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設定項目設計は“運用の命綱”|仕様変更に強いシステムを支える設計戦略とは?

はじめに:なぜ「設定項目設計」が重要なのか

システム開発では、要件定義から設計・開発・テスト・リリースまでが強く意識される一方で、「運用開始後に発生する仕様変更」への備えが軽視されがちです。特に、ちょっとした条件変更や仕様の微調整のたびに開発会社に依頼が必要になるような構成では、保守費用や工数がかさむばかりで、業務部門との距離も広がってしまいます。

こうした課題を解決する鍵が「設定項目設計」です。設定項目とは、システム内でユーザーや管理者が値を変更することで挙動を変えられる「パラメータ化された制御情報」のことを指します。

・「◯日経過したらアラートを出す」→日数を管理画面で変更可能に
・「通知先メールアドレスを一元管理」→テーブルで管理可能に
・「営業日/休日の定義」→マスタから動的に取得

こうした設計ができているかどうかで、開発会社に依頼するたびに費用と時間がかかる“がんじがらめなシステム”になるか、“運用で自由度が高く業務改善に強いシステム”になるかが大きく分かれます。

この記事では、発注者が開発依頼を行う際に押さえておくべき「設定項目設計の技術的な背景と考え方」を、実務の視点から徹底的に掘り下げていきます。

設定項目設計の本質とは?「業務ルールの変化」を前提にする思想

設定項目設計の基本的な発想は、「業務ルールが将来的に変わるかもしれない領域を、あらかじめシステム内で柔軟に変更できるようにしておく」ことです。

設定項目がなければ何が起こるのか?

例:システム上で「◯日後に自動キャンセルされる」という処理がある
→ 固定値で「7日」と決め打ちで実装されていると、「10日に変更したい」というだけで改修工数が発生する

例:メール通知の文面がコードに直接書かれている
→ 表現変更のたびに開発者に依頼が必要になり、現場での運用改善が止まる

設定項目設計の3原則

  1. コードにハードコーディングしない

  2. 運用担当者が画面上で変更できる仕組みにする

  3. 設定変更による影響範囲が予測可能な構造にする

設定項目のタイプ別分類と設計パターン

設定項目にはいくつかのタイプが存在し、それぞれに応じた管理方法や実装の考慮が必要です。

1. マスタ型:業務ルールの中核を支える設定

例:営業日カレンダー、定休日設定、税率、送料ルールなど

・DBテーブルで管理し、マスタ登録/編集画面を提供
・データが一意かどうか、期間に重複がないかなどの整合性チェックを組み込む
・バージョン履歴や適用開始日の指定ができると◎

2. オプション型:機能のON/OFFや閾値の制御

例:通知のON/OFF、ポイント機能の有効化、アラート表示条件など

・管理画面のトグルスイッチやチェックボックスで制御
・システム設定画面や環境別設定(ステージング/本番)で切り替えられる設計

3. 文言・ラベル型:ユーザーへの表示に関わる設定

例:メール文面、ボタン名、説明文、ツールチップ

・マスタに文章ID/日本語/英語を持たせる構造
・多言語対応を見据えてキー管理形式にする
・変更履歴・プレビュー機能があると業務効率が格段に向上

4. 動作制御型:バッチ処理や通知タイミングなどの制御

例:リマインド通知のタイミング、定期実行の間隔

・cronやスケジューラに連動する設定管理
・実行条件(時間帯、対象データ件数)を設定可能にする

設定項目をDB管理する場合の実装上の注意点

柔軟性を高める一方で、DB管理された設定項目にはいくつかのリスクがあります。

・設定内容の整合性が取れないまま運用されると、処理が壊れるリスクがある
・一括変更で不整合な値が登録されてしまい、大規模障害につながることもある
・複数設定が相互依存している場合、変更の順序やロジックの確認が煩雑に

これらを防ぐには、「設定内容に対するバリデーションの仕組み」「変更履歴の記録」「ロールバック可能な設計」「影響範囲の可視化」といった運用面での補助機能を並行して用意する必要があります。

要件定義フェーズで押さえるべき設定項目の洗い出し手法

システム要件定義時に以下の質問を投げかけることで、将来的に設定項目にすべき箇所を洗い出すことができます。

・このルールは、部署や時期によって変わる可能性がありますか?
・現場で柔軟に対応できるようにしたい運用ルールはありますか?
・値を変更する頻度はどれくらいありそうですか?
・法令や制度変更で将来的に変更が必要になる可能性はありますか?
・誰が、どのようにして変更を加えたいと思っていますか?

このように、実装前の要件定義段階で「柔軟に変えたい/変わるかもしれない」情報を発見しておくことで、後の保守運用コストを大きく下げることができます。

よくある失敗例:設定項目の過剰設計・誤設計

設定項目は“万能”ではありません。以下のような誤った運用はトラブルを引き起こします。

・すべての処理を設定項目にしすぎて、設定画面が複雑化
・誰が何を変更したか分からず、責任の所在が不明瞭
・設計段階で想定されていなかった組み合わせでの運用が行われ、不具合に発展

このため、「設定項目は少なければ少ないほどよい」「本当に変更が必要な要素だけを抽出する」設計バランスが重要です。

発注者が開発会社に確認すべき設定項目関連の質問リスト

・この仕様はコード固定ですか? それとも後から変更可能ですか?
・設定値は誰がどこから変更できますか?
・履歴管理や変更通知の仕組みはありますか?
・設定の整合性チェック(バリデーション)はどのように行われますか?
・将来的に新しい設定を追加する際の拡張性はどう担保されていますか?

これらを整理して要件定義書や仕様書に盛り込むことで、運用現場に寄り添ったシステムが実現できます。

まとめ:設定項目設計は「運用に強いシステム」をつくる最も地味で最も効く設計

華やかなフロントエンドや高機能な検索アルゴリズムよりも、「運用の柔軟性」を高めるのは、実はこの“設定項目設計”にあります。

開発段階では見えにくいですが、保守や改善、制度対応、業務変更のたびに「設定項目が用意されていたおかげで助かった」というシーンは無数にあります。

発注者にとっては、開発会社がどこまで将来の変化を見据えた“柔軟な設計”ができるかを見極める指標の一つにもなり得ます。ぜひ次回の開発依頼時には、「この仕様、将来変わるとしたらどう設計しておくべきか?」という視点を加えてみてください。

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