開発フェーズごとの“会話のズレ”をどう防ぐか?プロジェクト管理における“言葉の同期”術

なぜプロジェクトでは「話が噛み合わない」ことが起きるのか?
システム開発を依頼するとき、最初の打ち合わせでは「理解してくれている」と思ったのに、
進行するうちに「イメージと違った」「仕様と違う」といったトラブルが生じることは少なくありません。
これは、受託開発におけるフェーズごとの“会話のズレ”が原因です。
・要件定義時は「ざっくり伝えたこと」が、開発段階では「仕様として固定」されてしまっていた
・設計書に書かれた表現が「発注側の意図」とずれていた
・「イメージ通りに実装されるだろう」と思っていたが、実際は伝わっていなかった
こうした“思い込みのすれ違い”が、開発コストの増大・納期遅延・成果物の不満につながります。
この記事では、システム開発における「言葉のズレ」がどこで起きやすく、どうすれば防げるのかを、実際の開発フェーズ別に解説します。
フェーズ別に起きやすい「言葉のズレ」とその背景
要件定義フェーズ:「伝えたつもり」が最も起きやすい
このフェーズでは、業務課題や要望を“口頭や資料”で伝えるのが主です。
たとえば「ログイン機能は必須です」と言ったとしても、
・メールアドレスでのログインか?
・SNS連携はあるか?
・認証コードを使うのか?
・パスワードのポリシーは?
といった設計レベルの話までは深堀りされません。
つまり「同じ言葉を使っていても、頭に思い描いていることが異なる」ことが頻発するのです。
基本設計フェーズ:「書類に落とした瞬間に“確定扱い”される危うさ」
要件を設計書に落とし込む際、発注者がレビューした設計書に「OK」と言ってしまえば、
その時点の記述が“契約内容”として固まります。
しかし、用語や文脈の違いから、「あとで読み返すと違う意味に見える」ことも少なくありません。
設計書の中では、特に以下のような項目に注意が必要です:
・画面遷移の前提
・エラーメッセージやバリデーションの粒度
・検索条件や一覧表示の並び順
・「○○できる」仕様の裏側にある「例外対応」の有無
→ これらは曖昧に記載されがちですが、後で開発工数やテストコストに大きく跳ね返ってきます。
詳細設計〜開発フェーズ:「“暗黙の想定”が実装されてしまう危険」
このフェーズでは、画面UIや機能の動作について、「言葉にされていない前提」が実装に入り込むことがあります。
・ボタンの配置順、色、サイズなどが業界標準と異なる
・「保存」ボタンを押すと自動的にバリデーションがかかると思っていたが、実装されていない
・一覧に検索機能があると思っていたが、実装スコープ外だった
こうした細部の齟齬は、テスト段階になって初めて発覚し、「仕様ではなくイメージです」とされると追加費用の対象になることもあります。
言葉の“同期ズレ”を防ぐために必要な3つの視点
視点1:要件定義段階では「目的」と「対象範囲」を明確にする
「この機能は、どんな業務課題を解決したくて、どの部署・誰が、どのタイミングで使うのか」
という“目的とコンテキスト”を明示することで、設計者が“使い方を想像”しやすくなります。
→ たとえば、「CSV出力」が必要な理由が「会議で印刷して配布するため」なら、
列名の日本語表記や、出力フォーマットの整形などが自然と設計に盛り込まれます。
視点2:「言葉」だけでなく「画面・図・ストーリー」で共有する
テキストだけでは解釈に幅が出るため、以下のようなビジュアル要素を併用することが効果的です。
・業務フロー図(アクティビティ図)
・画面イメージ(簡易なワイヤーフレームでも可)
・ユーザーストーリー(例:「Aさんが9時に出勤し、タイムカードを押すと…」)
・紙運用時の帳票や記入例を共有
特に「新規開発」の場合は、既存システムや過去事例がない分、「伝わる」手段の工夫が重要です。
視点3:「確認ポイント」と「曖昧な箇所」を可視化しておく
プロジェクト管理の中で、以下のような確認マトリクスを使うと、「未確定の項目」が明確になります。
項目 | 現状 | 確認済み | 補足 |
---|---|---|---|
ログイン方式 | メールアドレス | × | LINE連携検討中 |
通知機能 | 必要 | 〇 | メール+管理画面通知 |
利用環境 | スマホ/PC | 〇 | タブレットも想定あり |
このように表でまとめておくと、「ここがまだ決まってないんだな」という認識の共有がしやすくなります。
開発会社との“言葉のズレ”を防ぐための実務的アプローチ
定例会議では「議事録」よりも「変更履歴」に注目
会議の記録を残すことも大事ですが、より重要なのは「変更点がどこか」「なぜ変わったか」です。
→ たとえば、「この項目を必須から任意に変更した」という履歴が残っていれば、
リリース後に「なぜこうなってるのか?」といった不要な混乱を避けることができます。
テストフェーズ前に「想定テストシナリオ」を出す
システムテストでは、「想定通りか?」を確認することが目的です。
しかし発注者側が思い描く「想定」と、開発会社側の「正常系」が一致していないことがしばしばあります。
→ このため、発注者自身が「自分たちがこういう操作をしたいと思っている」というテストシナリオの例を先に渡すことが有効です。
リリース前は「仕様一覧の確認会」を設ける
リリース直前のタイミングで、「実装された仕様が、要件と一致しているか」を一覧で確認する場を設けましょう。
これにより、「あれ、あの件どうなったっけ?」といった抜け漏れが減り、
「後から追加」「運用フェーズでの想定外対応」を防ぐことができます。
まとめ:「“話し合ったつもり”を防ぐ」ことが成功の鍵
システム開発における“失敗の芽”は、意外にも最初の言葉のやりとりに潜んでいることが多いものです。
特に、受託開発では発注者と開発会社の間に、立場・知識・目的の違いがあります。
だからこそ、次の3つが非常に大切です:
-
目的と利用シーンまで含めて伝える
-
仕様ではなく、「使い方の流れ」で伝える
-
曖昧な部分を曖昧なまま放置せず、明示して残す
この“言葉の同期”さえできていれば、多少の仕様変更や仕様漏れがあっても、
チームとして前向きに乗り越えることができるでしょう。