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フィーチャーフラグ運用の落とし穴とベストプラクティス:拡張性ある機能切替設計の舞台裏

はじめに:フィーチャーフラグの導入は「実装の終わり」ではない

近年のWeb開発やアプリ開発、業務システム開発の現場では、プロダクトの成長速度と安定性を両立させるためのツールとして「フィーチャーフラグ(Feature Flag)」の導入が加速しています。これにより、機能の段階的なリリース、ユーザー層別のテスト導入、万が一の切り戻しなどが実現し、運用の柔軟性が格段に向上しました。

しかし、「導入すること」自体が目的化してしまい、その後の運用や削除、ドキュメント整備が不十分なまま放置されると、結果的に開発スピードや保守性の足を引っ張る要因になります。フィーチャーフラグは、便利な一時的な手段であると同時に、適切に設計・運用されなければ“構造的な技術的負債”になり得るのです。

本記事では、そうした課題を回避するために必要な「フィーチャーフラグを戦略資産として運用する設計思想と実践方法」について、現場でのユースケースや構成例を交えながら詳しく解説します。

フィーチャーフラグとは何か?仕組みと活用範囲の再定義

フィーチャーフラグの基本構造

フィーチャーフラグは、「コードに書かれた機能をユーザーに対して有効化するか否か」を柔軟に制御できる仕組みです。ON/OFFの切り替えによって機能の提供を制御するトグルのような構造を持ち、主に条件分岐によって機能の表示・非表示、挙動の変化を担います。

想定されるユースケース

  • ステージング環境に近い本番環境での段階的な機能公開
  • A/BテストによるUX改善仮説の検証
  • 顧客単位・ロール単位での機能制御
  • バグ発生時の即時切り戻しの仕組み
  • 法的要件に合わせた機能制御(例:地域別機能制限)

このように、フィーチャーフラグは単なる開発中の便利な仕組みを超え、実装と運用をつなぐ「ビジネスロジックの制御点」としても機能します。

フィーチャーフラグ運用に潜む4つの落とし穴

1. 使い捨てられずに放置されるフラグの山

多くのプロジェクトで、既に無効となったフラグや不要になった条件分岐がコードに残されているケースが見受けられます。これは、削除計画やガイドラインが曖昧なまま運用されることによって起こります。

特に中長期での開発を行う案件では、「フラグ追加と同時に削除タイミングや条件を明記する」ことが、後の保守性とチーム生産性を守るために極めて重要です。

2. テストケース爆発による品質保証の停滞

フィーチャーフラグによって分岐が増えると、各パターンに対するテストの必要性も増加します。「ON時だけバグが出る」「ある2つのフラグの組み合わせで想定外の動作になる」といった事象を予防するには、状態ごとのユニットテスト・E2Eテストの充実が不可欠です。

テスト自動化の徹底に加え、テストシナリオの作成時に「想定されるフラグ組み合わせの優先度」を定義する設計運用が求められます。

3. 属人化した管理とブラックボックス化の進行

「フラグの存在すら知らなかった」「誰がONにしたか不明」「仕様変更の背景が記録されていない」といった属人化のリスクは、規模が大きくなるほど顕著になります。

これを防ぐには、フィーチャーフラグの管理をチームで見える化し、「誰が・いつ・何の目的で追加したか」「今の状態はどうなっているか」といった情報を一元的に管理・可視化できる基盤が必要です。

4. ビジネス側との意図のズレによる混乱

業務部門からの「この機能は一部ユーザーだけに適用してほしい」といった要望に対し、開発側がフラグによる制御を想定していなかった場合、実装方針のすり合わせが遅れて開発工数の膨張につながることがあります。

フィーチャーフラグは「システム上の制御構造」であると同時に、「ビジネス上のリリース戦略」を具現化する仕組みであることをチーム全体で認識しておくべきです。

フィーチャーフラグ運用のベストプラクティス:設計・実装・運用の三位一体

設計フェーズ:戦略的に設計されたフラグ一覧を構築

NotionやGoogleスプレッドシート、または専用の管理ツールを活用し、以下の情報を一覧で管理することが推奨されます。

  • フラグの一意な識別子と目的
  • 追加日と担当者
  • 現在の状態と切替可能な権限範囲
  • 想定される削除タイミングとその条件

設計初期からこの一覧を整備することで、チーム全体の開発観点が揃い、不要な混乱を防止できます。

実装フェーズ:非エンジニアでも扱えるインターフェースの整備

フラグのON/OFFを直接コードにハードコーディングするのではなく、管理UIや管理APIを通じて操作できる構成にすることが望まれます。特に非エンジニアやビジネス側メンバーも関与する場面では、次のような機能が必要です。

  • ボタン1つでON/OFFを切り替えられる管理画面
  • 操作ログ(誰が、いつ、どのフラグを変更したか)
  • 権限別の表示・操作制限
  • UI設計は直感的かつ安全性を意識(例:変更時に確認ダイアログ)

運用フェーズ:CI/CD連携とリリース履歴の可視化

デプロイ時に自動的にフラグの状態を記録し、変更履歴と紐づけることが重要です。また、テスト段階でもフラグごとの挙動を記録・可視化し、リリース後のトラブルシュートの効率を高めます。

GitHub ActionsなどのCIツールと連携して次のような自動化を推進しましょう:

  • フラグの状態で分岐したテストケースを自動実行
  • テスト通過時のみ本番反映
  • 本番反映後のログをBigQueryなどで分析

実プロジェクトにおける運用構成例

実際にフィーチャーフラグを柔軟に運用したプロジェクトでは、以下のような構成が採用されていました。

  • データ格納:Firestore(JSON構成)
  • バックエンドAPI:Cloud Functions + Firebase Auth によるロール管理
  • フロントエンド:Next.js + SWR(フラグ状態をリアルタイム取得)
  • 管理画面:社内専用SPA(部署別アクセス制御)
  • 分析基盤:BigQuery + Looker Studio(可視化と履歴保存)

この構成により、開発と運用の連携が強化され、社内テスト、段階リリース、ロールバックまでが統合された運用体系を構築できました。

フィーチャーフラグ運用で評価される受託開発会社の条件

受託開発会社にとって、フィーチャーフラグを戦略的に設計・実装・運用できる能力は、単なる技術力以上の評価対象となり得ます。以下のような特徴を持つ会社が、今後の開発パートナーとして重宝されるでしょう。

  • 初期要件のヒアリング段階で「運用設計」まで見越せる
  • エンジニア以外も扱えるUI設計を積極的に提案
  • フラグのライフサイクル全体を通じた支援(追加・更新・削除)
  • テスト戦略やCIとの統合をワンパッケージで提供可能

まとめ:フィーチャーフラグは「技術」ではなく「戦略資産」へ

フィーチャーフラグは、単なるコードの分岐点ではありません。ビジネス戦略に基づいたリリース制御、ユーザー体験の最適化、社内外の調整フローにおいて重要な役割を果たす「戦略資産」として捉えるべきです。

そのためには、技術者視点だけでなく、プロダクトマネージャー、営業、CS、運用チームなど多様なステークホルダーを巻き込んだ設計と運用の仕組み作りが不可欠です。

「作って終わり」ではなく、「どう使い、どう終わらせるか」まで見据えたフィーチャーフラグの設計と運用が、今後のシステム開発において求められる“本質的な拡張性”を生む鍵となるでしょう。

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