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開発ユースケース紹介

農業×DX事例:スマートファーム遠隔モニタリングシステムで生産性20%向上

背景:従来の現場課題とシステム導入検討のきっかけ

地方の有機農業を営むミドリファーム社は、広大な圃場を人手で巡回し、土壌水分や温度をチェックしていました。しかし、天候の急変や水やりタイミングのズレで作物にストレスがかかり、収穫量減少や品質ムラが課題となっていました。また、夜間や休日の巡回は難しく、外注コストや人件費が膨らむ一方でした。さらに、従来のシステム(Excel管理+FAX)では、リアルタイムの情報共有ができず、緊急対応が遅れがち。

こうした中、社長のAさんは「ITを使って圃場を可視化し、的確な灌水・温度管理を自動化できないか」と考え始めます。農業分野ではスマートファームという言葉が注目されており、IoTセンサーやクラウドを組み合わせて遠隔モニタリングを行う事例が増えていましたが、自社の規模感や予算相場がわからず、開発会社への発注タイミングを検討していました。

最近の農業システム開発の費用感を知るため、Aさんは「開発会社の選び方」ガイドを参照しつつ、自社向けにどの程度の「予算」や「費用」が必要かをスピードチェック。コンサルティング会社に問い合わせる前に、まずは自力で要件を整理することにしました。

開発会社の比較と予算策定プロセス

Aさんはまず、システム開発会社を3社ピックアップしました。その比較ポイントは以下のとおりです。

  1. IoT機器連携実績

  2. クラウド環境構築能力

  3. 農業業務への理解度(ドメイン知識)

  4. 過去プロジェクトの規模と費用相場

  5. 保守・運用支援体制

これらを踏まえ、各社からヒアリングシートを提出してもらい、初期導入費用と年間保守費用の見積を取得。

  • 社内SE経験者がいないため、発注前には必ず要件定義フェーズの追加費用が発生しないかを確認。

  • 見積書には「PoC(概念実証)」「本開発」「保守運用」の3フェーズを明示してもらい、プロジェクトリスクを低減。

  • 連携予定のクラウドサービス(AWS IoT Core)利用料も含めたトータルコストを算出。

最終的に、B社を選定。理由は①スマート農業向けのパッケージ開発実績が豊富、②相場感に近い予算感、③コミュニケーション体制が明確だったためです。予算規模はPoCフェーズで約300万円、本開発で800万円、初年度保守費用200万円を想定しました。

要件定義とPoCフェーズの進め方

PoCではまず、圃場内の代表的なポイントに温湿度・土壌水分センサーを5ヶ所設置し、データをクラウドに送信できるか検証しました。具体的なステップは下記の通りです。

  • センサー設置計画:GPS座標と電源確保場所を調査

  • データ収集検証:LoRaWANゲートウェイ経由で10m〜50m離れたセンサー間通信をテスト

  • クラウド連携:AWS IoT CoreとMQTTプロトコルでリアルタイム受信

  • ダッシュボード構築:Grafanaで簡易グラフ化、社内でも見やすいUIを検証

PoC期間は約2ヶ月で完了し、「毎時更新」「閾値超過アラート」「過去30日データのトレンド可視化」が実現できることを確認。これにより、切り戻しリスクを抑えつつ、次の本開発へスムーズに移行できる見込みが立ちました。

IoT連携から本開発へ:システム設計とスケジュール管理

本開発フェーズは以下の工程で約4ヶ月間を想定しました。

  1. 詳細設計

    • センサー種別と配置マップを最終確定

    • API仕様書と認証方式(IAMロール)の定義

  2. 実装

    • センサー側ファームウェア調整

    • バックエンドLambda関数+DynamoDBテーブル設計

    • フロントエンドReactダッシュボード開発

  3. テスト

    • ユニットテスト80%以上カバレッジ必須

    • 結合テスト:実際の圃場で本番同等環境を再現

  4. デプロイ&ローンチ

    • Terraformによるインフラコード化

    • Blue/Greenデプロイ手順策定

スケジュール管理はガントチャートで可視化し、週次で進捗会議を実施。進捗遅延や仕様変更リスクを早期検知し、都度オフショア開発チームと連携して対応しました。ここでも発注時に合意した「変更管理プロセス」が有効に機能し、見積外追加費用を最小限に抑えられました。

運用開始後の成果とKPIモニタリング

本番稼働から半年経過した時点で、ミドリファーム社は以下の主要KPIを定期的にレビューしています。

  • 収穫量:前年同期間比で20%アップ

  • 水利用効率:1リットルあたりの収量が15%向上

  • 労働時間削減:巡回作業が50%削減され、年間約200時間の人件費節約

  • アラート対応件数:誤検知を含め月20件→5件に改善し、対応コストを60%削減

これらのデータはクラウドダッシュボード上で自動的にグラフ化され、週次・月次レポートとしてレポジトリに蓄積。管理者は「システム導入によるROI(投資利益率)」を定量的に把握できるようになりました。導入前に設定した「費用対効果(費用÷効果)」の相場シミュレーションともほぼ想定どおりに推移し、追加投資の意思決定を迅速化しています。

さらに、ダッシュボードでは「センサー故障率」「通信遅延件数」「データ欠損時間」など、運用会社への保守依頼前に把握すべき指標も可視化。これにより、稼働率99%以上を維持しつつ、保守費用の相場を把握したうえで発注先へ交渉材料として提示できています。

導入成果を踏まえ、Aさんは次年度予算において「保守費用を前年比で10%圧縮しつつ、追加センサー導入費用を見込む」という計画を策定しました。これにより、予算管理の透明性が向上し、社内外のステークホルダーに対して確度の高い報告が可能となっています。

発生した課題と改善施策

運用中に浮上した主な課題と、それに対する改善策は以下のとおりです。

  1. バッテリー消耗の早期化

    • 原因:センサーの通信頻度が高すぎ、電力消費が増加

    • 対策:通信間隔を最適化し、重要閾値を超えた場合のみ即時送信する方式に変更

  2. ネットワーク死角の存在

    • 原因:LoRaWANゲートウェイの設置場所により、一部センサーが通信できず

    • 対策:メッシュネットワークを構築し、中継ノードを追加設置

  3. データストレージコストの増加

    • 原因:すべてのセンサーデータを高頻度でAWSに保存

    • 対策:古いデータはS3 Glacierへ自動移行し、DynamoDBストレージ量を削減

  4. 現場担当者の操作トレーニング不足

    • 原因:新システムのUIに慣れず誤操作が発生

    • 対策:操作マニュアルを PDF と動画で整備し、月1回のオンライン研修を実施

これらの改善策はすべて本開発フェーズの予算内で実施できたため、追加の発注費用はほぼ発生しませんでした。見積もり時に余裕を見た「変更管理バッファ」が有効に働き、その後の運用コストも安定化しています。

導入を成功に導くポイントまとめ

ミドリファーム社の事例から得られる、システム導入成功の要点は以下の5つです。

  • PoCでリスクを可視化:短期検証で技術的・費用的な課題を明確化

  • 開発会社選びの基準設定:ドメイン知識と実績、費用相場を比較

  • 要件定義の精緻化:発注前に変更リスクを減らすフェーズ分割

  • KPIモニタリング体制:導入後の成果把握と予算管理を自動化

  • 保守運用プロセスの整備:故障監視とトレーニング計画で安定稼働

これらのポイントは、他業界のシステム導入でも応用可能です。特に「PoC→本番→保守」という3フェーズに予算を明確に割り振る方法は、費用負荷を抑えつつシステムを確実に本番稼働させるうえで有効です。

今後の拡張検討と費用相場

ミドリファーム社では次のような追加機能と、おおよその費用相場を検討しています。

  1. 画像解析による病害検出

    • カメラ+AIモデル開発:約500万~800万円

    • クラウド推論環境費用:月額5万円~

  2. ドローン自動巡回システム

    • ドローン機体+SDK開発:約1,000万円~

    • 法規制対応コンサル:50~100万円

  3. 予測分析プラットフォーム

    • データサイエンス開発:約300万~500万円

    • BIツール連携費用:月額3万~

いずれもPoC段階で概念実証し、コスト削減効果や導入効果を定量化したうえで発注する方針です。今後の予算策定では、これらの拡張モジュールをフェーズ分割し、相場感を把握したうえで段階的に投資するロードマップを策定します。

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