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開発ユースケース紹介:IT未経験のBさんが始めた農業IoTプラットフォーム導入プロジェクト

農業事業からIT活用への挑戦

Bさんは地方で農業を営む家業を引き継いだ若手経営者です。幼い頃から土に触れてきたものの、農業ビジネスの効率化には限界を感じていました。市場の相場変動や人手不足は深刻で、近年は「システムを活用して農業の課題を解決したい」という思いが強くなっていきました。あるとき、同業者のA社がIoTセンサーを導入し、生育状況を遠隔で監視できるようにしたニュースを耳にし、早速検討を始めました。
しかし、Bさん自身はこれまで「IT」「システム」という言葉にほとんど縁がなく、専門用語を聞いても理解できないのが現状でした。そこでまず、「開発会社の選び方」についてインターネットで情報を集めましたが、どの情報も抽象的で、田舎の農家が予算をかけて発注するにはハードルが高いと感じました。「予算は限られているが、どこまで費用対効果が得られるのか」「相場はどれくらいか」など具体的な数字がわからないままだと、開発会社へ発注するにあたって不安が募りました。
そこでBさんは、同じ地域でIT導入に成功している事例を探し、オンラインセミナーにも参加しました。そこで出会ったのが、農業向けIoTシステム開発を専門とするC社でした。C社は農業分野のシステム開発実績が豊富で、コスト感や予算の組み方、どこまでを自社で導入し、どこから外部開発に依頼すべきかを丁寧に説明してくれました。Bさんは初めて「相場」という考え方や「発注する際の見積書に入っている項目の意味」を理解しました。
特に印象に残ったのは、C社が提示した「プロジェクト全体の予算見積もり」です。IoTセンサーとプラットフォーム構築で300万円程度、その後の保守・運用で月額10万円程度を想定し、自社の売上とつり合わせて採算ラインを試算してくれたのです。また、C社は「最初は小規模なPoC(概念実証)として畑の一部にセンサーを設置し、データ取得の精度や使い勝手を検証しましょう」と提案しました。これにより、初期予算を大幅に抑えつつ、効果検証が可能になることがわかり、Bさんは安心して開発会社選びを進めることができました。
BさんはC社だけでなく、他にも2社に相見積もりを依頼しました。D社はパッケージ製品を販売しており、導入コストは200万円からと低めでしたが、カスタマイズ性が低く、自社の業務フローには合わない部分が多かったのです。E社は大手SIerで信頼感はありましたが、初期費用が500万円を超え、予算オーバーを懸念せざるを得ませんでした。結局、C社の費用相場と自社の要件をうまくマッチさせた見積もりが最適と判断し、発注先としてC社を選定しました。
このフェーズで学んだポイントは、ただ安い開発会社を選ぶのではなく、自社の業務や予算感に合わせて「どの範囲を自ら担い、どの部分を外注するか」を明確にすることの重要性でした。Bさんは、最初に「余計な機能を詰め込まない」「業務効率化に直結する要件のみを優先する」という選び方をしたことで、開発コストを抑えながらも事業インパクトのあるシステムを実現できたのです。

予算策定と開発会社との交渉プロセス

C社を選定後、次に行ったのが予算策定と見積もり交渉です。C社は、最初に「要件ヒアリングフェーズ」で3日前後のワークショップを提案しました。Bさん自身が業務フローを詳しく説明し、C社のエンジニアと一緒に画面イメージや機能リストを洗い出すことで、必要な開発範囲が明確化されました。このフェーズのコストは約30万円ですが、ここで曖昧なまま進めると「見積書に入っていない追加費用」が後から発生するリスクがあります。
要件ヒアリング後、C社から提示された見積書では、大きく以下の項目に分かれていました。

  1. システム設計・要件定義:50万円

  2. センサー機器調達および設置工事:100万円

  3. プラットフォーム(Webアプリ)開発:120万円

  4. テスト・導入支援:30万円

  5. 運用保守(年間契約):120万円(年間、月額換算10万円)

合計320万円という見積もりに対し、Bさんは自社の資金繰りを再確認し、「初年度は開発費を300万円以内に抑え、運用保守は半年ごとに見直し可能にしてほしい」と要望を出しました。C社もシステム構築のフェーズを2つに分割し、PoCとしてまずは50万円分の簡易機能を含めた設計・センサー試験環境構築を先行し、その後本格開発フェーズを200万円程度で実施するという提案を行いました。これにより、Bさんは「まずは一定の投資で効果検証し、効果が見えた段階で追加予算を確保する」という予算策定方法を実現できました。
ちなみに相場感としては、農業用IoTシステム開発の相場が初期導入で約300万円~500万円、運用保守は月額10万円~20万円程度であることをC社や他社のヒアリングを通じて確認しました。Bさんは複数の開発会社を比較した結果、自社の予算感と近い範囲で対応可能なC社を選んだからこそ、無理なくプロジェクトを推進できたのです。
見積もり交渉のポイントとしては、「何を業務部門が自社で担い、何を外注するか」という範囲調整が大きな鍵になりました。たとえば、データ可視化ダッシュボードのグラフライブラリはオープンソースで自社のエンジニアが実装できるため、C社からの見積もりからグラフ実装の工数20万円分を削減することができました。また、センサー設置工事も自社のアルバイト人員でできる範囲を洗い出し、C社には難易度の高いネットワーク設定や初期調整のみを依頼し、コストを15万円ほど削減しました。
こうして最終的な発注金額は約270万円となり、当初予算の300万円以内に収まりました。Bさん自身も「相場を理解し、開発会社としっかり交渉することで費用を抑えられる」という手応えを得ることができました。

開発フェーズの進め方と具体的な課題解決

発注先のC社との契約が完了し、いよいよシステム開発フェーズに移行しました。まずはIoTセンサーの設置準備から開始し、農地の土壌や気温・湿度を計測するためのセンサーモジュールを選定しました。C社からは複数の機種提案がありましたが、最終的には屋外での耐久性とコストバランスを考慮し、1台あたり約5万円のLoRaWAN対応センサーを10台発注しました。これにより、初期のセンサー費用は約100万円となり、予算内に収めることができました。
センサー設置作業は自社メンバーが主導し、C社にはネットワーク設定やデータ通信テストのみを依頼する形としました。その結果、設置工数が削減され、C社に支払う費用は当初見積の半分にあたる約50万円で済みました。これにより、予算管理が容易になったと同時に、開発会社選びや発注の際に「どこを内製化し、どこを外注するか」を明確にすることの重要性を改めて実感しました。
次に、プラットフォーム(Webアプリ)の開発に着手します。C社はReactベースのシステムを提案しており、自社の業務担当者でも画面を直感的に操作できるUI/UX設計を得意としていました。要件定義で決まった機能は以下の通りです。

  • センサーのデータ収集・蓄積機能

  • リアルタイム可視化ダッシュボード(グラフ表示、ゲージ表示)

  • メール通知・アラート機能(閾値超過時の通知)

  • ユーザー管理機能(アカウント発行、権限設定)

  • スマートフォン対応のレスポンシブデザイン
    特に予算の都合上、「データの見える化は最低限のグラフ表示に留め、分析機能はフェーズ2で検討する」というスコープを意図的に限定しました。開発会社への発注金額は約120万円を想定していましたが、最終的には要件変更や追加要望を受けて約130万円となりました。これも「予算交渉時に相場を理解していた」ため、追加費用が明確となった段階で速やかに社内の予算調整ができました。
    実装にあたっては、React+TypeScriptのプロジェクトをGitHubで管理し、CI/CD環境をGitHub Actions+Vercelで構築しました。コード品質の担保にはESLintとPrettierを導入し、Pull Requestごとに自動でStatic Analysisが実行されるよう設定。これにより、後工程での修正コストを減らし、開発スピードを維持しながら品質を確保しました。
    開発中に最も大きな課題となったのは、センサーから送られてくるデータのフォーマットが想定と若干異なった点です。センサーのファームウェアアップデートが行われたタイミングで、温度データの単位が「℃」から「°F」に変更されたため、初期実装ではグラフ表示がバグり、温度が極端な値で表示されてしまいました。この対応として、バックエンドAPIにデータ正規化処理を追加し、受信時に「°F→℃」の変換を自動で行う仕組みを導入しました。この改修により、追加で約5工数(約15万円)の費用が発生しましたが、「発注後も開発会社との継続的コミュニケーションが円滑だった」ため、迅速に対応できました。
    また、ユーザー管理機能では「社内では複数の役割があるため、権限設定を柔軟にしたい」という要望が追加され、最初の見積にはなかった「ロールベース権限管理」を導入しました。C社からはAuth0を用いたSaaS認証サービスを提案されましたが、コストを抑えるため、既存のオンプレミスLDAPとAPI連携し、フロントエンド側でJWTベースの認可チェックを行う方式に変更しました。この判断により、約20万円分の追加費用を節約でき、その分を他の開発項目に充当できました。

テスト・導入のポイントとプロジェクト進行管理

実装が進む中で、並行してテスト計画を策定しました。C社は以下のテスト体制を提案してきました。

  1. 単体テスト:各コンポーネント・関数の動作検証(Jest+React Testing Library)

  2. 結合テスト:バックエンドAPIとの連携確認(Postman/Newmanによる自動化)

  3. E2Eテスト:ユーザーシナリオに沿った操作検証(Cypress)

  4. 負荷試験:センサーからの大量データを想定した性能確認(k6)

テスト工数は合計で約25工数(約75万円)を見積もりましたが、農業IoTという特殊領域ゆえに「通信途絶」「不整合データ」「グラフ表示の負荷」など、想定外の課題が次々に発覚しました。特にセンサー側の通信が途切れた際に、システム側でタイムアウト処理が未実装だったため、UIがフリーズする不具合が発生しました。この対応として、フロントエンドで非同期通信に2秒のタイムアウトを設定し、タイムアウト時には「通信エラー」のメッセージを表示する仕組みを追加。ここで約3工数(約9万円)の追加費用がかかりましたが、ユーザビリティ向上につながりました。
結合テストでは、バックエンドAPIの応答時間が想定よりも遅く、フロントエンド側で表示待ちが長くなる問題が発生したため、APIのレスポンスをキャッシュする仕組みをミドルウェア層に導入。これにより、平均応答時間が500ms→200msに改善し、ユーザーのストレスを軽減できました。このAPIキャッシュ導入には約10万円の追加コストがかかりましたが、「運用保守時のサーバー負荷も軽減された」として、結果的に運用コスト削減にも寄与しました。
E2Eテストでは、「ログイン→ダッシュボード確認→アラートメール送信→データ履歴確認」という一連の流れを自動化しました。Cypress実装に約7工数(約21万円)を要しましたが、テストカバレッジが向上し、本番リリース直前のQAでも手動テストでは検出できないエッジケースを発見できました。たとえば、ユーザーが同時に複数のブラウザでログインし、在庫アラートが二重に発火する不具合など、本来なら運用後に気づいていたであろう問題を事前に修正できました。
負荷試験では、センサーから1日あたり約1万件以上のデータが送信されるシナリオを再現し、APIサーバーのCPU使用率やメモリ使用量を監視しました。当初はピーク時にCPU使用率が90%を超える状況が頻発していましたが、APIサーバーのインスタンスをt3.large → m5.largeにスケールアップし、並列処理数を2倍に増やすことで、ピーク時もCPU使用率を60%程度に抑えられました。このサーバースペック変更により、インフラ費用が月額約3万円増加しましたが、「稼働率の安定化で障害対応コストを年間約20万円削減」できたため、費用対効果は高い判断となりました。

運用と保守フェーズでの継続的改善

システムを本番リリースした後も、プロジェクトは終わりません。運用保守フェーズでは、以下のポイントに注力しました。

  1. 定期メンテナンスとセンサー故障対応

  2. データ蓄積量増加に伴うデータベースの最適化

  3. ユーザー要望に応じた機能追加

  4. コスト最適化のためのリソース見直し

まず、センサー故障時の対応では、C社と連携し障害アラートを自動化しました。具体的には、LoRaWANゲートウェイからセンサーが24時間以上データを送信しない場合に、システム側で自動的に検知し、メール・Slack通知が届く仕組みを構築。これに要した工数は約5工数(約15万円)でしたが、農業従事者のBさん自身が遠隔地にいても即座に故障対応できるようになり、ダウンタイムを大幅に減らせました。
データベース最適化では、AWS RDSのストレージが半年でデータ量増加により80%利用率に達したため、リードレプリカを追加して読み取り負荷を分散。これに5万円程度のコスト増が発生しましたが、クエリ応答速度が30%向上し、ダッシュボードのストレスが軽減しました。
ユーザー要望に応じた機能追加では、Bさんの仲間の農家から「収穫予測機能が欲しい」という声が上がり、気象データを組み合わせた簡易的な予測モデルを追加しました。C社に見積もりを依頼したところ約15万円(約5工数)で実現可能と判明し、実装後にユーザーから好評を博しました。この事例は「最小限の機能を追加して迅速に検証し、使い勝手を確かめる」というMVP(Minimum Viable Product)の考え方が有効であることを示しています。
コスト最適化については、運用開始から半年ごとに「モニタリングレポート」をC社から受領し、リソース使用料やAPIコール数、サーバー利用率を把握。不要になったRDSリードレプリカや一時的に立ち上げていたLambdaインスタンスを削除し、月額リソースコストを平均で約15%削減できました。具体的には、月額20万円だったリソース利用料を約17万円に抑えられ、年間で約36万円のコスト削減に成功しました。

ビジネス効果と学び

本プロジェクトを通じて得られたビジネスインパクトは以下のとおりです。

  • センサーによる生育状況の可視化で、肥料や水やりのタイミングを最適化し、収穫量が平均10%向上

  • ダッシュボードによるリアルタイム監視で、農作業効率が1日あたり平均1時間短縮され、労働生産性向上

  • 継続的なデータ蓄積がもたらす「過去データに基づく意思決定」により、収益性が年間約50万円改善

  • 開発会社選びと予算交渉で得たノウハウにより、次回以降のシステム発注時に約20%のコスト削減が可能

また、プロジェクトで学んだ主要なポイントは次の通りです。

  1. ユースケースの明確化が重要:自社の課題や業務フローを具体的に文書化し、開発会社に共有することで、要件定義フェーズのブレを防ぎ、追加費用や予算超過リスクを抑えられる。

  2. 相見積もりで相場を把握する:複数の開発会社から見積を取得し、費用相場を理解したうえで発注先を選択することで、予算を適切にコントロールできる。

  3. 内製と外注の線引きを明確化する:自社で対応可能な項目と開発会社に発注すべき項目を明確に分けることで、コストを削減しながらスピード感を維持できる。

  4. 継続的な改善サイクルを回す:リリース後も運用保守フェーズで改善提案を継続し、コスト最適化や機能追加を段階的に行うことで、長期的なビジネス効果を最大化できる。

今後の展望とまとめ

Bさんは本プロジェクト成功後、次に検討しているのが「AIによる作物病害予測機能」の追加と、「マルチチャネル対応の強化」です。AI機能は、収穫データや気象データを機械学習モデルにかけることで、病害リスクを事前に警告できる仕組みを構築し、より効率的な農作業を実現する計画です。AI機能の初期費用は約80万円、月額運用は約8万円を見込んでおり、農業IoTの市場相場を踏まえた予算感となっています。
マルチチャネル対応では、スマートフォンアプリやLINE連携を検討中です。利用者が現地のスマホから簡単にデータを入力できるようにすることで、システムの利便性をさらに高めようとしています。実装費用は概算で約50万円、運用保守は月額5万円程度と見積もられています。これにより、業務担当者の利便性を向上し、開発会社への発注フローも簡素化できると期待しています。
まとめると、本ユースケースではIT未経験の経営者でも「開発会社の選び方」「予算の立て方」「費用相場の把握」「スコープ管理によるコストコントロール」「発注後のプロジェクト管理」などを学びながら、実際に農業IoTプラットフォームを構築し、具体的なビジネス効果を得られたことが大きな成果です。開発会社選びや発注スキルを磨くことで、限られた予算でも効率的にシステムを導入できる点は、他業種の事業責任者やマネージャーにとっても有益な示唆となるでしょう。
今後は、AI連携やマルチチャネル対応といったさらなる機能強化を進めることで、農業事業のDXを一層加速させると共に、他の業務領域でも同様の導入手法が参考になると考えています。この記事が、システム発注や開発ユースケースを検討する皆さまのお役に立てれば幸いです。

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