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開発ノート:工場向けAR安全教育システム開発の舞台裏

プロジェクト発足の背景と目的

製造業大手のファクトリーエクセル社では、毎年取り替え部品による作業事故が発生し、安全教育の強化が急務となっていました。従来はマニュアルと座学で対応していましたが、実機を用いた実地訓練では「危険箇所の見落とし」や「手順の理解不足」が散見され、教育工数も年々増加。その結果、年間の安全教育予算が相場の1.2倍を越え、システム化によるコスト最適化が経営課題となりました。そこで、AR(拡張現実)技術を活用し、現場にいながらスマホやタブレットで危険箇所を可視化し、インタラクティブに学べる教育システムの開発を検討。
このAR安全教育システムの主な目的は次の通りです。

  • 作業員が実際の作業環境をリアルタイムに確認しながら学習することで、危険回避行動を体得

  • 教育工数を50%削減しつつ、理解度を座学比で30%向上

  • 教育成果をシステム上で一元管理し、安全教育の「費用対効果」を可視化

  • 将来的には自社内製システムとして他製造拠点へ「相場」感を抑えた拡大を目指す

ここから、発注先の開発会社の「選び方」、予算・費用の管理、要件定義から納品までの開発ノウハウを時系列で共有します。

開発会社選定と見積もりプロセス

AR技術を含む初の社内システム開発ということで、開発会社選定は慎重に行いました。ARフレームワーク実績、3Dモデル作成能力、業務系システムとの連携経験を重視し、以下の三社にRFPを発行。

  1. A社:Unity/AR FoundationでのARアプリ開発実績10件以上、製造業向け業務フロー連携経験あり

  2. B社:WebAR(WebXR)に強み、タブレット・スマホ両対応の軽量実装を得意とする

  3. C社:ARKit/ARCoreネイティブ対応、3Dレーザースキャンデータ取り込み実績が豊富

想定する工数感として、要件定義〜設計で200時間、実装で800時間、テスト・導入で300時間、合計1,300時間を目安に予算枠を設定し、相場感として1,300時間×単価¥10,000=¥13,000,000程度を想定しました。各社の見積もりはA社が¥12.5M、B社が¥11.8M、C社が¥14.2M。B社は軽量WebARでコストを抑えつつ、機能制限が一部あるため次点評価。最終的に、ARの表現力と業務システム連携力に優れるA社を選定し、PoCフェーズ200万円、本開発予算1,050万円で契約を締結しました。

要件定義とプロトタイプ開発

発注後すぐにA社と合同で要件定義ワークショップを実施。工場現場監督や安全教育担当者を交え、以下の要件を詳細化しました。

  • 位置認識:工場内GPSの精度14mでは不十分のため、ARマーカーおよびSLAM(自己位置推定と環境マッピング)併用による精度1m以内を目指す

  • 危険箇所ハイライト:機械の可動部を3Dモデルと重ね合わせ、可視化表示

  • ガイダンス機能:手順に沿ってAR矢印やポップアップで作業手順を提示

  • 理解度チェック:AR教材の最後にクイズを出題し、正誤・回答時間を蓄積

  • 管理画面連携:作業ログを社内既存システム(SAP)へREST APIで連携し、教育履歴を一元管理

これらをもとに、A社は2週間でUnity+AR Foundationを用いたプロトタイプを納品。初期PoCでは、SLAMの環境マッピングに要する初期起動時間が5秒程度と長く、ユーザービリティに懸念がありました。そこでマーカー検出とのハイブリッド起動シーケンスを提案し、初期起動を2秒以内に改善。PoC評価会では作業員5名のUsabilityスコア平均8.2(10点満点)を獲得し、次フェーズへの進行が承認されました。

アジャイル開発とスプリント運用

本開発フェーズでは、2週間スプリントを8回実施するアジャイル体制を採用。毎スプリントで下記サイクルを回し、要件変更や仕様追加にも柔軟に対応しました。

  • スプリントプランニング:バックログから優先度高項目を選定し、工数見積もり

  • デイリースタンドアップ:社内SEチームとA社エンジニア間で進捗と課題を共有

  • スプリントレビュー:完成機能を工場で試行し、現場フィードバックを即次スプリントへ反映

  • レトロスペクティブ:プロセス改善点を洗い出し、コミュニケーションと品質保証工数を最適化

このアジャイル運用により、想定外の要件追加(災害時の避難経路追加表示など)にもスムーズに対応でき、追加工数120時間(¥1,200,000)を予備予算から捻出しました。結果、総工数は1,320時間、総費用は¥13,200,000と、予算枠内に納めることができました。

テスト・品質保証のベストプラクティス

AR安全教育システムの品質を担保するには、ユニットテストから統合テスト、そして実機検証まで多層的なテスト戦略が欠かせません。まずユニットテストでは、主に以下をカバーします。

  • ARモジュール動作検証:AR Foundationの機能呼び出しやライフサイクルをモック化してテスト

  • 3Dモデル読み込み:モデルパスやマテリアル設定が正しくロードされるか自動テスト

  • ビジネスロジック:クイズ出題ロジックや作業手順ポップアップの表示条件を確認

次に統合テストでは、Unity Test FrameworkやCI環境上でのScriptable Build Pipelineを利用し、AR端末エミュレーターで実デバイスに近い環境を自動テストします。例えば、マーカー認識の精度やSLAM起動シーケンスの再現性をテストケース化し、ステージング環境でビルドからインストール、AR起動、危険箇所表示までの一連フローを検証しました。
さらに実機テストでは、現場同様の照度や動線を再現した試験棟を用意し、5名の現場作業員に対し5回ずつ操作してもらい、エラー回数や認識失敗回数をログ取得。ここで得られたデータは運用チームと共有し、SLAMのリトライ回数やARマーカー配置の最適間隔を微調整しました。品質保証フェーズの総工数は約200時間、テスト自動化に約80時間を投入し、追加「費用」はテスト用マシンレンタル込みで¥1,200,000でしたが、開発会社への再発注リスクを回避し、後工程での手戻りコストを¥2,000,000以上節約できました。

本番環境への展開とネットワーク要件

ARシステムを本番の工場環境に展開する際は、ネットワークインフラがボトルネックになりがちです。オンプレミスWi-Fiの帯域確保とセキュリティ設定を以下のように整備しました。

  • SSID分離:AR用端末専用のVLANを設定し、既存業務ネットワークとトラフィックを分離

  • 帯域保証:QoS設定でARトラフィックに優先帯域を割り当て、SLAMデータ送受信を安定化

  • Edge Caching:ARコンテンツ(3Dモデルやビデオチュートリアル)をローカルキャッシュサーバーに配置し、クラウド往復を最小化

  • VPN接続:本社システム連携用に専用VPNを構築し、教育履歴データをセキュアに同期

A社はこれら要件を「要件定義」フェーズで提案し、ネットワーク構築をベンダー落ちしないよう、Wi-Fiアクセスポイント数や帯域要件を詳細に見積書に記載しました。初期「費用」はネットワーク機器リースを含め約¥2,500,000でしたが、安定稼働により本番後の運用障害ゼロを達成。結果として追加保守費用を抑え、予算範囲での展開が実現しました。

トレーニングプログラムとユーザー定着

システム導入後、現場作業員にARシステムを定着させるためのトレーニングが重要です。ファクトリーエクセル社では以下のステップで進めました。

  1. キックオフ研修:全作業員対象に2時間のハンズオンワークショップを開催

  2. eラーニングモジュール:社内ポータルに動画・クイズ形式の教材を公開

  3. 現場ナビゲーター:各工場に「ARリーダー」を任命し、現地での運用サポートを実施

  4. 定期フォローアップ:1ヶ月後、3ヶ月後にアンケートと操作テストを実施

トレーニングの設計では、操作手順の動画教材やFAQを標準機能としてARアプリ内にも組み込み、「ヘルプ」ボタン一つで参照できるようにしました。この追加開発には約80時間(¥800,000)の費用がかかりましたが、eラーニング利用率は80%超、ARリーダーからの問い合わせは初月100件→3ヶ月後20件に減少し、トレーニング工数を50%以上削減。発注先の開発会社との協力で教材機能を要件に盛り込んだことが、ユーザー定着の成功要因です。

運用保守とバージョンアップ計画

リリース後の運用保守では、以下の体制を整備し、継続的な改善に取り組みました。

  • 月次メンテナンス:A社によるARコンテンツ更新とUnityバージョンアップ適用(¥200,000/月)

  • 障害対応:初動対応1時間以内、復旧8時間以内のSLAを締結

  • ユーザーフィードバック:アプリ内フィードバック機能で改善要望を即時収集

  • バージョン管理:GitおよびUnity Cloud Buildでバージョンを統一し、デプロイ混乱を防止

保守費用は月額¥250,000で契約し、初年度は¥3,000,000の予算を確保。結果として、バージョンアップ作業工数は予算相場の70%程度に抑えられ、追加「費用」発生を限定的に管理できました。

コスト最適化とROI評価

AR安全教育システム導入のコスト最適化とROI(投資対効果)は以下の数値で可視化しました。

  • 初期投資:本開発¥12,500,000+ネットワーク¥2,500,000+PoC¥2,000,000=¥17,000,000

  • 教育工数削減:年間1,200時間 × 人件費¥4,000/時間=¥4,800,000

  • 事故コスト削減:過去事故コスト¥10,000,000 → 導入後¥4,000,000=¥6,000,000削減

  • 運用保守コスト:年間¥3,000,000

ROI = (4,800+6,000 − 3,000) ÷ 17,000 × 100 ≒ 45%、約2.2年で回収可能となる試算です。これを経営会議でダッシュボード化して共有し、追加機能開発や他拠点展開の「予算取り」に強力な根拠としました。

次のフェーズ:遠隔支援とXR連携

今後の拡張フェーズとして、以下の機能追加を計画中です。

  1. 遠隔支援モード:ベテラン技術者が遠隔地からAR画面を共有し、リアルタイムで注釈やガイドを追加

  2. VR/XR連携:検証環境でVRシミュレーションを行い、現場研修の前段階として展開

  3. AI自動チュートリアル生成:作業ログからAIが最適な手順ビデオを自動生成

  4. 他言語対応:工場外資系現場向けの多言語UI化

これらはPoCフェーズで各200~300万円、合計800万円程度の予算を想定し、「相場感」を再度確認したうえで発注予定です。ARシステムの導入ノウハウを活かし、開発会社との継続的な協力体制を築くことで、効率的かつ低コストで拡張を進める計画です。

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