ローコード/ノーコード時代の発注基礎講座:企画〜保守まで総点検

ローコード・ノーコードとは何か?基礎概念
ローコード開発は「80%をコンポーネントで組み立て、残り20%を独自コードで補う」開発手法です。ドラッグ&ドロップ UI‧自動生成 API‧テンプレート DB スキーマを備えた PaaS を利用するため、従来のスクラッチ開発より圧倒的に工数を削減できます。一方、ノーコードは“完全テンプレート”志向でコーディング不要が前提です。エンタープライズ業務システムでは カスタマイズ自由度=競争優位性 となるため、ローコードをベースに必要最小限のコード追加を行うハイブリッド型が主流です。外部 SaaS と REST/GraphQL 連携し、SaaS 間のデータ同期や ID 連携をボタン操作で構成できる点が最大の特徴です。
なぜ今ローコードを採用すべきか:ビジネスメリットと制約
DX 推進部門が自社内の業務システムを高速で迭代するには、要件確定前の試行錯誤を許容するプラットフォームが必要です。ローコードは「仕様変更=UI 拖曳修正」で完結するためプロトタイプを数時間で提示でき、業務担当者のフィードバックを即時反映できます。さらに開発会社側は 保守契約で毎月の改善サイクルを請負 しやすく、継続的な収益構造を構築できます。ただし、
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ベンダーロックイン
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高度アルゴリズムや複雑ワークフロー処理の実装難度
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ライセンス課金体系の複雑さ
などのリスク管理が必須です。
開発フローの違い:従来開発 vs ローコード
ウォーターフォール型は要件凍結後に設計→実装→テストへ進みますが、ローコードプロジェクトでは “プロトタイプ=要件定義” として扱います。設計書よりもプラットフォーム上の画面・ロジック定義を一次成果物にするため、
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ペーパーモック→クリックダミーを即日共有
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スプリントレビューで業務担当が直接 UI を操作
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“見たものが完成物” という認識を全関係者で共有
というサイクルが回ります。QA はユニットテストよりも 統合試験+ユーザー受入れテスト(UAT) を重視し、外部システムとの契約テストで回帰を自動化します。
システム開発会社選びの新基準:ローコード実績と費用相場
従来の評価軸(言語・FW スキル、人月単価)に加え、
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プラットフォーム認定資格の保有人数
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AppExchange/Marketplace 公開アプリ数
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テンプレート再利用比率とライセンス割引率
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TCO 試算シート提示の有無
を確認してください。費用相場はスクラッチ比 40〜60%が目安ですが、ライセンス料込みかを必ず確認します。特に ユーザー数課金 のプランでは将来的な拡張時に予算を圧迫しやすいため、予備費を 15%程度確保すると安全です。
予算策定のステップ:TCO と費用対効果の可視化
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初期ライセンス費:開発環境+本番環境
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開発会社の実装費:ストーリーポイント換算
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運用ライセンス/年:ユーザー追加シナリオ3パターンで試算
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改善スプリント費(月次):Velocity×人月単価×12 か月
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ROI:削減工数・売上増の定量効果を3年累計で算定
TCO 試算を早期に開示すれば、経営層と同じ物差しで投資判断できます。
見積もり依頼書 (RFP) に盛り込むべき7項目
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プラットフォーム名とバージョン
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サンドボックス環境提供有無
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SLA:UI レスポンス 3 秒以内 95% など
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データ移行手順と追加費用
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テンプレート再利用率
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オフショア/ニアショア活用の範囲
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変動費(ライセンス・API コール課金) の上限シミュレーション
この7項目が欠けると追加見積もりが発生し、予定予算を越える要因になります。
発注プロセスと契約形態:請負か準委任か
ローコード案件では要件変更が前提になるため、準委任契約+成果物検収書 を組み合わせるケースが多いです。マスターサービス契約(MSA)で基礎単価を定め、施行スプリントごとに作業注文書を発行する方式を採用すると、追加開発時の社内稟議が簡略化されます。
プロジェクト管理とガバナンス:IT 部門と業務部門の協働
IT ガバナンスを維持するには、
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権限委譲マトリクス で「誰がどこまで改修可能か」を定義
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フロント側ロジック変更は業務部門、API・データ構造変更は IT 部門
という二層運用が有効です。バージョン管理は Git だけでなく、プラットフォーム固有のメタデータ API を利用して CI/CD パイプラインに組み込みます。
保守運用フェーズで見落としがちなポイント
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ライセンス更新月の為替変動リスク
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Marketplace コンポーネントのサポート切れ
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ローコードプラットフォームの UI 仕様変更による研修コスト
といった運用 OPEX をキャッシュフロー計画に含めることが重要です。月次振り返りで KPI 未達が続く機能はスクラッチ化を検討し、パフォーマンスを最適化します。
失敗しないためのチェックリストとまとめ
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KPI は「秒・%」で数値化したか
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ライセンス体系を3年後まで試算したか
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RFP に7項目を明記したか
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ガバナンス体制と CI/CD を構築したか
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保守 OPEX と為替リスクを盛り込んだか
上記を押さえれば、ローコード/ノーコード導入でも 予算超過ゼロ・ROI 最速化 を実現できます。開発会社と長期パートナーシップを築き、アジャイル改善を継続しましょう。