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非同期パターン設計の選び方:業務システムにおける「バックグラウンド処理設計」最適解ガイド

はじめに:なぜ今「非同期処理の設計」が重要視されるのか

近年の業務システムでは、リアルタイム性・スケーラビリティ・ユーザー体験の高度化により、「非同期処理」の重要性が急速に高まっています。大量のデータ集計、メールや通知の配信、外部APIとの連携処理、定期バッチなど、バックグラウンドで実行すべき処理の割合は増加の一途をたどっています。

これらの処理をすべて同期的に実装していては、レスポンス低下やボトルネックの温床となるだけでなく、スケールアウト時の設計負荷やトラブルシューティングの複雑化も招きます。

本記事では、受託開発の現場で「非同期処理をどう設計すべきか?」という問いに対して、主要な設計パターンごとのメリット・デメリットと選定指針を、業務システムの特性に即して深掘りして解説します。単なる設計手法の紹介に留まらず、プロジェクト推進において“どこで・なぜ非同期化すべきか”を判断するための視点を提供します。

非同期処理の代表的ユースケース

まず業務システムにおける典型的な非同期処理のユースケースを整理します。以下は多くの開発現場で遭遇する代表的なものです。

  • PDFやCSVなど重たいファイルの生成と出力処理
  • 一斉配信型のメールやプッシュ通知の送信
  • 時間を要する統計集計やBI分析のトリガー処理
  • 外部APIへのPOST/GETリクエスト(タイムアウトや制限がある場合)
  • 毎晩や毎週などの定期実行(バッチ処理)
  • 管理者による数千〜数万件の一括データ登録
  • AI推論や画像・動画変換処理など、非リアルタイムでよいが高負荷な処理

こうした処理は、ユーザー操作の即時レスポンスを求められないため、バックグラウンドに切り出すことでUXの向上とサーバ負荷の分散を実現できます。

非同期処理の3つの設計パターンとその使い分け

1. ジョブキュー型(例:Celery、RQ、Sidekiq)

処理内容をジョブとしてメッセージキュー(Redisなど)に登録し、別プロセスまたは別サーバで順次消化していく構成です。

メリット:

  • 水平スケーリングしやすく、高負荷に耐えやすい
  • ワーカーの数を調整してパフォーマンスを最適化できる
  • リトライ機構やデッドレター管理などフレームワークの機能が豊富

デメリット:

  • インフラ構成が複雑化(ブローカー、ワーカー、監視)
  • 運用監視やログ整備も必要になるため、初期導入に一定のコスト

おすすめユースケース:

  • 通知の大量配信
  • バッチ生成系(帳票、統計)
  • 汎用的なキュー制御が求められる企業向け業務処理

2. サーバレス型(例:AWS Lambda + EventBridge、Firebase Functions)

イベントに応じて関数が起動し処理される構成で、近年のクラウドアーキテクチャに適しています。

メリット:

  • インフラ構築・運用不要、コードと設定だけで完結
  • イベント数に応じてスケールし、料金も従量制
  • 実装〜反映が非常にスピーディ

デメリット:

  • 実行時間・同時実行数の制限あり(AWSで最大15分)
  • トラブル時の再実行制御が難しい(状態レス構造)
  • 状態管理やスケジューリングには別サービスとの連携が必要

おすすめユースケース:

  • フロントエンドからのフォーム送信通知処理
  • CMS更新時の静的サイト自動ビルド
  • 機能フラグの変更によるロジック切替

3. DBポーリング型(例:処理待ちテーブル + Cronバッチ)

DBに処理対象のレコードを記録し、定期的なCronバッチでそれを取得して処理するクラシカルな手法です。

メリット:

  • シンプルな構成で開始しやすい
  • レガシー環境でも導入可能
  • 障害時の復旧が比較的分かりやすい

デメリット:

  • 処理のタイミングが粒度に依存(1分単位が限界)
  • 高頻度なリクエストには不向き

おすすめユースケース:

  • 定期集計や月次レポートの生成
  • 毎日・毎週のCSV出力
  • 特定日付・ステータスに応じた自動処理

実装設計時の注意点と避けるべきアンチパターン

ステータス管理の明確化とエラーへの備え

バックグラウンド処理は「目に見えない」ため、ユーザーや管理者にとってステータスを明示することが不可欠です。

  • 実行ステータス:「未処理」「処理中」「成功」「失敗」など
  • UI側でのインジケータ/完了メッセージ/再実行ボタン
  • エラーの詳細をログから追える仕組み(例:Sentry)

トランザクション管理とデータ一貫性

非同期処理は「同期処理後に安全に実行されること」が大前提です。以下のような誤実装に注意します。

  • メインDBに反映されていない状態でジョブ発行(処理失敗)
  • エラー時に部分的にDB変更が残る(中途半端な状態)
  • ユーザーが処理完了前に操作してデータ競合

同期前提のUXと非同期処理のミスマッチ

UX設計で「即座に結果を表示すべき」とされている画面では、非同期処理が逆効果となることがあります。適切なリダイレクト・完了通知・ジョブ進行の説明が不可欠です。

クライアント提案や見積もり時に考慮すべき視点

受託開発では、非同期処理の導入は開発費用・納期・インフラ構成に大きく関わるため、初期フェーズから説明・合意を得るべきです。

  • なぜ非同期処理が必要か(スピード、スケール、安全性)
  • クライアント側に運用負荷が発生しない設計か(通知、UI)
  • 再実行/監視/保守に関する費用が見積もりに含まれているか

非同期化はシステムをより堅牢にする反面、構成が複雑化するため、ドキュメントと図解(フロー図・状態遷移図)で提案を補強するのが効果的です。

まとめ:非同期処理は業務と技術の橋渡し

非同期処理の設計は、「高負荷処理の効率化」だけでなく、「業務フローの最適化」や「ユーザー満足度の向上」にも直結する領域です。

受託開発では、単に技術トレンドとして非同期化するのではなく、業務要件と非同期設計を結びつけたストーリー設計が求められます。

信頼される開発会社であるためには、非同期処理を技術で終わらせず、「運用に耐えうる構造」として提案・実装・保守できる体制が必要不可欠です。

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