「社内FAQ管理システム」開発事例に学ぶ、運用負荷を減らす業務DXの第一歩

企業がシステム開発会社やWeb開発会社を探す際、「営業支援」「顧客向けポータル」「会員サイト」といった外部向け施策に焦点が当たりがちです。しかし、社内の業務効率を高める仕組みこそ、費用対効果が高く、現場への直接的なインパクトがあります。
本記事では、ある中堅企業で実施された「社内FAQ管理システム」の受託開発事例を紹介します。一般的なシステム開発依頼では語られにくいこのテーマですが、実は「問い合わせ対応の属人化解消」「新人研修の効率化」「社内ナレッジ共有」といった、多くの企業が抱える課題に直結しています。
開発費用やシステム設計だけでなく、継続的な運用やスケーラブルな拡張性を前提にした本プロジェクトのユースケースを通して、発注者視点の開発戦略を掘り下げていきます。
なぜ今「社内FAQシステム」が注目されるのか?
DXという言葉が定着した今、多くの企業がシステム開発会社やアプリ開発会社と連携して外部向けの施策を行ってきました。しかしその裏で、社内業務は依然として「メール+Excel+口頭」で回っていることが多く、問い合わせ対応が属人化しているケースも少なくありません。
特に、以下のような課題が散見されます:
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「〇〇さんしかわからない」業務ナレッジの固定化
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同じ質問が複数回、複数部署から繰り返される
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管理部門や情シスへの質問対応が逼迫
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新人が業務を覚えるまでに時間がかかる
これらの課題を、ナレッジの検索性・再利用性を高めるFAQ管理システムで解消しようという動きが徐々に広まりつつあります。
プロジェクトの発端:FAQ運用の限界と改善ニーズ
今回の事例では、社員数300名規模の企業にて「社内問い合わせの負担軽減」が発端でした。管理部門が月間300件を超える質問対応に追われる状況が続き、メール対応だけでは限界があると判断されたのです。
当初はGoogleスプレッドシートにFAQをまとめる簡易運用を行っていましたが、以下のような問題が明らかになりました。
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検索性が低く、同じ質問を探しにくい
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アクセス権や更新履歴の管理が煩雑
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質問・回答が文脈なく羅列され、実用性が低い
このような背景から、業務プロセスに即した「使えるFAQシステム」の構築を目的に、受託開発の相談がスタートしました。
要件定義のポイント:運用者視点と利用者視点の両立
本プロジェクトの成功要因の一つが、要件定義段階でのヒアリングの深さです。FAQシステムは「表示する情報の作り方」に加え、「どう探しやすく、どう更新しやすいか」という点が極めて重要となるため、次のような観点で要件整理が行われました。
運用担当者のニーズ
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誰でも投稿・更新できるUI設計(管理部門だけでなく現場にも解放)
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承認フローや公開前レビュー機能
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カテゴリ・タグ設定の柔軟性と一括編集機能
利用者のニーズ
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キーワード検索の精度向上(部分一致/AND・OR検索)
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閲覧数・役立ち度・更新日によるソート
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閲覧履歴・ブックマーク機能による利便性向上
管理者のニーズ
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投稿状況・更新頻度の可視化ダッシュボード
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未解決質問リストの抽出
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システムログの出力と権限設定の柔軟性
技術的な実装方針:拡張性とメンテナンス性の両立
開発フェーズでは、以下のような方針で技術選定と設計が進められました。
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フロント:Vue.jsによるSPA構成
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バックエンド:Laravel(PHP)で構築しAPI化
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インフラ:クラウドベースのFaaS環境(AWS Lambda)+RDS
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認証連携:社内のGoogle WorkspaceとのSSO連携
この構成により、セキュアな社内利用とともに、将来的な外部FAQ共有への拡張性も担保しました。
また、更新頻度の高いシステムという特性を考慮し、FAQの履歴管理/バージョン管理機能も初期から組み込む設計としました。
実装上の工夫:検索精度とUIUXの両立
実際の開発で直面した課題の一つが、「検索性」と「見やすさ」のトレードオフでした。FAQの検索性を高めようとすると情報量が多くなり、逆にUIが煩雑になりがちです。
そこで以下のような工夫が導入されました:
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カテゴリ選択後にのみ絞り込み検索が可能な2段階検索
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よくある質問・注目の質問をピックアップ表示
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過去30日以内に更新された情報に「NEW」マーク
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モバイル利用時はアコーディオン表示で視認性確保
これにより、社内全体の「使いやすい検索体験」が実現されました。
導入後の成果と、現場に与えたインパクト
システム導入から6ヶ月後、以下のような定量的な効果が確認されました:
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月間の管理部門への問い合わせ件数が約50%減少
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回答の「再利用率」(既存FAQ参照率)が75%を超える
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FAQ投稿件数が1,000件を突破し、社内ナレッジが明文化
また、新人研修時にはこのFAQをマニュアル代わりに使う流れが定着し、育成工数の圧縮にも寄与しています。
成果を支えた開発会社の対応ポイント
このプロジェクトの成功を支えたのは、「現場で使われるシステムを作る」という開発会社の姿勢でした。ポイントは以下です:
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要件定義段階で現場ヒアリングを重視
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運用設計込みでの提案(FAQポリシー・運用フロー)
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保守契約内での定期ヒアリングによるアップデート
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見積もりは「フェーズごと」に区切り、予算管理がしやすい
特に、「ただ作って終わりではなく、どう活用されるかまで考える提案姿勢」が、他社との違いを感じた点だと発注担当者は語っています。
まとめ:費用対効果で見た「社内FAQシステム」という投資
FAQ管理システムというと、「簡易な業務ツール」「コストをかけるほどではない」と思われがちですが、実際には属人化防止・業務効率化・育成効率化といった観点で大きな費用対効果を生む投資です。
今回紹介したユースケースのように、運用と拡張を前提に設計されたFAQシステムであれば、初期開発費用以上の価値を生み出し、長期的な業務DXの土台となります。
システム開発依頼時には、こうした「社内運用のDX化」という切り口から開発会社を比較してみることも、これからの開発投資戦略において有効な視点となるでしょう。