要件定義フェーズで失敗しないために｜システム開発の成否を分ける準備のコツ

システムやアプリ開発を始めるにあたり、最初の重要なステップが「要件定義」です。このフェーズを疎かにすると、後になって「こんな機能が必要だった」「思っていたものと違う」といったトラブルが発生し、開発の遅延やコスト増加につながることが少なくありません。

この記事では、実際の開発現場でよくある要件定義の落とし穴や、成功させるための進め方・考え方について詳しく解説します。これから開発を始める方、クライアントとの打ち合わせに臨む方にとって、役立つ内容をお届けします。

要件定義とは？設計の前に行う「目的と機能のすり合わせ」

要件定義とは、「システムに何を求めるか」を言語化・構造化する工程です。これにより、開発側（エンジニア）と依頼側（クライアント）が共通の認識を持ち、実現すべき範囲を明確にします。

要件定義は、大きく以下の2つに分類されます。

1. 業務要件（ビジネス視点での目的やゴール）

2. システム要件（機能・画面・データなどの詳細）

たとえば、「予約管理アプリを作りたい」という要望に対して、どんな予約方法に対応するか、何分単位で時間を切るか、キャンセルルールはどうするかなどを明文化していくのが要件定義です。

ここがあいまいなまま開発に入ってしまうと、後々の仕様変更が多発し、工数の膨張や品質低下につながります。

要件定義が不十分だと起こるトラブル

要件定義をしっかり行わなかったことで起こりがちな問題には、以下のようなものがあります。

• 完成後に「思っていた機能と違う」と言われる

• UI（画面設計）が使いにくく、ユーザーに浸透しない

• 途中で仕様変更が頻発し、スケジュールが遅延

• 追加機能の要望が予算内で収まらず揉める

• エンジニアと非技術者の間で認識がずれる

要件定義は「ドキュメントを作る作業」と思われがちですが、実際には「関係者間の認識を揃えるプロセス」が本質です。つまり、完成品のイメージを関係者全員が同じように描ける状態にすることが目的です。

要件定義フェーズの進め方

実際に要件定義をどのように進めていくのか、一般的なステップを紹介します。

ステップ1：ヒアリング・課題の把握

最初は、クライアント（依頼側）へのヒアリングからスタートします。以下のような質問を通じて、業務やサービスの課題、目的、対象ユーザーを洗い出します。

• なぜこのシステムを作りたいのか？（目的）

• 誰がどのように使うのか？（ユーザー）

• 今の業務のどこに課題があるのか？（背景）

• 成功と判断する基準は何か？（KPI）

この段階では、機能の話をいきなり深掘りするのではなく、まず「ビジネスの課題」をしっかり理解することが大切です。

ステップ2：要件の整理と優先順位付け

ヒアリング内容をもとに、実現すべき要件を機能としてリストアップします。そして、それぞれに対して「必須機能」「推奨機能」「将来的に必要な機能」など、優先順位を付けます。

この優先順位が決まっていないと、すべてを詰め込んだ設計になってしまい、予算オーバーやリリースの遅れにつながります。

ポイントは、「まず最小限でスタートする」という考え方。これはMVP（Minimum Viable Product）のアプローチとしても知られており、初期開発では必要最低限に絞ることが成功の鍵です。

ステップ3：画面構成・業務フローの設計

要件がまとまったら、画面単位での操作フローや業務プロセス図（業務フロー図）を作成します。これにより、システムの全体像が視覚的に理解できるようになります。

よく使われるツール：

• Figma（画面構成やワイヤーフレームの作成）

• Miro / Whimsical（業務フロー図やマインドマップ）

• Googleスプレッドシート（要件一覧の整理）

画面設計を早めに共有することで、「操作性」や「入力項目の粒度」など、仕様のすれ違いを防ぐことができます。

ステップ4：要件定義書・仕様書の作成

ヒアリング、要件整理、画面設計を経て、最終的に「要件定義書」を作成します。

一般的には以下のような項目を含みます。

• システム概要

• 対象ユーザーと利用シーン

• 機能一覧と画面構成

• 入出力するデータの項目

• 業務フローと連携の流れ

• 開発スケジュール（ざっくり）

• 対応範囲と除外範囲

この文書をクライアントと共有し、最終合意を得た上で設計フェーズへと移行します。

要件定義を成功させるためのポイント

要件定義フェーズでミスを防ぎ、スムーズな開発へとつなげるためのポイントを紹介します。

1. 「何を作るか」ではなく「なぜ作るか」から入る
   　目的を見失うと、機能が増える一方でコストも肥大化します。

2. 専門用語は使わず、誰でも理解できる言葉で書く
   　関係者にエンジニア以外も含まれる場合、伝わる言葉選びが重要です。

3. 書類だけでなく「図」で伝える
   　画面構成やフロー図など、視覚的に伝える工夫が理解度を高めます。

4. 「やらないこと」も明確にする
   　対応範囲を決めておかないと、リリース前に仕様追加が発生しやすくなります。

5. 小さく始める、後で育てる
   　すべてを一度に盛り込まず、まずは必要最小限でリリースし、改善を繰り返すのが鉄則です。

よくある失敗例とその対処法

失敗例：クライアントが「全部おまかせで」と言ったから詳細を詰めずに開発を進めた → 完成後に大量の修正依頼

対処法：おまかせ＝任せきりではないことを説明し、「仮で構いませんのでイメージを一緒に描きましょう」と巻き込むことが重要です。

失敗例：現場の意見を反映せずに経営層とだけ話して進めた → 現場で使えないシステムが完成

対処法：利用者（ユーザー）の声を初期段階から取り入れることで、現場にフィットした仕様になります。

まとめ：要件定義は「開発の半分」以上を担う重要な工程

システムやアプリの開発では、設計や実装ばかりに目が向きがちですが、実は要件定義こそが最も重要なフェーズの一つです。

目的が整理され、必要な機能が明確になっていれば、設計・開発・テストとすべてのフェーズがスムーズに進みます。逆に、ここが不明確なまま進むと、後戻りやトラブルの原因になります。

最初の段階で「ちゃんと話す」「ちゃんと書く」「ちゃんと図にする」。この3つを意識して要件定義に取り組むことが、開発成功への第一歩です。