APIバージョン管理失敗から学ぶ設計改善ノート

プロジェクト開始前のAPI戦略策定
あるBtoBサービスのバックエンドAPI開発では、プロジェクト開始直後に設計ガイドラインが曖昧だったため、採用したフレームワークごとに仕様が微妙に異なる実装が混在してしまいました。
チームはNode.js+Express.jsと、Python+FastAPIという二つの環境で並行開発を進めていたのですが、APIパス設計やエラーレスポンス形式、認証方式が統一されておらず、開発会社に発注する際の「システム、開発会社、選び方、予算、費用、相場、発注」も含めた外部パートナー連携に支障が出ました。
特にAPIバージョン管理のルールが不在だったため、v1とv2が混在し、クライアント実装担当者が混乱。ドキュメントの整合性を取るために追加費用が発生し、結果として予算超過のリスクが顕在化しました。
この経験から学んだのは、プロジェクトキックオフ時点で必ず以下のポイントを合意することです。
-
APIパス規約(例:
/api/v1/...
を必須化) -
リクエスト/レスポンススキーマの共通フォーマット(JSON API準拠など)
-
エラーコードとメッセージの定義一覧
-
認証・認可方式(OAuth2.0、APIキーなど)
これらをSwagger(OpenAPI)やGraphQLスキーマでコード連携し、CIパイプラインで仕様変更時にビルドエラーとなる仕組みを構築しました。
当初は要件定義書に記載する程度でしたが、後にドキュメント自動生成+コード同期を導入し、開発効率と品質が飛躍的に向上。プロジェクト推進の手戻りを大幅に削減できました。
要件定義での曖昧さが招いた追加工数
API仕様が決まっていないまま設計に着手すると、後工程で大幅な手戻りが発生しやすくなります。
本プロジェクトでも、顧客からの要望変更が都度APIパラメータに波及し、各エンドポイントの実装・テスト・ドキュメント更新に追加費用がかかりました。
要件定義段階で「必須パラメータ」「オプションパラメータ」「型チェックルール」を明文化せず、口頭ベースで進めた結果、品質保証フェーズで発覚した欠落修正に工数を浪費。
これを防ぐため、本番リリース前に以下のステップを取り入れました。
-
利用ケースごとにAPIユースケースシナリオを作成
-
各シナリオをSwagger Editorでモックし、セルフレビューを実施
-
ステークホルダー承認後に見積りを確定し、発注フェーズへ移行
-
要件定義と見積書をひも付け、変更管理プロセスを契約条項として明文化
これにより、次プロジェクトでは要件追加が発生しても「変更要求→影響範囲分析→追加見積→合意」のプロセスが明確化し、事前交渉で発注金額が大幅にブレることがなくなりました。
また、システム開発会社選びの際も、要件定義書と見積書一式をパッケージとして提示することで、見積相場と合致しないベンダー提案を排除でき、キャッシュフロー管理が安定しました。
アジャイル開発導入による迅速化の工夫
上記の問題を受け、チームはウォーターフォール手法からスクラムをベースにしたアジャイル開発へ移行。
2週間スプリントで以下のプラクティスを徹底しました。
-
スプリントゴール設定:API仕様の決定、実装、コードレビューを一単位にまとめる
-
デイリースタンドアップ:各メンバーが進捗と障害を共有し、仕様齟齬を即時解消
-
スプリントレビュー:エンドポイントの動作デモとドキュメントの自動生成結果をステークホルダーに提示
-
スプリントレトロスペクティブ:要件追加時の工数増減や発注段階での交渉ポイントを振り返り
特に、ストーリーポイントにAPI仕様変更リスク分を含めることで、スプリント計画の予測精度が向上。
チーム内にQAエンジニアを1名アサインし、API自動テスト(Postman/Newman)をCIパイプラインに組み込むことで、実装直後の回帰テストを自動化しました。
これにより、リリース直前の総合テスト工数を50%削減し、スプリント完了から本番デプロイまでのリードタイムを1週間短縮。
発注側の予算・費用・相場感をリアルタイムで把握できるダッシュボードをManagement層に公開し、社内承認プロセスも迅速化されました。
QAプロセス強化で品質向上
API品質を担保するため、QAプロセスを以下のように強化しました。
-
ユニットテスト:各コントローラやユーティリティ関数をJest/Pytestでテストカバレッジ90%以上を目標
-
契約テスト(Contract Test):OpenAPI Schemaから自動生成したテストコードで、クライアント実装との整合性を検証
-
結合テスト:Docker Composeで依存サービスを起動し、本番に近い環境でAPIエンドツーエンドを自動実行
-
セキュリティテスト:OWASP ZAPによる脆弱性スキャンをCIパイプラインに組み込み、開発会社への発注段階で脆弱性対応を契約条項に追加
-
パフォーマンステスト:Artilleryで同時接続数500ユーザーを想定し、レスポンスレイテンシを測定
これらにより、本番リリース直前の重大バグ0件を達成。
また、QA担当と開発担当がペアでレビューを行う「ペアレビュー制度」を導入し、システム設計やコード実装の品質を双方向に担保しました。
発注時の見積書には「QA自動化対象範囲」を明記してもらい、追加費用の抜け漏れを防止。
障害発生からのインシデント対応とポストモーテム
本番稼働後に突如APIのレスポンス遅延が発生し、システム全体のパフォーマンスが著しく低下したことがありました。まずオンコールエンジニアがアラートを受領し、Grafanaのダッシュボードでエラー率とCPU使用率の急上昇を検知。即座にチームに連絡し、障害対応チャンネルを立ち上げました。
インシデント対応の流れは以下の通りです。
-
影響範囲の特定:API GatewayのログをCloudWatchで確認し、どのエンドポイントでタイムアウトが起きているかを特定。
-
一時的回避策:問題エンドポイントだけをスロットリング設定し、トラフィックを制限して全体ダウンを防止。
-
原因解析:New RelicのAPMトレースでLambda関数内部のDBクエリボトルネックを掘り下げ、インデックス不足を突き止める。
-
恒久対策:DBインデックスとクエリの最適化を実施し、APIレスポンス時間を平均200msから50msへ改善。
-
カナリアリリース:修正後のLambda関数を一部ルーティングでテストし、問題なければ全トラフィックへ適用。
障害収束後には必ずポストモーテム(事後検証)を実施し、「KPT(Keep, Problem, Try)」形式でまとめました。
-
Keep:迅速なアラート検知とオンコール体制の運用
-
Problem:ポリシー化されていないインデックス設計の甘さ
-
Try:自動ドリフト検知と定期クエリレビューのワークフロー導入
ポストモーテムレポートはConfluenceに記載し、後からでも誰でも参照できるように管理しました。これにより、類似インシデントの再発防止と、開発会社への発注・予算管理における交渉材料としても活用しています。
ナレッジ共有とドキュメント整備
個々のエンジニアが持つノウハウを組織全体の資産に変えるため、体系的なドキュメント整備を進めました。まずはAPI設計ガイドラインやエラーハンドリングポリシーをMarkdownで作成し、GitHubリポジトリでバージョン管理。Pull Request時に必ず更新をレビューする運用を徹底しました。
また、週次でTech Share会を開催し、以下のテーマをローテーションで共有。
-
障害対応事例レビュー
-
新規導入ライブラリやフレームワークの使用感
-
パフォーマンスチューニング結果
さらに、Slackに専用チャンネルを立て、コマンドスニペットやクエリ最適化テクニックを随時投稿。投稿内容は自動でConfluenceの「Tips集」にインポートされる仕組みを構築し、情報を散逸させませんでした。教育用に短い動画マニュアルをGitLab Wikiにアップロードし、新人がオンボーディング時に参照できるようにした点も好評でした。
こうしたナレッジ共有の取り組みは、プロジェクト完了後の運用フェーズでも継続し、技術的負債の蓄積を防ぐとともに、次回以降のシステム刷新や外部ベンダー選び、発注時の要件定義にも大きく役立っています。
継続的改善サイクルの実践
開発ノートで得た知見を次に活かすためには、PDCAサイクルを高速で回すことが重要です。具体的には、以下のステップを2週間スプリントで実行しています。
-
Plan:前スプリントのメトリクス(エラー率、レスポンス時間、リリース遅延件数)を分析し、改善テーマを設定。
-
Do:改善テーマをストーリー化し、スプリントバックログに取り込む。
-
Check:CI/CDパイプラインで自動化テストを走らせ、改善後の効果をリリース前に検証。
-
Act:リリース後のモニタリング結果から得られた知見を次スプリントにフィードバック。
たとえば、あるスプリントではレスポンス改善のためにクエリ最適化を実施し、次スプリントでメトリクスが40%改善されたことを確認。次にキャッシュ戦略を導入し、さらなる高速化を図るといった具合に、継続的に価値を高めています。
また、改善テーマは必ず「システム」「開発会社」「選び方」「予算」「費用」「相場」「発注」といったキーワードを含むプロジェクト要件に紐づけ、経営層や事業責任者への報告資料として活用。これにより、投資判断やベンダー検討時の根拠資料としてエビデンスを提供できています。
コミュニケーション強化とチーム文化醸成
技術的な運用だけでなく、チームの心理的安全性とコミュニケーションもプロジェクト成功の鍵です。
毎日のデイリースタンドアップでは、「昨日できたこと」「今日やること」「困りごと」を全員で共有し、課題を即座に拾い上げる体制を構築。問題が大きい場合はその場でペアプログラミングを実施し、課題解決のスピードを上げました。
週次のレトロスペクティブでは、良かった点・改善点をKPT形式で議論し、改善案は必ずアクションアイテム化。BIツールにKPIと合わせて可視化し、改善の進捗を数値で管理しました。
さらに、成果を称える仕組みとして月次MVP制度を導入し、Slackの「#kudos」チャンネルで表彰。リモートでも互いの貢献を認め合う文化が高まり、離職率の低下と生産性向上を実現しました。
技術リーダーやプロジェクトマネージャーは、これらの取り組みを通じて「開発会社に依存しない内製力の向上」や「予算に対する効果検証」のノウハウを蓄積し、次回プロジェクトの選び方や発注戦略に活かしています。