GraphQL移行の開発ノート:モノリシックRESTからタイプセーフAPI設計へ

はじめに
既存の業務システムをREST APIからGraphQLへ移行するプロジェクトでは、要件定義やスキーマ設計の難易度が飛躍的に上がります。モノリシックなREST構成のままでは、フロントエンドとバックエンドの仕様差異や、エンドポイントの増加によるコストの肥大化が避けられません。本記事では、実際に携わった社内API移行プロジェクトをもとに、技術リーダー視点での具体的な課題・教訓・ノウハウを共有します。GraphQL導入のメリット・デメリット、開発会社選びや予算・費用相場の抑え方まで網羅的に解説しますので、同じシステム移行に取り組む方の参考になれば幸いです。
プロジェクト背景と課題認識
私がリードを務めたプロジェクトでは、モノリシックなREST APIを抱えた基幹システムをマイクロサービス化すると同時に、GraphQLで型安全かつ柔軟なデータ取得を実現することがミッションでした。
既存のRESTエンドポイントは100以上にのぼり、フロントエンド側では不要なフィールドが返却される煩雑さや、複数API呼び出しによる通信コストの増大が顕著でした。
また、開発会社に発注した際に「RESTのままでは将来要件に対応しきれない」と指摘され、追加費用の見積もりが跳ね上がるリスクも感じていました。
これらの課題を整理すると、次の三点に集約されました。
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不要データが含まれるためフロントエンド側でのパース工数が増大
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複数回のネットワークリクエストで費用が積み重なる
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RESTエンドポイント追加ごとに発注・見積もりが発生し、予算コントロールが難しい
特に、予算(費用)相場を明確にしないまま発注すると、後から追加料金の交渉で難航する懸念がありました。
そこで、GraphQL移行による恩恵と工程ごとのコスト試算を社内の経営層に提出し、「相場感を把握した上での発注」を進めることにしました。
このセクションでは、プロジェクトの背景と課題を整理し、発注前に押さえておくべきポイントを俯瞰しました。
GraphQL導入検討と技術調査
導入を検討するにあたり、まず技術選定フェーズでGraphQLエンジンの比較を行いました。
候補としては、Apollo Server、Hasura、Absinthe(Elixir版)などが挙がりました。
それぞれのメリット・デメリットを以下の観点で評価しました。
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開発スピード:スキーマ定義からクエリ実行までのセットアップ時間
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拡張性:リゾルバ追加やプラグインによる機能拡張のしやすさ
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コスト:ホスティング費用やエンジン運用コストの相場感
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開発会社選び:社内チームまたは外注先に経験者がいるか
調査の結果、Apollo Serverが最大のコミュニティとドキュメント量を誇り、導入コストも比較的低い相場でした。一方、Hasuraは設定だけで動く点が魅力ですが、カスタマイズ時の学習コストが高く、発注費用が跳ね上がる見込みがありました。
最終的に、Apollo Serverを採用し、スキーマ設計→モノリシックREST APIからのフェデレーション→マイクロサービスとしての移行というステップを計画しました。
この技術調査フェーズでは、社内SEだけでなくUXデザイナーやフロントエンドエンジニアも巻き込んでワークショップを実施。
GraphQLの概念的メリットを共有し、開発会社へ詳細要件を発注する際の要件定義書に落とし込みました。
発注時には調査段階での工数(相場:50~80工数/約80万~120万円)を見積もりに含めてもらい、予算にバッファを設けることに成功しました。
この章では、技術調査の手順と開発会社選びの視点、予算・費用管理のポイントを解説しました。
スキーマ設計と既存REST連携の苦労
スキーマ設計では、まず既存REST APIのエンドポイントを一覧化し、GraphQLの型として再定義する作業から始めました。
特に課題だったのが、REST特有の状態レスポンス(ステータスコードやヘッダー情報)とGraphQLの一貫したJSONレスポンスの整合性です。
たとえば、モノリシックなRESTではエラー時に異なる形式のボディが返されることがあり、GraphQLに統一する際に共通エラーハンドリングの実装工数が大幅に膨らみました。
このフェーズでは、以下のステップを踏みました。
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既存エンドポイントとデータモデルをCSV化し、型定義のマトリクスを作成
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自動生成ツール(GraphQL Code Generator)を導入し、型安全なリゾルバのひな形を作成
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スキーマレビューを複数回実施し、UXチームとともにフィールド命名ルールを確定
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リゾルバ実装フェーズ前に、REST APIへのフェデレーション層をProxiesとして設置
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パフォーマンステストでエラーケースを再現し、エラーハンドリングの追加工数を見積もり
ここで学んだ教訓は、型設計段階で「REST特有の例外ケース」を無視すると、後続の実装やテストでの手戻りが増えるということです。
実際、開発会社に依頼した際、追加で20工数(約30万円)の調整費用が発生し、予算超過が懸念されました。
しかし、事前にフェデレーション層の設計を共有し、詳細見積もりを取っていたおかげで、大きなトラブルなく進行できました。
スキーマ設計フェーズは工数比で約15%を占めるため、発注時の見積もり内訳チェックが特に重要です。
開発会社選びと予算・費用交渉のポイント
GraphQL移行プロジェクトでは、一般的なREST開発以上に専門知識が求められるため、開発会社の選び方が成功を左右します。
私たちが重視したポイントは以下のとおりです。
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GraphQL実装実績:過去にフェデレーションやサブスキーマを扱った経験の有無
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フロントエンド連携経験:React ApolloやRelayを使った実装の得意/不得意
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コミュニケーションスタイル:GraphQL SDL(スキーマ定義言語)でのレビュー対応速度
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コスト透明性:相場に照らして工数×単価の妥当性を示せるか
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運用サポート体制:スキーマ変更要件やバージョニングへの対応可否
候補企業5社にRFPを送付し、提案内容と見積もり内訳を精査。
相見積もりでは「設計工数」と「実装工数」を分離してもらい、設計段階での要件漏れリスクを抑制しました。
予算は全体で300万円前後を想定し、そのうち設計に80万円、実装に180万円、テスト・調整に40万円の割合としました。
結果として、最終選定した開発会社との交渉で、設計フェーズの単価を10%引き下げ、総予算を280万円に収めることに成功しました。
発注書には「費用超過が生じた場合は事前にアラート」といったKPI連動型の条項を盛り込み、スケジュールと予算を厳格に管理できる体制を整えました。
実装フェーズの進め方と品質保証
GraphQLスキーマ設計フェーズを終えると、いよいよ実装フェーズに移ります。本プロジェクトでは、バックエンドとフロントエンドを並行して開発しました。バックエンドチームはApollo Serverのリゾルバ実装に注力し、フロントエンドチームはReact Apollo Clientを使ってクエリとミューテーションを組み込みます。各スプリントで「スキーマ→リゾルバ→クライアント連携→動作確認」のサイクルを回し、逐次統合テストを実施しました。CIパイプラインには、GraphQL Schema LinterやTypeScript型チェックを組み込み、品質ゲートを導入。テストカバレッジは最低80%を目標に設定し、ユニットテストとエンドツーエンドテストを分離して管理しました。特に、リゾルバ内部でのREST API呼び出し部分は、モックサーバーを使って早期にバグを潰すことに注力しました。これにより、フロントエンド側で「データが返らない」「型が合わない」といった手戻りを大幅に削減できました。開発会社との共同開発体制では、プルリクエストごとに必ずレビューを行い、コードレビュー時にはスキーマ変更の影響範囲とコスト増を明示するよう依頼しました。このやり取りが、後の追加費用交渉をスムーズにしたポイントです。また、チーム内ではGraphQLのベストプラクティスガイドを作成し、リゾルバやクエリの書き方ルールを統一。これにより、工数のムダを防ぎつつ、予算(費用)に見合った開発スピードを維持できました。さらに、スプリントレビューでは必ず「予算消化率」と「品質指標」をダッシュボードで共有し、進捗とコストを同時に可視化。プロジェクトマネージャーは月次でレポートをまとめ、経営層への説明材料を整備しました。これらの仕組みがあったからこそ、実装フェーズ全体を相場内で完了できたと実感しています。
テスト戦略とバグ対応のノウハウ
実装が進む中で、テスト戦略はプロジェクトの生命線でした。まず、ユニットテストでは各リゾルバ関数とデータ取得ロジックにフォーカス。Mock Service Worker(MSW)を活用して、REST→GraphQLフェデレーション層やキャッシュレイヤーの動作を厳密に検証しました。次に、結合テストではGraphQLサーバーとフロントエンドを統合し、実際のGraphQLクエリを投げる形でエンドツーエンドテストを行いました。Cypressを導入し、代表的なユーザーフローを自動化。テストの実行時間は最低限に抑えるため、テスト用の軽量データセットを作成しました。また、テスト失敗時にはSlackへ自動通知を飛ばす仕組みを設定し、開発会社と私たちの社内チーム双方が素早く対応できるようにしました。バグ対応では、JIRAのタグ「graphql-bug」を活用し、優先度別にトリアージ。クリティカルなバグは即座にホットフィックスを投入し、マイナーバージョンリリースで対応。これにより、ユーザーからのクレームや運用トラブルに伴う追加費用がほとんど発生しませんでした。さらに、リグレッションテストをスプリント完了時に必ず実行し、過去に修正した部分に影響が出ていないかをチェック。このテスト戦略が、予算内で安定稼働させる礎となりました。
パフォーマンスチューニングと監視設計
GraphQLサーバーは柔軟性が高い反面、複雑なクエリでパフォーマンスが劣化しやすい点に注意が必要です。本プロジェクトでは、複数フィールドを一度に取得する深いネストクエリがパフォーマンス低下の主因でした。そこで、クエリの深度制限をGraphQL Shieldで設け、過度なネストを防止。また、BatchingとCachingを組み合わせたDataLoaderパターンを導入し、同一リクエスト内でのN+1問題を解消しました。加えて、Apollo ServerのResponse Cacheプラグインを使い、クエリの結果を一定時間キャッシュ。これにより、ピーク時のレスポンスタイムを50%改善できました。監視面では、PrometheusとGrafanaでエンドポイントのレスポンスタイムやエラー率をモニタリング。アラート閾値を設定し、一定時間内にエラー率が5%を超えた場合は自動的にSlackへ通知。また、コスト面の最適化として、キャッシュヒット率をダッシュボードに表示し、ヒット率が70%を切った場合はキャッシュ設定の見直しを行う運用ルールを定めました。これにより、クラウドインフラや開発会社への追加費用請求を未然に防ぎ、相場内の運用コストを維持しました。
運用移行とサポート体制構築
開発完了後、運用移行に向けたドキュメント整備とサポート体制の構築に着手しました。まず、GraphQLスキーマの変更履歴やクエリ例、リゾルバ実装のポイントをConfluenceにまとめ、運用チームおよび開発会社と共有マニュアルを作成。次に、SLAとして「応答時間95パーセンタイル200ミリ秒以内」「稼働率99.9%以上」を設定し、監視ツールとアラート体制を調整しました。オンコール体制では、開発会社と3か月ごとに契約を更新し、フェーズごとのサポート費用を明確化。追加対応時の費用相場を月次でレビューし、経営層へのレポートに反映しました。さらに、定期メンテナンススプリントを計画し、GraphQLサーバーの脆弱性スキャンやライブラリ更新を行うことで、保守コストを抑制。運用移行後のトラブルはほとんどなく、追加費用をほぼゼロに抑えたのが大きな成果でした。
プロジェクト振り返りと成果測定
プロジェクト完了後は、KPIをもとに成果測定と振り返りを実施しました。主なKPIは以下です。
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APIレスポンスタイム平均値:300ms→150ms(50%改善)
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クライアントからの不要データ取得率:70%→10%(86%削減)
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ネットワークリクエスト回数:平均4回→1回(75%削減)
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バグ発生件数:リリース後1カ月で2件(前プロジェクト比70%減)
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予算超過額:0円(設計・実装・テスト・運用すべて相場内)
これらの成果は、GraphQLによる型安全性とクエリ最適化、テスト戦略、監視設計の総合的な成果です。振り返りワークショップでは、各チームの教訓を共有し、ナレッジベースに「GraphQL移行チェックリスト」を追加しました。
次フェーズへのスムーズな移行計画
次フェーズでは、サブスクリプション(イベントストリーミング)対応やスキーマバージョニングの導入を検討しています。これにはApollo Federationを使ったマイクロスキーマ統合や、GraphQLサブスクリプションを支えるWebSocket層の設計が必要です。要件定義フェーズでこれら機能を検討し、発注時には概算の追加工数(50〜70工数/相場80万〜120万円)を見積もりに含める計画です。また、次フェーズでは自動APIドキュメント生成ツール(GraphQL VoyagerやGraphiQL Explorer)の導入も視野に入れ、運用コストのさらなる最適化を図ります。今後も開発会社との協業を継続し、タイプセーフなAPI設計を武器に、機能拡張と費用対効果の両立を追求していきます。