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技術負債返済ノート:レガシーコード整理で得た5つの教訓

はじめに

長年運用されてきた社内システムには、多くの技術負債が蓄積しています。設計ドキュメントが未整備、ライブラリが枯れ、改修コストが雪だるま式に増大──。そんな“負債”を返済しないままにすると、システム障害やセキュリティインシデントのリスクが高まり、結果として開発会社への発注コストや予算超過を招きかねません。本記事では、実際にレガシーコード整理プロジェクトを主導した経験をもとに、技術負債返済のステップごとに得られた教訓をお伝えします。

現状把握:技術負債の棚卸しと影響範囲の可視化

まず最初に取り組んだのは「負債の見える化」です。レガシーシステムのソースコードを解析し、以下の軸で問題点を分類しました。

  • 古いライブラリ・フレームワーク:致命的な脆弱性が残る可能性

  • ドキュメント不足:機能仕様がコードにしか残らず運用負荷増大

  • 一枚岩のモノリス構造:一部改修で全体をビルドし直す工数膨張

  • テストカバレッジの欠如:リファクタリング後の品質保証が困難

  • ビルド/デプロイの手作業:人的ミスによる障害頻度の増加

これらを“リスクレベル”と“工数見積”でマトリクス化し、開発会社への発注見積もりにも使える形で報告書を作成しました。この段階で、予算規模と相場観のギャップが早期に把握でき、経営層の理解も得やすくなります。

ロードマップ策定:優先順位付けとフェーズ分割

次に「どこから手を付けるか」を決めるフェーズです。すべてを一度に解決しようとすると予算超過は必至。そこで、影響度と工数を掛け合わせたスコアリングを行い、

  1. セキュリティ・脆弱性対応

  2. テスト自動化基盤の整備

  3. モジュール単位でのリファクタリング

  4. CI/CDパイプライン構築

  5. ドキュメント整備・ナレッジ共有
    という5つのステップに分割しました。

発注タイミングはフェーズ単位に設定し、B社と契約した際には「初期フェーズ:脆弱性対応とテスト基盤整備」を約500万円で発注。中間レビューで成果を見せ、次フェーズの予算承認をスムーズに進められたのは大きな成功点です。

実践①:脆弱性スキャンと即時対応手順

第1フェーズで行ったのは自動脆弱性スキャンツールの導入です。無償版から試し、検出件数の多さに愕然としましたが、以下のポイントで進めました。

  • スキャン結果は「高・中・低」のリスクに分類

  • 高リスク項目から優先してパッチ適用

  • スキャン&パッチ適用のフローをCIに組み込み

  • 開発会社からのパッチ確認報告を毎週取得する仕組み

ここで学んだ教訓は「脆弱性対応は一過性で終わらせず、自動化と定常運用が鍵」ということです。手作業では漏れが生じ、結果として発注費用だけ増えてしまいます。

実践②:単体テストと結合テストの自動化

並行してテストカバレッジ強化に着手。JUnit/RSpecなど既存フレームワークに乗せ換えつつ、

  • 単体テストの必須化:新規・変更コードは100%カバレッジ

  • 結合テストのスクリプト化:Dockerコンテナでの検証を自動実行

  • レポートの見える化:テスト失敗はSlack通知で即時対応

テスト自動化により、リファクタリング後の不具合発生率が約80%減少。費用対効果は発注先のB社からも高評価を得ました。

実践③:モジュール化によるリファクタリング戦略

オンプレミス時代の一枚岩モノリスを、小さなモジュール単位に分割していく作業は工数がかかります。しかし以下のメリットが大きく、開発会社とも合意しやすいポイントでした。

  1. 機能ごとの独立リリース

  2. デプロイ工数の短縮

  3. 障害範囲の限定化

  4. 将来のクラウドネイティブ移行しやすさ

具体的には「注文管理」「在庫管理」「帳票出力」の3領域に切り分け、各モジュールをGitリポジトリで管理。プルリクエストベースのコードレビューに切り替えたことで、品質と透明性が向上しました。

実践④:CI/CDパイプライン構築

レガシー環境では手動によるビルド・デプロイが常態化しており、人的ミスで本番障害につながるケースが後を絶ちませんでした。そこで次のステップとしてCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインを構築しました。具体的な流れは以下のとおりです。

  1. コード管理の統一

    • GitHub Enterpriseを導入し、全リポジトリを一元管理。

    • ブランチ戦略を「main」「develop」「feature/XXX」に整理し、プルリクエスト後に自動でテストを実行。

  2. ビルド自動化

    • Jenkinsを使ったビルドジョブを定義し、コミット時に自動的にビルド開始。

    • Dockerイメージをビルドしてプライベートレジストリへプッシュし、環境差異を排除。

  3. 自動デプロイ

    • Kubernetesクラスターを準備し、Helmチャートでステージング環境と本番環境へ自動配置。

    • Blue-Greenデプロイを採用して、切り戻しリスクを最小化。

  4. 品質ゲートの設定

    • カバレッジや静的解析の閾値を定め、基準を満たさない場合はマージ禁止。

    • Slack通知と連携し、失敗時には担当者へ即時アラート。

これらを整備することで、従来の「夜間バッチビルド→翌朝障害発覚」という悪夢が消えました。デプロイに要する時間は平均1時間から5分へ、大幅に短縮。さらに、開発会社B社への発注範囲を明確にできたことで、追加費用を抑えることにも成功しています。

実践⑤:ドキュメント整備とナレッジ共有

技術負債返済の最後の鍵となるのが、ナレッジマネジメントの仕組み化です。以下の施策を並行して進めました。

  • Wikiプラットフォーム導入
    Confluenceを使い、機能設計書や運用手順をひとつのポータルに集約。

  • コードコメント規約の策定
    重要メソッドにはJavadocスタイルのコメントを必須化し、IDEの補完機能を活用。

  • 定期的なライトニングトーク
    毎週15分間、チームメンバーが最新の技術トピックや改善ポイントを共有。

  • オンコール時のエスカレーションガイド
    システム障害時の連絡先や対応手順をフロー図で可視化し、紙媒体も併用。

  • 発注先への知識移転セッション
    B社の開発メンバーを交えたハンズオン形式の勉強会を月1回実施。

これにより、「誰も知らないブラックボックス」だった領域が解消され、後任担当への引き継ぎ工数は約60%削減。運用ミスによる障害も激減し、長期的な運用コストの低減につながりました。

技術負債返済のビジネスインパクト

レガシーコード整理プロジェクトを通じて得られたビジネスインパクトは大きく、以下のように測定できます。

  • 開発生産性の向上
    モジュール単位の改修により、機能追加のリードタイムが平均30%短縮。

  • 運用コストの削減
    障害対応工数が半減し、エンジニア人件費換算で年間約300万円の削減。

  • 品質向上
    自動テストと品質ゲート導入で、リリース後の重大バグ発生率が80%低減。

  • 予算透明化
    フェーズごとの発注により、開発会社への予算依頼も的確になり、見積精度が向上。

  • リスク低減
    セキュリティパッチ適用とCI/CD化で、脆弱性インシデント発生リスクを大幅に低減。

さらに、新規システム開発を内製化検討する際にも「自社でCI/CDやテスト自動化が行える体制」が整ったことから、外注費用を細分化し、発注先の選び方や予算策定にも柔軟性が増しました。

まとめ:継続的改善文化の醸成

技術負債返済は一度きりのプロジェクトではありません。以下のポイントを社内文化として定着させることで、将来の再び難解なレガシー化を防ぎます。

  • 定期的な負債棚卸し

  • 継続的なテスト自動化投資

  • CI/CD運用の監視と改善

  • ドキュメント更新を評価指標に組み込む

  • 技術負債をKPIに含めた経営報告

これらを実践することで、システムの長寿命化と予算の最適化が両立し、ビジネスのスピードに追従できる組織へと進化します。ぜひ本記事を参考に、次の技術負債返済プロジェクトへ取り組んでみてください。

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