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AsyncAPIで始めるイベント駆動アーキテクチャ入門──システム開発会社と進める設計・費用・見積もりの実践ポイント

イベント駆動アーキテクチャ再入門

デジタルサービスの利用ピークは予期 しづらく、従来の同期 REST 呼び出しは急激な負荷変動に弱い構造的課題を抱えています。クリック、決済、センサーデータなどの離散的な「イベント」をシステムの一次情報として扱うイベント駆動アーキテクチャ(EDA)は、処理を非同期キューに乗せることでスループットとレイテンシを分離し、スケールアウトの柔軟性を確保します。AWS Lambda・GCP Cloud Run といった FaaS の広がりが示す通り、業務システム開発でもコンテナ/サーバレス基盤 + メッセージブローカが標準構成となりつつあります。

多数のシステム開発会社が「リアクティブ設計」や「メッセージング基盤構築」を提案する時代ですが、イベント定義がバラバラなまま開発が走ると、後から API 互換性の壁に直面し追加費用が膨らみます。そこで注目されているのが AsyncAPI です。

AsyncAPI が解決する 3 つのボトルネック

① プロトコル混在問題
Kafka・MQTT・AMQP など複数ブローカを併用していると、ドキュメント形式が乱立し保守が破綻します。AsyncAPI では「チャンネル」「メッセージ」「バージョン」を YAML で統一管理できるため、発注側と受託側が同じ仕様書を中心に議論できます。

② テスト自動化の難易度
これまで非同期通信のモック生成は手作業が多く、テスト工数が読みにくい課題がありました。AsyncAPI Generator を用いれば スタブ・SDK・ドキュメント HTML を一括生成でき、CI/CD に組み込むことで品質を数値化できます。

③ 仕様変更の影響爆発
マイクロサービス同士が疎結合でも、スキーマ破壊的変更は全サービスを巻き込むリスクがあります。AsyncAPI は oneOfx-version 拡張 で後方互換を宣言できるため、レビュー時点で破壊的変更を防止可能です。これにより「設計段階での見積もり差異」が大幅に縮小し、プロジェクト管理コストが下がります。

要件定義フェーズで実践するイベントストーミング

イベント駆動設計を成功させる秘訣は、ビジネス担当者を巻き込んでドメインイベントをホワイトボードに付箋で可視化する「イベントストーミング」にあります。

  1. コアドメイン抽出:売上計上、在庫更新など価値を生むイベントに色付け

  2. コマンド/クエリ分離:書込操作をコマンド、読取をクエリに分類

  3. ポリシー定義:イベントをトリガに自動処理するドメインルールを議論

  4. 外部システム識別:社外 SaaS や既存モノリスを境界付近に配置

このアウトプットをもとに AsyncAPI スキーマの骨格を生成すれば、要件抜け漏れが劇的に減少します。開発会社へ見積もり依頼する際は「イベントストーミング実施回数」「セッション成果物サンプル」を提示してもらい、ファシリテーション力を数値で比較しましょう。

プロトタイプ開発で確認すべき性能指標

PoC 段階では機能要件よりもスループット・レイテンシ・メッセージロス率といった非機能指標を計測することが重要です。特に KPI 設計で失敗すると、本番移行時にブローカクラスタを増設せざるを得ず、クラウドリソース費が倍増するケースもあります。

指標 目安 計測方法
P99 レイテンシ 200 ms 以内 distributed-tracing + Prometheus
最大ロス率 1/1 000 000 メッセージ ACK 監査
スキーマ逸脱検知時間 30 s 以内 Kafka Connect + ksqlDB

こうした数値目標を RFP に含めることで、開発会社に具体的な性能チューニング工数を提示してもらえ、費用の妥当性が判断しやすくなります。

スキーマ駆動開発と CI/CD パイプライン

AsyncAPI を軸に CI/CD を構築する場合、典型的なパイプラインは次の通りです。

  1. Git PR:YAML 変更をプッシュ → スキーマリント

  2. Generator:Java/TypeScript/Python SDK スタブ生成

  3. Contract Test:Pact でプロデューサ・コンシューマ契約検証

  4. Docker Build:サービスイメージへスキーマ版数を埋め込み

  5. Deploy & Canary:Kafka Topic に version タグを付与し段階リリース

これにより開発会社のテスト自動化比率を 90 % 以上まで引き上げられ、将来の追加機能コストを大幅に削減できます。

運用監視とリアルタイムアラート設計

イベント駆動システムは“落ちない”ことが前提ですが、メッセージが流れなくなる瞬間は必ず発生します。そこで重要になるのが“稼働しているふり”をなくす可観測性の高さです。
まず、メトリクスは 3 階層で収集します。

  1. プラットフォーム層:Kafka ブローカの CPU/メモリ/ディスク I/O、ZooKeeper のリーダー選出時間など。

  2. アプリケーション層:コンシューマグループごとの lag、プロデューサ送信成功率、retry 回数。

  3. ビジネス層:注文イベント数、決済失敗イベント比率などドメイン KPI。

Grafana に Loki を組み合わせれば、ログ・メトリクス・トレースを一画面に集約可能です。さらに OpenTelemetry Collector を sidecar 配置し、traceId をメッセージヘッダへ伝播させることで、プロデューサ→ブローカ→コンシューマのボトルネックを秒単位で切り分けられます。
アラートは「しきい値」よりも「傾向変化」に敏感にするのがコツです。例えば P95 レイテンシが 10 分で 30 % 悪化したら WARN、その状態が 5 分続けば CRITICAL といったSLO ベースの多段アラートを定義します。

コストシミュレーションと費用対効果の可視化

「イベント駆動+AsyncAPI」は高性能ですが、クラスタ台数が増えると月額コストは無視できません。見積もり依頼時にはTCO 視点のシミュレーションシートを要求すると良いでしょう。必ず盛り込むべき項目は次の通りです。

項目 モデル例 変動単位 補足
ブローカノード m5.large × 3 台 コンシューマ lag Auto Scaling しきい値連動
ストレージ EBS gp3 2 TB 書き込み量 GB/日 圧縮比をパラメータ化
ネット転送料 リージョン内 1 TB/月 メッセージサイズ VPC ピアリング有無で変動
FaaS 実行時間 50 ms × 5 億回 イベント数 Provisioned Concurrency 採否

これを折れ線グラフで 3 年間プロジェクションしたうえで、オルタナティブとして「同期 REST+RDB」の構成も同様に計算し、差額を ROI として提示させます。投資委員会や経営層への説明資料にそのまま再利用できるため、受託開発側の提案価値が上がり、発注判断がスムーズになります。

マルチクラウド/ハイブリッド運用パターン

製造業や金融業ではオンプレミスの基幹システムが残存し、クラウドネイティブとレガシーが混在するケースが多数です。ここでは 3 つの代表パターンを紹介します。

① “Hub‐Spoke” Kafka 連携

オンプレ DC に中央 Kafka(Hub)を設置し、AWS・Azure の各 VPC へ MirrorMaker2 で複製するパターン。
長所:中心でデータガバナンスを維持できる。
短所:Hub が SPOF になりがち。マルチサイト冗長が必須。

② EventBridge パススルー

AWS EventBridge をハブにし、オンプレ→Site‐to‐Site VPN 経由でイベントを流す方式。
長所:サーバレスで運用負荷が低い。
短所:VPN 帯域依存のためピーク時の遅延に注意。

③ Edge MQTT フィルタリング

工場 IoT でエッジ側に Mosquitto、クラウドに Kafka を置き、重要データだけフィルタして上げる方法。
長所:回線コストとクラウド保存費を最小化。
短所:フィルタロジックが複雑化しがち。

開発会社へは、自社シナリオと近い過去実績の構成図と課題克服策を提出させると比較しやすくなります。

セキュリティ・コンプライアンス実装の落とし穴

GDPR/PCI-DSS/FISC など規制が厳しい場合、メッセージデータの暗号化とマスクは必須です。しかし“全部暗号化”はパフォーマンスと運用の敵。ポイントは 3 つ。

  • 階層化暗号:トピックレベル暗号化+フィールドレベル暗号化を分離し、監査ログ用タグだけ平文保存。

  • Attribute Based Access Control:IAM ユーザではなく JWT クレームで動的にアクセス権を判定。

  • DLP スキャナ統合:DataDog Sensitive Data Scanner などをストリームに挿入し、漏えい前に遮断。

見積もり工数では、暗号ライブラリ選定・キーマネジメント・パフォーマンス検証を明細化してもらい、後出し請求を防ぎましょう。

ベンダー選定チェックリスト

最後に、発注側が面談や RFP で確認すべき具体的質問項目をまとめます。

  1. AsyncAPI v3 対応ロードマップを社内に持っていますか。

  2. Contract Test 成功率 90 % 以上を継続的に保った実績はありますか。

  3. イベントストーミングの標準所要時間とファシリテータ人数は。

  4. トピック partition 数とスループットの相関に関する PoC データを提示できますか。

  5. クラウド課金監視ダッシュボードをリアルタイム共有できますか。

  6. 障害復旧目標(RTO/RPO)を AsyncAPI レベルでどこまで保証しますか。

上記に即答できない企業は、要件深堀り段階で追加調査費用を請求してくる恐れがあります。比較サイトや口コミだけでなく、質問へのレスポンススピードも含めた総合判断が重要です。

まとめ──AsyncAPI で“見えないコスト”をなくす

イベント駆動は「スケールに強い」だけでなく、要件変更への適応力が高いという経営メリットがあります。しかし設計ドキュメントが曖昧なまま見積もりを取ると、後半で仕様すり合わせが発生し、開発費用相場の 1.5 倍に膨れ上がる事例も珍しくありません。
AsyncAPI を中心に「イベントを資産」として管理すれば、要件定義から保守運用まで一気通貫でコストを可視化できます。システム開発会社の提案書に“非同期 API スキーマ”が含まれているかをまずチェックし、複数社の回答品質を比較しましょう。プロジェクト成功確率と費用対効果を最大化する近道です。

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