リアルタイムCO₂ダッシュボードの開発事例|費用対効果を最大化するIIoT×クラウド活用法

はじめに:脱炭素経営を支える「リアルタイムCO₂モニタリングダッシュボード」
2050年カーボンニュートラルを掲げる企業が急増し、サプライチェーン全体の排出量をリアルタイムで把握したいというニーズが高まっています。本記事では 製造業向け「CO₂モニタリングダッシュボード」 を開発したユースケースを取り上げ、企画段階からリリース後の保守運用までを詳細に解説します。要件定義、見積もり依頼、システム設計、開発費用シミュレーション、開発会社選定の着眼点を網羅し、Web 開発会社やアプリ開発会社に依頼する際の指針を提示します。
ユースケース概要:排出量データを“1秒更新”で可視化
対象企業は多拠点に製造ラインを持つ中堅メーカー。各工場の電力・燃料使用量を IIoT ゲートウェイで取得し、クラウド上で CO₂ 換算・BI 分析を行います。ダッシュボードは Web システムとして構築し、経営層と工場長が同じ KPI を共有できることが目的です。
業務課題と目標 KPI の設定
導入前は月次で Excel 集計していたため、
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各拠点の排出量増減を即座に判断できない
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改善施策の効果検証に2〜3か月かかる
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経営企画部と工場側で数値が一致しない
という問題がありました。そこで以下の KPI を目標に据えました。
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データ遅延 10 秒以内
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拠点別排出量をダッシュボード1画面で比較
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改善施策実施後1週間で CO₂ 削減率を確認
システム構成と技術選定
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デバイス層:Modbus/TCP 対応センサー → Edge X Foundry
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集約基盤:AWS IoT Core+Kinesis Data Streams
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処理基盤:AWS Lambda(Go)で排出量換算、DynamoDB に格納
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フロントエンド:Next.js+Recharts+Tailwind CSS
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CI/CD:GitHub Actions → AWS CodeDeploy
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監視:Datadog+AWS CloudWatch Synthetics
リアルタイム性能を担保するためストリーム処理を採用し、DB は高書込性能を持つ NoSQL を選択しました。
開発フローとプロジェクト管理
スクラム2週間スプリントを採用し、以下ステップで進行。
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スプリント0:イベントストーミングでユースケース洗い出し
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スプリント1〜3:デバイス連携とストリーム処理の PoC
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スプリント4〜6:ダッシュボード UI と KPI アラート実装
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スプリント7〜8:E2E テストと負荷試験
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スプリント9:ユーザー研修+リリース準備
Jira でストーリーポイントを管理し、Velocity から開発費用を常時シミュレーションしました。
要件定義から見積もりのポイント――“秒単位の要件”を数値化する
「リアルタイム」と一口に言ってもスキャン周期・許容レイテンシは人によって解釈が異なります。そこで “10 秒以内に 95% のデータがダッシュボードに反映される” と SLA を数値化。さらに再計算処理の並列数、アラート閾値調整 UI など、追加改修になりやすい部分を初回見積もりに含めておくことで、後からの予算超過を防ぎました。
コスト試算と費用対効果
総ストーリーポイント 420、チーム Velocity を 52pt/スプリントと設定し、開発は9スプリントで完了。人月単価 120 万円で開発費用は約 1,000 万円。
効果算定では、
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CO₂ 削減 3%/年 → カーボンクレジット換算で 380 万円/年
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設備稼働最適化による電力削減 600 万円/年
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月次集計工数 80h 削減 → 人件費 120 万円/年
とし、投資回収期間は 11 か月でした。
保守運用フェーズ:SLO/Error Budget とアラート設計
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SLO:レイテンシ 10 秒以内 95%/月
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エラー予算:月間 1,350 分(SLO 未達時間)
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運用アラート:SLO 消化率 25%・50%・75% で段階通知
CloudWatch Synthetics で KPI 可視化 API を 1分間隔でテストし、誤検知を削減しました。
開発会社選び:予算・相場・発注時の着眼点
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IIoT とクラウド双方の実績
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ストリーム処理のパフォーマンステスト経験
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Bounded Context 単位の見積もり提示
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保守契約に Error Budget を明記
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カーボンクレジット計算ロジックの知見
これらを RFP に盛り込み、3社の見積もりを比較。最終的に 提案内訳の透明性 と 長期保守の割引率 を重視し、総合評価で1位の Web 開発会社へ発注しました。
インテグレーションの落とし穴と解決策
センサーデータ欠落
電力瞬時値が0で固定される現象に対し、Lambda で ヒューリスティック補完 を実装。連続3サンプル欠落時のみアラートし、誤報を抑制。
異常値スパイク
99 パーセンタイルフィルタで外れ値を除外し、アラート閾値を自己学習的に更新。
多拠点 VPN ボトルネック
AWS Global Accelerator を経由してレイテンシ 25% 改善。
UI/UX 改善サイクル
ユーザーインタビュー→ヒートマップ解析→A/B テストを回し、メイン KPI カードの配置変更 で閲覧時間が 32% 向上。結果として経営層からの「使わないダッシュボード化」を防止できました。
拡張計画:Scope 3 へのスケールアウト
現在は Scope 1, 2 のみを対象としていますが、次フェーズでサプライヤ向けポータルとモバイルアプリを追加予定。SDK で計算ロジックを共有し、追加コストを 30% 削減する見込みです。
まとめ:リアルタイム CO₂ モニタリングがもたらす経営インパクト
本ユースケースは「SDGs 対応 × データドリブン経営」を実現する好例です。秒単位で意思決定できるダッシュボードによって、ムダなエネルギーを削減しつつ、カーボンクレジットという経済的メリットも得られました。
開発依頼時には、本記事で紹介した要件数値化・Bounded Context 見積もり・SLO 契約などを活用し、開発費用の相場を抑えながら高品質なシステムを構築してください。