APIバージョン管理の考え方|保守運用・機能追加・互換性を両立させる設計実践

なぜAPIのバージョン管理が重要になるのか?
Webシステムや業務システムの多くは、社内外のアプリケーションやクライアントと連携するためにAPIを提供しています。特にBtoBサービスやスマホアプリ連携では、「APIの継続的な変更」と「安定した提供」の両立が求められます。
しかし、いざAPIの仕様を変更しようとすると、こんな課題に直面します。
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「既存のアプリが動かなくなった」
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「どこまでを後方互換に対応すべきか分からない」
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「全クライアントが一斉に切り替えるのは不可能」
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「仕様変更のたびに開発会社に依頼が必要でコストが増える」
こうしたトラブルの多くは、APIのバージョン管理が不適切だったことに起因します。
本記事では、API設計の基本から、バージョン管理の実装方式、運用体制に至るまでを、発注者の理解も深まるよう丁寧に解説します。
APIのバージョニングとは何か?まずは基本の理解から
APIのバージョン管理(バージョニング)とは、新旧の仕様が共存する状態を適切に設計・運用する手法のことを指します。
システムの進化に伴って、APIに新しい項目が追加されたり、古いパラメータが使われなくなったりする中で、
既存利用者の挙動を壊さずに、新機能を展開できる設計が求められます。
なぜバージョニングが必要になるのか?
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サービスのUIや機能を進化させるには、APIにも変更が必要になる
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すべてのクライアントが同時に新しい仕様に対応できるとは限らない
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外部ベンダーやアプリ事業者との契約条件に「後方互換性の維持」が求められる場合がある
つまり、APIの安定性は、システムの信頼性と同義なのです。
よく使われるAPIバージョン管理のパターン
APIのバージョンは、主に3つの場所で表現されます。
1. パスで管理する(URIパターン)
例:https://api.example.com/v1/users
https://api.example.com/v2/users
最も一般的かつシンプルな方式。バージョン違いのAPIをURLで明示できるため、ドキュメント管理や開発会社との連携もしやすい。
メリット:
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実装・テストがしやすい
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クライアント側の切り替えタイミングが制御しやすい
デメリット:
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バージョンが増えるとURLが乱立
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メンテナンスコストが増える可能性あり
2. ヘッダーで管理する(HTTPヘッダー)
例:
リクエストに Accept: application/vnd.example.v2+json
を含める
APIドキュメントでの統一感を保てるが、クライアントの対応がやや複雑。
メリット:
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エンドポイントが変わらないためURL構造がシンプル
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バージョンごとのURL分岐が不要
デメリット:
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ヘッダーの扱いがフロント側にとって煩雑になる
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デバッグがしづらい
3. クエリパラメータで管理する
例:https://api.example.com/users?version=2
手軽に実装できるが、RESTful APIの思想にはやや反するため、近年はあまり推奨されません。
結論として、多くの業務系Webシステムでは「パスによるバージョン管理」が採用されています。
実務で問題になりがちなバージョン管理の落とし穴
落とし穴1:「どこまでを“別バージョン”とみなすのか」が曖昧
例:/v1/users
で「ユーザー一覧を返す」APIがあるとき、以下のような変更はどう扱うべきでしょうか?
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出力項目に「住所」を追加 → 同じv1?v2にする?
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表示順を変更 → バージョンを上げるべき?
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パラメータのデフォルト値を変更 → 要注意?
これらの判断は設計思想に左右されるため、あらかじめ“バージョンアップ基準”を定義しておくことが重要です。
落とし穴2:「旧バージョンをいつまで残すか」が未定義
バージョンを重ねると、旧APIの管理コストが増していきます。
しかし、既存クライアントが旧APIを使っている限り、いきなり廃止するわけにはいきません。
→ このため、「旧バージョンのサポート期限」や「バージョンごとの対応ポリシー」を明文化しておく必要があります。
例:
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v1は2025年12月末で廃止予定
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v2以降は3年サイクルで見直し
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v1利用者には6ヶ月前から通知開始
APIバージョニングとドキュメント管理の関係
バージョン管理と密接に関係するのが「APIドキュメント」です。
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バージョンごとに仕様書を分けるのか?
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1つの仕様書に「v1ではこう、v2ではこう」と記述を分けるのか?
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ドキュメント更新のタイミングは?通知はどうする?
特に開発会社や外部ベンダーと連携する場合は、API仕様書の更新フローとバージョンの対応関係を明確にすることが、開発効率とトラブル防止に直結します。
発注者が押さえておくべきAPIバージョニング設計の判断ポイント
項目 | 確認すべき観点 |
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バージョン管理方式 | パス/ヘッダー/クエリのどれを採用するか |
変更の粒度 | どの程度の変更でバージョンを上げるのか |
後方互換性 | 旧APIを残す場合のサポート方針と期限 |
クライアント通知 | 仕様変更時の告知手段とタイミング |
ドキュメント運用 | バージョンごとの仕様管理ルールの整備 |
コストの考慮 | 新バージョン追加による開発・保守工数の見積もり |
APIバージョニングは「開発フロー」全体と連携して設計すべき
APIの設計は、単なる「技術選定」ではなく、システム開発フロー全体の中で捉える必要があります。
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機能追加の計画性(プロジェクト管理)
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リリース頻度と仕様変更の影響範囲(運用)
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利用者の規模と多様性(互換性維持)
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APIを通じた契約・SLA(ビジネス要件)
これらを統合して、初めて「現場で使えるAPI設計」が成り立つのです。
まとめ:APIの寿命は“設計の思想”で決まる
APIは、一度リリースすれば長期にわたり使われ続ける「インターフェース」です。
そして、バージョニングはその“寿命”をコントロールするための重要な設計要素です。
「拡張しやすく、壊れにくく、管理しやすい」API設計を実現するために、発注者も以下の観点を持って開発に臨みましょう:
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「どのように変化していくか」を前提に設計する
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「利用者が何を期待しているか」を常に意識する
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「古いものをどう扱うか」に明確な方針を持つ
これこそが、APIの“未来”を支えるバージョン管理の本質です。