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多拠点対応の予約台帳システム構築事例:店舗横断管理を支える「在庫のない予約」の仕組みとは?

全国に複数の拠点を展開する美容・医療・教育関連事業では、予約業務の効率化が顧客満足と業務負荷の軽減に直結します。とくに、サービスや時間という「在庫を持たないリソース」の予約管理においては、属人的な対応や紙・Excel運用の限界が早期に露呈し、DX化の優先対象になることが少なくありません。

この記事では、ある全国展開エステサロンチェーンが構築した「多拠点・多担当者対応の予約台帳システム」の開発事例をもとに、受託開発プロジェクトの要件整理から技術選定、UI/UX設計、運用設計に至るまでの実践的な視点を解説します。

背景:拠点数の増加が「紙とExcelの限界」を可視化させた

対象となった企業は、都市圏および地方を含む全国約40拠点を展開する中規模サロンチェーンです。初期は「各拠点ごとに手帳型の紙台帳+電話予約」の運用を行っていましたが、次第に以下のような構造的課題が浮き彫りになってきました。

  • ダブルブッキング(重複予約)が月10件以上発生し、顧客からの信頼が低下

  • 出張中の顧客が別店舗で施術を受けたいという要望に対応できず、機会損失が続出

  • 担当スタッフの指名予約が属人化し、人気・非人気の偏りがサービス品質に影響

  • 予約情報が本部と拠点で乖離し、販促施策や稼働率改善のPDCAが回らない

さらに、季節による繁閑の波、キャンセル率の変動、設備制約(脱毛機器・個室等)など、アナログでは処理できない情報が日々増加していったことで、業務改善の一環として「統合型の予約システム構築」が急務となりました。

要件定義:単なる「予約フォーム開発」として捉えない

多くの開発プロジェクトにおいて、予約機能はフォーム入力と時間選択だけのシンプルな仕様と誤解されがちですが、業務に直結するシステムではそうはいきません。本プロジェクトでは以下の要件を段階的に精査・定義していきました。

  • 拠点ごとに異なる営業時間・施術内容・施術者スキルセットを保持

  • 時間枠単位を15/30/60分で動的切替(施術内容によって変動)

  • 設備リソースの同時利用制御(例:ベッド、脱毛機器は並行不可)

  • 施術ステータスの段階管理(受付→施術中→完了→評価入力)

  • 予約ポリシーとキャンセルルールの個別設定(拠点/施術メニュー単位)

  • 顧客ランクごとの優先予約、リマインド通知(LINE/メール)連携

このように、「単なる予約入力」ではなく「現場運用に適応した予約ロジックの抽象化」を重視し、業務フローとUI設計がセットで議論されました。

技術構成と開発体制:BFF設計を軸にしたスケーラブル構築

構築は受託開発会社2名(フロント+バックエンド)と、企業側PMおよび施術拠点SVとの混成体制でスクラム運用されました。以下の技術構成が選ばれた背景には、「スモールスタートを前提としつつ、今後の拡張にも耐えるアーキテクチャ」という方針がありました。

  • フロントエンド:Next.js(SSG+CSRハイブリッド)+Tailwind CSS

  • 状態管理:Zustand(簡潔なストア定義とイベントドリブン実装の両立)

  • バックエンド:Firebase Functions(イベント駆動処理)+Firestore

  • 認証認可:Firebase Auth(顧客/スタッフロールの分離)

  • 通知系:LINE Messaging API+SendGrid(メール)

  • 可視化/集計:BigQuery+Looker Studio(KPI分析/拠点別集計)

注目すべきは、UIの複雑化を抑えるためにBFF(Backend for Frontend)レイヤーをExpress.jsで構築し、APIの集約とUI最適化責務を分離した点です。これにより、複数条件を跨ぐAPI構造の肥大化を抑えながらUIパフォーマンスを確保しました。

UI/UX設計で重視した「予約導線の心理設計」

予約画面は「ユーザーが目的地に迷わず到達できる設計」を最優先に設計されました。具体的には以下の点に注力しています。

  • カレンダー表示では「○(空き)/×(満)」表示+人数インジケーターを組み合わせ、直感的な判断を促進

  • スタッフ指名が不可な場合は「自動最適化」ボタンを用意し、UXの負担を最小化

  • ログインしている顧客の過去予約情報・施術履歴・リピート率を踏まえた「おすすめ予約枠」を自動提示

  • 拠点選択にあたっては、過去利用実績のある店舗を上位表示(パーソナライズ設計)

  • キャンセルポリシー・注意事項は「初回のみポップアップ」「毎回表示切替」で柔軟に表示制御

管理画面についても、現場スタッフが「操作ミスなく使える」ことを最優先し、スマホ横持ち・縦持ち両対応のレスポンシブ設計と、アイコンベースの操作導線が採用されました。

定量・定性の両側面で見えた導入効果

導入から半年後のモニタリングデータでは、以下のような定量成果が報告されました。

  • ダブルブッキング:月平均12件 → 0件(完全撲滅)

  • 無断キャンセル率:7.4% → 3.1%(事前リマインドの効果)

  • 予約完了から来店までの移行率:71% → 89%

  • 顧客満足度アンケート:「予約しやすさ」項目で83%が改善実感

  • スタッフシフト管理ミス:週5件 → 週1件以下に減少

また、現場SVからのヒアリングでは、「予約電話の対応件数が大幅に減り、その分接客に集中できるようになった」「顧客対応の質が明らかに向上した」といった定性的評価が多く寄せられました。

受託開発パートナーとして評価された要素

今回のプロジェクトでは、以下の開発姿勢がクライアントから高く評価されました。

  • 現場への業務同席を通じた「課題の肌感覚」の理解

  • UI設計前に「施術体験フローと心理負荷の流れ」を可視化したアプローチ

  • Firebaseを軸とした「ローコスト・短納期」の提案

  • LINE通知やDB設計も含めた「顧客接点・運用・分析」までを見通した構成

  • 将来的な別業態・別ブランドへの横展開を見越したアーキテクチャの柔軟性

単なる予約機能の開発ではなく、「事業成長に耐えうる業務インフラを整備する」という意図が強く反映されたプロジェクトでした。

まとめ:予約は「業務支援」以上に「ブランド支援」である

在庫を持たない「時間枠」という商材は、実は最も設計と運用の工夫が必要な領域です。とくに多拠点型のサービス業においては、予約管理の仕組み次第で「サービス品質」「スタッフ負荷」「売上」が大きく左右されます。

受託開発会社としても、予約台帳システムの構築は単なる機能開発ではなく、「業務構造のデジタル再設計」として取り組むべきテーマです。現場の声を反映したUIUXと、スケーラビリティに優れた技術構成、そして業務課題への共感力が、クライアントとの信頼を築く最大の要素となるでしょう。

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