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マルチブランド対応システム開発の落とし穴と設計戦略:複数ブランドを運営する企業が陥りやすい「見えない複雑性」とは?

近年、D2Cやフランチャイズ、OEMなど複数ブランドを展開する中小企業が増えています。こうした企業にとって、販売チャネルや顧客層が異なる「複数ブランド」を一元管理する業務システムの構築は、効率化と拡張性の両立を求められる極めて重要な取り組みです。

しかし、システム開発を受託で依頼しようと考えたとき、「ブランドの違い」は見落とされがちな設計要素となります。本記事では、マルチブランド運営企業におけるシステム開発の“見えにくい難しさ”を解き明かしながら、要件定義やUI/UX、データ設計において何を意識すべきかを、より実務的に深掘りして解説します。

なぜ「マルチブランド対応」が難しいのか?

複数ブランドを運営する企業は、見た目以上に「組織的にも、システム的にも多重構造」を抱えています。ブランドごとに以下のような違いがあるのが通常です。

  • 顧客属性(例:女性向けブランドとユニセックスブランド)
  • 商品カテゴリ(アパレル/食品/サブスクリプション)
  • 販売方法(EC/店舗/卸売)
  • 担当部署(ブランドマネージャー、販促担当、カスタマーサポートなど)

このような業務構造の違いは、設計段階で「共通化できる部分」と「ブランドごとに分けるべき部分」の線引きを曖昧にすると、のちの運用で想定以上の負荷が生じます。たとえば、ひとつの画面で複数ブランドの業務を操作できる設計にした結果、現場の混乱やデータ誤登録が頻発する、といった問題は珍しくありません。

よくある設計ミスとその影響

ブランド切替を「単なるフィルタ」として扱う

「ブランド切替」機能が単なる一覧フィルタ程度に扱われている場合、以下のような実務的な不整合が起こります。

  • 本来見られないブランドの商品情報にアクセスできる
  • 担当者が間違ったブランド名義で発注処理を行ってしまう
  • 管理画面のUIがブランドごとに不要な機能まで表示し、使いにくい

このような設計では、業務の正確性とユーザーの利便性が著しく低下し、トレーニングやマニュアル整備のコストが跳ね上がります。

ブランド横断データを設計しすぎて拡張が困難になる

「再利用性を高める」という意図でブランドを横断する設計を強く意識しすぎると、結果的に柔軟性が失われることがあります。

  • 決済やキャンペーンロジックがブランドによって異なるのに、処理が共通設計で書かれており、改修コストが高騰
  • 分析要件に応じて、データベースをブランド軸と商品軸の両方で扱う必要があり、クエリが複雑に
  • 新ブランドの追加に対して、認可設定や表示条件の例外処理が急増

こうした事態は「コードの肥大化と設計意図の崩壊」につながりやすいため、注意が必要です。

マルチブランドを前提にした業務要件整理の視点

マルチブランド対応に取り組むには、以下のような視点を要件定義段階で持つことが重要です。

ブランド定義の単位と粒度を明確化する

  • 顧客やスタッフのIDはブランドに依存するか?
  • 商品マスタは共有されるのか、ブランド専用なのか?
  • 同一ユーザーが複数ブランドを横断して操作するケースはあるか?

これらの問いに対する答えが、ID設計、認証・認可、画面構成の方向性を決定づけます。

UI/UXの「文脈切替」に注意する

複数ブランドを扱うUIでは、以下のような工夫が求められます。

  • ブランド切り替えをUI上で「明示的に」「わかりやすく」設置
  • 画面ヘッダーや配色をブランドごとに明確に変更(誤操作防止)
  • ブランド横断画面では注意喚起を明示し、文脈混乱を防ぐ

文脈の視覚的な明示は、特にバックオフィス業務において非常に効果的です。

マルチブランド対応の技術設計パターン

パターン1:完全分離型(マルチテナント)

  • DB、フロント、認証含めてブランド単位で完全に切り分け
  • 高い独立性が求められるケースに適す

メリット: セキュリティ・運用の自由度が高く、ブランド拡張も安全

デメリット: 実装・運用コストが高く、冗長性が増える

パターン2:ヘッドレス構造型(共通API+個別フロント)

  • バックエンドは共通API
  • フロントエンドはブランドごとに分ける(デザイン・UX含む)

メリット: ブランドの世界観や導線に合わせやすい

デメリット: API側の設計が複雑になり、保守に高度な設計力が必要

パターン3:一元管理型(ロールとブランド属性)

  • DB・アプリは共通、ユーザーのロールとブランド属性でアクセス制御

メリット: 開発スピードが速く、初期コストを抑えやすい

デメリット: 条件分岐が増え、設計整合性が崩れやすい

データ分析とマーケティングの観点からの設計配慮

ブランド単位でのユーザー行動分析や販促成果測定を視野に入れる場合、以下の設計が有効です。

  • イベントログにブランドコンテキストを常時付与
  • 分析ビューをブランドごとに切り分け可能な構成に(BIツール側でも)
  • レポートテンプレートをブランドごとに自動生成できるよう定義化

ブランドマーケティングは施策ごとのABテストやエンゲージメントスコアの可視化も重要であり、データ設計とフロント設計を連動させることで柔軟なマーケ施策の実行が可能になります。

保守・運用フェーズでの注意点と育て方

ブランド追加は「前提」として設計する必要があります。以下のような機能をあらかじめ仕込んでおくことで、後々の負担を大きく減らせます。

  • ブランド別の定義情報をJSONなどで管理し、GUIから変更可能に
  • UI構成や機能表示を定義ファイルにより切り替え可能にする設計
  • 新ブランド追加手順をCI/CDの一部としてテンプレート化

ノーコード/ローコードと組み合わせた「運用側で設定変更できる体制」も、拡張コストの大幅削減に寄与します。

開発パートナー選びで確認すべきポイント

以下の観点から開発会社の設計力・実装力を見極めるのが重要です。

  • マルチブランド案件の経験があり、業務要件への理解が深いか?
  • UI/UXにおいて、ブランドごとの文脈設計に対応できるか?
  • 運用後のブランド追加・拡張を想定した設計方針を持っているか?
  • データ活用やBI連携も視野に入れた構成提案が可能か?

開発会社の「提案力」が、短期開発だけでなく中長期の価値創出を左右します。

まとめ:「ブランドを運営する」という複雑さと向き合う開発を

マルチブランドの業務は、単一ブランドとは比較にならないほどの業務バリエーションとロジックの差異を内包しています。

その複雑性を正しく受け止め、データ・UI・API・運用の各層で設計に反映できる開発パートナーこそが、ビジネスの拡張を支える存在となるでしょう。

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