運用時モニタリング設計の新常識|“使われ始めてからの品質”を支える仕組みづくり

システム開発会社やWeb開発会社への依頼を検討する企業が、近年必ず直面するテーマの一つが「運用フェーズでの品質担保」です。多くの見積もり比較や開発費用シミュレーションが行われる中で、いざリリースした後に“想定外の問題が現場で多発する”という声は後を絶ちません。
実は、その多くが「運用時モニタリング設計」が初期設計段階で軽視されていることに起因しています。
本記事では、「本番運用が始まった後の“使われている間”の品質」を支える、現場主導のモニタリング設計の基礎知識と実践フレームワークを徹底解説します。
「エラーや遅延が発生した時の初動対応力を高めたい」「開発後の保守運用コストを抑えつつサービス品質を上げたい」という担当者の方は、ぜひご一読ください。
なぜ運用時モニタリングが今あらためて重要なのか?
現代のシステム開発では、単なる開発完了やリリースだけでなく、「サービスイン後も安定稼働させ続ける力」が問われるようになっています。
その背景には以下のような変化があります。
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クラウドやサーバーレスの普及で、運用現場の責任分界が複雑化
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マイクロサービスやAPI連携など、システム構成が多層化・複雑化
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ユーザーの期待値上昇と“ゼロダウンタイム”志向
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開発費用を抑えた短納期リリース→後から機能追加・修正が前提に
こうした状況下で、運用フェーズでの障害やパフォーマンス低下が「直接ビジネス損失」につながるケースが増えているのです。
モニタリング設計とは何か?従来との違い
これまでの「監視」は、主にインフラ(サーバー死活監視、CPU/メモリ監視など)を対象としていました。しかし、現代ではシステムの“利用体験”を支える「アプリケーションレイヤ」「業務フロー」「ユーザー行動」までを俯瞰的にモニタリングすることが不可欠です。
「モニタリング設計」とは、
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何を
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どの粒度で
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誰が
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どのタイミングで
観測し、検知・通知・分析・対応につなげるか?
を設計段階から決めておく技術的・運用的アプローチのことです。
モニタリング項目はどう決める?現場起点の視点
実践的なモニタリング設計の第一歩は、「現場で起こると困ること」を徹底的に洗い出すことから始まります。
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システム停止・ダウンタイム
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業務処理の遅延(例:バッチ遅延、ファイル取込遅延)
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エラー多発(入力エラー、外部APIエラー)
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特定画面のパフォーマンス劣化
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想定外のユーザー行動(不正利用・大量操作)
これらの“困る現象”を、現場インタビューや運用担当ヒアリングを通じて列挙し、優先度を付けます。
さらに「なぜそれが困るのか」「誰が一番困るのか」「どのくらい頻度で発生しうるのか」をドキュメント化します。
具体的な設計要素:何をどのように監視・通知・分析するか
現場ニーズを洗い出したら、次に「技術要素」と「運用フロー」の両輪でモニタリング設計を具体化します。
1. 監視対象・観測粒度の設計
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インフラレベル:CPU/メモリ/ディスク/ネットワーク
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アプリケーションレベル:APIエラー率、レスポンスタイム、外部連携先の応答
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業務フローレベル:バッチ処理の正常終了、月次処理の進捗
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ユーザーレベル:異常なログイン回数、操作頻度の急増
2. アラート設計と閾値決定
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どの数値(エラー回数、遅延秒数、閾値超過回数)を
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どんな頻度・条件(連続n回/単発発生)で
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誰に(運用担当・現場管理者・全体管理者)通知するか
3. 通知チャネルと初動対応フロー
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メール、Slack、Teams、SMSなど即時性に応じて選択
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通知内容のテンプレート化(エラー内容+発生時刻+影響範囲)
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一次対応者・二次対応者の明確化
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事象発生から対応完了までのSLA(Service Level Agreement)を設定
4. ログ設計・蓄積と可視化
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ログの保存期間、出力内容の粒度、PII(個人情報)対策
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監視ダッシュボードやBIツールでのリアルタイム可視化
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月次・週次のレポーティング自動化
モニタリング設計に役立つ主要ツールと技術
現代のシステム運用では、SaaS/クラウド監視サービスやOSS(オープンソースソフトウェア)を柔軟に組み合わせるのが一般的です。
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インフラ監視:Zabbix、Nagios、CloudWatch(AWS)、Datadog
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APM(アプリケーション監視):NewRelic、Sentry、Dynatrace
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ログ収集・分析:Elasticsearch+Kibana、Fluentd、Logz.io
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業務フロー監視:独自バッチ管理ツール、業務用SaaS連携
これらのツール選定は、開発会社の提案力と自社運用体制(内製/外注)を考慮して最適化することが重要です。
モニタリング設計の費用対効果──“保険”から“価値創出”への進化
一見「監視やモニタリングはコスト(保険料)」と思われがちですが、実は近年「攻めの経営資産」へと進化しています。
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障害の早期発見・即時対応によるダウンタイム削減
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業務処理のボトルネック可視化→業務改善・追加提案の材料化
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ユーザー動向・エラー傾向のビッグデータ活用
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SLA準拠やISMS/SOC2など認証対応時の証跡にも
こうした背景から、モニタリング設計にしっかり予算を組む企業が増えています。
開発会社にモニタリング設計を依頼する際のチェックポイント
システム開発依頼や見積もり時に、以下のような観点で開発会社を評価してください。
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運用フェーズを意識したモニタリング設計経験が豊富か
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技術選定(SaaS/OSS)の説明と「コスト・運用負荷」比較ができるか
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アラートやダッシュボードの「業務現場目線」での設計提案ができるか
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「現場インタビュー」から項目を洗い出して設計してくれるか
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保守運用体制(障害対応フローや連絡網設計)まで一括支援可能か
こうした提案ができる開発会社は、単なる「納品業者」ではなく、ビジネスの成長に寄り添うパートナーです。
まとめ:モニタリング設計で「運用後の安心と価値」を仕込もう
これからのWebシステム開発、アプリ開発、業務システム開発では、「納品して終わり」ではなく「運用してからの安心・成長」を最初から設計に組み込むことが、投資対効果を最大化する近道です。
ぜひ開発会社選びや要件定義の際には、「運用時モニタリング設計」の視点を持ち、使われ始めてからも“強い”サービスを目指してください。