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開発ユースケース紹介

工場IoT化の成功事例:匠製作所が自社生産ラインを見える化したシステム開発ユースケース

はじめに

日本の中小製造業では、長年「勘と経験」に頼った生産ライン管理が主流でした。しかしデータ活用が進む中、リアルタイムに稼働状況を把握し、故障予兆を検知できるIoTプラットフォームの導入が注目されています。本記事では、架空の中小製造業「匠製作所」(従業員50名規模)が自社の生産ラインをIoT化し、コスト削減と品質向上を実現したユースケースをストーリー形式で紹介します。発注から納品までのプロジェクト進行、開発会社選び、予算交渉、運用フェーズでの教訓を追体験できる内容です。

プロジェクト発足の背景

匠製作所の社長であるAさんは、手書きの生産実績表と口頭報告でライン停止の原因を把握していました。しかし、突発停止の頻度が高まり、年間数百万円のロスが積み重なる状況に危機感を抱きます。「生産ラインをリアルタイムに見える化し、異常をすぐにキャッチしたい」という社内要望を受け、IoT化プロジェクトを正式に発足しました。この段階でAさんが検討したポイントは以下です。

  • システム要件定義:何を測定するか(温度、振動、稼働状態など)

  • 予算感の把握:IoTデバイス導入費用、クラウド利用料、開発会社への発注費用を概算

  • 開発会社選び:実績、費用相場、開発規模感に応じた相見積もり

まずはPoC(概念実証)で一部ラインにセンサーと通信ゲートウェイを設置し、数週間の稼働データを集める計画を立てました。PoC終了後、そのデータを基に本格導入のROI(投資対効果)を試算します。

開発会社の比較と選定

Aさんは以下のプロセスで開発会社の選び方を実施しました。

  1. 情報収集フェーズ

    • インターネット検索や同業他社の紹介でIoT開発実績のある5社をピックアップ

    • 各社のWebサイトで導入事例、使用プラットフォーム(AWS IoT、Azure IoT Hubなど)を確認

  2. RFI(情報提供依頼)送付

    • プロジェクト概要、要件定義書ドラフトを送付し、技術アーキテクチャ案と概算費用を提示依頼

  3. 見積もり・提案比較

    • 各社からの見積もり金額帯は350万円~600万円と幅があった

    • 「費用相場」を把握するため、見積書の内訳(デバイス調達費、クラウド設定費、開発工数)を精査

    • 特に「予算10%増枠まで対応可能か」「追加要件時の費用単価」を重視

  4. 最終選定

    • 実績豊富なC社と技術力が高いD社の2社に絞り込み、最終的にC社を選定

    • 決め手は「PoCから量産フェーズまでワンストップで対応可能」「予算交渉の柔軟性」

  5. 発注契約

    • 最終的な契約金額は450万円(税抜)、クラウド利用料月額2万円を含む

この選定プロセスを通じて、Aさんは「ただ安いだけではなく、要件変更への対応力や将来的な拡張性を重視する」ことの重要性を実感しました。

要件定義とPoC実施

C社と共同で進めた要件定義では、PoCで収集すべきデータ項目を次のように決定しました。

  • 稼働ON/OFF信号:PLC(Programmable Logic Controller)から直接取得

  • 温度・振動データ:IoTセンサー(無線式)を加工機に取り付け

  • 異常ログ:現場作業員がタブレットで入力

  • クラウド送信間隔:30秒に一度(リアルタイム性とコストのバランス)

PoC期間は1ヶ月間。

  • 初期デバイス調達費用:約80万円

  • 通信回線(LTE)月額:約1万円

  • PoC実装・データ解析工数:約100人時(約60万円相当)

データをAWS IoT Coreに送信し、QuickSightでダッシュボード化。PoC終了後、月間停止回数が30%減少し、年間推計コスト削減額が200万円超と試算できたため、本格導入をGOサイン。

本格導入フェーズのポイント

PoCで得られた成果を踏まえ、匠製作所は全ラインへのIoTプラットフォーム本格導入を決定しました。本番ローンチまでの主なステップは以下の通りです。

  1. 追加センサー設置と配線
    PoCで使用した無線センサーに加え、ライン間の温度差を測定する赤外線センサーを導入しました。全ラインで計120台のデバイスを取り付け、配線工数は延べ30人日を要しました。

  2. ネットワーク冗長化
    工場内のWi-Fiが不安定だったため、有線Ethernetを敷設し、PLCとゲートウェイを二重化。これにより月次で数回発生していた通信途絶が皆無になりました。

  3. クラウド設定の最適化
    PoCで30秒間隔だったデータ取得を、本番環境では各センサーの重要度に応じて「10秒」「60秒」「5分」と細分化。クラウド利用料を月額2万円以内に抑えつつ、リアルタイム性を向上させました。

  4. ユーザー教育と運用マニュアル
    工場長をはじめとする現場リーダー向けに、ダッシュボード操作研修を実施。操作マニュアルとトラブルシューティングのチェックリストを整備し、「誰でも見える化システムを活用できる」体制を構築しました。

  5. KPI設計と定点観測
    月次のKPIとして「平均停止時間」「故障予兆検知数」「ライン稼働率」を設定。BIツール上でアラート閾値を可視化し、定量的な評価を行っています。
    これらの取り組みにより、本格導入後の初月でライン停止時間が前年度比40%削減、設備保全の外注コストが20%減少しました。また、見える化により現場の自律的な保全活動が活性化し、社内の品質改善意識が飛躍的に高まりました。

運用中に見えた課題と改善策

導入後しばらくは順調に推移しましたが、以下のような課題も浮き彫りになりました。

  • データ過多によるアラート疲れ
    全センサーを高頻度で監視した結果、実際の故障に繋がらない軽微な異常も多くアラートが発生し、現場から「ノイズが多い」との声が上がりました。

  • センサーの物理劣化
    振動センサーは金属加工機の鋭い振動にさらされ、半年で寿命を迎えました。予備部品の確保と定期交換スケジュールが必要になりました。

  • 現場作業員のログ入力の手間
    タブレットでの異常ログ入力が負担となり、入力漏れが発生。作業動線を妨げない簡易ボタン型デバイスの導入を検討しました。

これらの課題に対して、C社と協議のうえ次の改善策を講じています。

  1. アラート閾値の再調整
    KPIデータを分析し、「実際にライン停止に繋がった異常」と「問題にならなかった異常」を分類。閾値をヒストグラムに基づき再設定することで、アラート発生件数を70%削減しました。

  2. センサー保守契約の締結
    「センサー寿命」を想定した交換周期(4ヶ月)を設定し、保守費用もパッケージ化。これにより、予算超過のリスクを低減しながら高い稼働率を維持しています。

  3. スマートボタンの試験導入
    異常発生時にワンプッシュで主要ログを記録できるスマートボタンを一部ラインで運用開始。作業効率は20%向上し、ログ入力漏れが大幅に減少しました。
    これらの運用改善によって、システムの継続的なROIを確保しつつ、現場の負担を最小化しています。

プロジェクトを通じて得られた教訓

匠製作所のIoT化プロジェクトで得られた主な学びは以下の3点です。

  • PoC段階での費用対効果試算が鍵
    PoCを通じて得られた定量データが、本番導入の意思決定を後押ししました。初期予算の“根拠”を関係者に示せることで、開発会社への発注交渉もスムーズに進みました。

  • 運用フェーズでのKPIモニタリング
    システム導入後もKPIを定期的に見直し、アラート閾値や運用プロセスを改善し続けることが、効果を持続させるポイントです。

  • 開発会社との密なコミュニケーション
    開発会社任せにせず、定例ミーティングで現場からのフィードバックを即時共有。仕様変更や追加開発は「必要最小限かつ優先度高いもの」に絞ることで、予算管理とスケジュール遵守を両立できました。

これらの教訓は、システム導入を初めて行う製造業のマネージャーにとって、貴重な指針となるでしょう。

今後の拡張計画とメンテナンス体制

現在、匠製作所では以下のような中長期計画を進めています。

  1. AIによる故障予測モデルの導入
    集積された稼働データを機械学習で解析し、より早期に故障を予測。PoCデータを使ったモデル精度は85%を超え、2025年夏までに全ラインへ展開予定です。

  2. サプライチェーン全体への見える化拡大
    部品仕入れから出荷までの「トレーサビリティ」をIoTプラットフォームで一元管理し、在庫最適化と納期遵守率向上を目指します。

  3. トレーニングセンターの開設
    社内SEや生産技術担当者向けにIoT運用の研修センターを設置。外部開発会社への依存度を下げ、自社内でのカスタマイズ開発・保守を担える体制を強化します。

  4. 定期メンテナンス契約の拡充
    センサーやゲートウェイの定期交換に加え、クラウド運用・セキュリティアップデートのサブスクリプション契約を締結。予算の見通しが立てやすくなるとともに、システムの安定稼働を維持します。

これらの拡張フェーズにも、開発会社やクラウドベンダーとの連携が不可欠です。匠製作所のケーススタディは、同様の規模の企業が自社のシステム発注や予算策定、開発会社の選び方を考える際に大いに参考になるでしょう。

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