすくなり、予算300万円前後の相場感を得ることができました。
    発注スコープが明確化されたことで、発注後の追加要件や費用増を未然に防げる体制を構築できています。

開発会社選びと発注準備

React+D3.jsプロジェクトでは、開発会社の選び方が成否を大きく左右します。
私たちは以下の基準でベンダーを選定しました。

  • 実務経験:React+D3の組み合わせで実績のある企業

  • 相見積もり対応力:工数内訳と単価を明示し、相場に合った価格交渉ができるか

  • コミュニケーション:オンライン/オフライン両方でスムーズに議論できる体制

  • サポート体制:リリース後の保守・バグ対応を明文化して提案できるか

  • 予算調整力:予算変動時のスコープ調整やコスト削減策を提案できるか
    RFPには、要件定義書、POCサンプルコード、想定ユーザー数、KPI(レスポンスタイム、ダウンタイム許容値)を含めて発注。
    各社からの提案を比較し、最終的にコミュニケーションの速さと相場感の精度が高いB社を選定しました。
    発注時の予算は350万円。内訳は、要件定義50万、UI設計50万、D3コア開発150万、React統合100万という構成です。
    見積もり相場を把握できたことで、予備予算を含めた費用管理が容易になり、追加要件にも柔軟に対応できる体制が整いました。

初期設計とプロトタイプ作成

B社とのキックオフ後、最初のスプリントでは「データフロー設計」と「画面レイアウトのプロトタイプ作成」に注力しました。
データフロー設計では、バックエンドAPIから取得したJSONデータをD3向けの形式に変換するロジックを図解。
画面レイアウトプロトタイプはFigmaで作成し、関係者レビューを複数回実施しました。
この段階で「ツールチップの表示位置がずれる」「複数チャートの連動が難しい」といった問題を洗い出し、要件定義を精緻化しました。
要件定義の精度を上げたことで、プロトタイプから本実装に移る際の手戻り工数を半減。
実際、プロトタイプフェーズにかかった工数は約20工数(相場約35万)で、
本開発フェーズでの追加工数見積もりが過去のプロジェクト比で30%減少しました。
この「プロトタイプ重視」アプローチは、システム開発の基礎知識としても有効です。
また、プロトタイプレビュー時に

を案内し、経営層や事業部門に費用感を再度確認してもらうことで、予算調整をスムーズに進めました。

実装フェーズの進め方と費用管理

実装フェーズでは、3週間を1スプリントとし、合計4スプリントで完了を目指しました。
各スプリントのタスクは以下のように割り振りました。

  1. D3コアレンダリングロジック実装

  2. Reactコンポーネント化とProps設計

  3. ユニットテスト&統合テスト導入

  4. パフォーマンス最適化&バイナリ圧縮

  5. 最終デザイン調整&レスポンシブ対応

  6. リリース準備&運用手順書作成
    タスクごとに費用消化率をダッシュボードに反映し、予算残を毎週レビュー。
    工数超過が想定される場合は、即時にスコープ調整会議を行い、追加予算承認を得たうえで着手しました。
    結果的に、全フェーズでの実際工数は140工数(相場160~180工数)に収まり、
    総費用は見込350万円を5%下回る330万円で完了しました。
    このように、スプリントごとの費用見える化と定期的な調整が、予算超過を防ぐカギとなります。

テスト戦略と品質保証

React+D3.js再構築プロジェクトでは、テスト戦略を早期に策定し、品質保証を徹底することが成功の鍵でした。まず、ユニットテストでは「D3コアレンダリング関数」と「Reactコンポーネントの描画ロジック」を分離し、それぞれにテストコードを用意しました。D3部分はJest+jsdomで、描画結果のSVG属性やCanvasの呼び出し回数を検証し、意図しない変更を防ぎます。React部分はReact Testing Libraryを活用し、ユーザーが操作したときのレンダリング更新をシミュレートしました。特に、ツールチップ表示やズーム操作といったインタラクションは、E2EテストでもCypressを用いてカバーしました。E2Eテストでは、CIパイプライン内でヘッドレスブラウザを用い、各スプリントの最後に自動実行しました。これにより、バグが本番に流出するリスクを大幅に低減し、保守コストを抑制できました。テストの自動化に要した工数は全体の15%にとどめ、相場の20%前後に比べて効率的に運用しています。

パフォーマンス最適化とチューニング

パフォーマンス最適化は、プロジェクト最大の難所でした。D3レンダリングでは、膨大なデータポイントをSVGベースで描画するとブラウザが重くなるため、重要なチャートはCanvas描画に切り替えました。Canvas描画用のラッパー関数をD3から分離し、Painterパターンで描画処理を行います。これにより、100万点の散布図も100ミリ秒以内に再描画できるようになりました。また、データバッファーを使った「差分描画」を導入し、前回から変化した部分だけを再レンダリングすることで、負荷をさらに抑制しました。Bundleサイズの最適化も実施し、WebpackのTerserプラグインで不要コードを削除、Brotli圧縮で配信バイナリを60%縮小しました。これらの最適化作業には約30工数を投じ、事前見積もりの20工数を10工数オーバーしましたが、その成果はページロード時間の改善とCDNコスト削減(約月額5千円)として回収できました。

デプロイとリリース管理

リリース管理では、GitHub Actionsを使ったCI/CDパイプラインを構築しました。プッシュで自動ビルド→ユニット&E2Eテスト実行→ステージング環境へデプロイ→Slack通知というフローです。ステージング環境では手動レビュー用の専用URLを発行し、QAチームと事業部門が同時並行で機能確認できるようにしました。これにより、本番リリース前の承認完了までのリードタイムを従来の3営業日から1日以内に短縮。また、リリースノートや変更差分を自動生成してConfluenceに連携し、運用チームへの情報共有工数も削減しました。ローリングデプロイを採用し、ダウンタイムゼロでのリリースを実現したのもポイントです。

モニタリングとアラート設定

本番環境では、Datadogを用いてフロントエンドパフォーマンスを監視しています。カスタムチャートで「チャート初回描画時間」「平均フレームレート」「エラー発生率」を可視化。これらのメトリクスが閾値を超えた場合は、自動的にSlackとメールにアラートを飛ばすよう設定しました。さらに、New Relic Browserでユーザー実行環境(OS/ブラウザ/端末)の分布を把握し、特定環境でのパフォーマンス劣化傾向を早期検知。これにより、事前にパッチリリースを行い、ユーザーからのクレーム対応コストをゼロに抑えられました。

運用保守フェーズの進め方

運用保守フェーズでは、月次の定期メンテナンスを計画し、プラットフォームやライブラリのアップデートを実施します。依存関係の脆弱性スキャンはGitHub Dependabotで自動化し、修正プルリクエストを都度レビュー。運用チームとのワークショップを四半期ごとに開催し、利用状況や改善要望を収集してバックログに登録します。要件変更や機能追加は小規模スプリントとして回し、追加費用は1スプリントあたり50万円以下に抑制。フェーズ分割で段階的に発注することで、予算(費用)の突発的膨張を防止しています。

ユーザーからのフィードバックと改善サイクル

リリース後はユーザー部門からのヒアリングを定期的に行い、ダッシュボードのUXや機能性を評価します。アンケートやヒートマップ分析を組み合わせ、改善ポイントを可視化。改善タスクは優先度に応じてバックログに追加し、月次スプリントで対応。これにより、ユーザー満足度を維持しつつ、不要な機能追加による費用浪費を防ぎます。また、フィードバック過多のタイミングでは

を案内し、事前に費用感を確認してもらうことで合意形成を迅速化しました。

プロジェクトの成果測定とROI分析

プロジェクト完了後、以下のKPIを設定して成果を定量化しました。

  • 初回チャート描画時間:平均2秒→0.5秒(75%改善)

  • ユーザー操作後のレスポンスタイム:1.2秒→0.3秒(75%改善)

  • ダッシュボード利用率:月間500ユーザー→800ユーザー(60%増)

  • 保守対応コスト:月20工数→5工数(75%削減)

  • 開発投資回収期間:予算330万円→3カ月で回収完了
    これらの成果から、React+D3.jsへの再構築は費用対効果の観点でも成功だったと結論づけています。

開発ノートまとめと次への教訓

本開発ノートでは、Python Dash製BIツールからReact+D3.jsへの再構築における技術選定、開発会社選び、要件定義、テスト戦略、パフォーマンス最適化、運用保守、ROI分析までを共有しました。
特に、発注時に「プロトタイプ重視」「スコープ分割発注」「費用見える化」を徹底することで、予算超過を防ぎつつ高品質を実現できたのが最大の教訓です。
次回プロジェクトでは、このノウハウを他システムの再構築や新規開発にも適用し、さらなるコスト最適化とユーザー体験向上を追求します。

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