ドローン×エッジAIで実現する屋外インフラ点検プラットフォーム開発ユースケース

プロジェクト概要
社会インフラの維持管理では、橋梁や道路、鉄塔、太陽光パネルなど広大なエリアにわたる点検業務が年々増加しています。従来は人手による現地調査と目視点検が中心で、危険箇所への立ち入りや膨大な移動時間がボトルネックでした。本ユースケースでは、自律飛行ドローンとエッジAIを組み合わせた屋外インフラ点検プラットフォームを開発。ドローンが予め設定した飛行ルートを自動で巡回し、高解像度画像や熱画像をオンボードの小型AIデバイスでリアルタイム解析。亀裂や腐食、温度異常を検出すると即座にクラウドへ通知し、管理者がダッシュボードで危険箇所を素早く把握できるようにします。これにより、従来の目視点検に比べ点検速度を約5倍、異常検知精度を約90%まで向上させ、定期点検コストを約40%削減することを目指しました。
技術スタック選定とシステムアーキテクチャ
ドローン制御にはPX4オートパイロットとMAVLinkプロトコルを採用し、DJIやカスタム機体との互換性を確保。エッジAI処理にはNVIDIA Jetson Nanoを機体搭載し、YOLOv5ベースの物体検知モデルとU-Netベースのクラックセグメンテーションモデルを動作させます。飛行中の通信は4G/5Gセルラー接続を利用し、MQTT経由でクラウドのAWS IoT Coreへデータを送信。クラウド側ではAWS Lambdaでバッチ後処理を行い、Amazon S3へ保存した画像をAmazon Rekognitionや独自APIで再分析、GraphQL APIを通じて可視化UIにデータを提供します。インフラはTerraformでコード管理し、Kubernetes上のNode.jsマイクロサービスとReactフロントエンドで構成。CI/CDはGitHub Actionsで自動テストとデプロイを実行します。
要件定義とミッションプランニング
要件定義では、点検対象の地形・構造物ごとに安全基準(地上高、飛行速度、風速制限など)を定義し、KML形式のミッションプランとしてまとめました。各点検ミッションは「撮影高度」「カメラ角度」「撮影間隔」「高度変化ポイント」などを詳細に指定し、VLOS(目視範囲内)およびBVLOS(目視外飛行)運用の両方に対応。さらに、航空法や電波法など法令遵守のため、コントロールセンターでオペレーターが飛行許可状況をリアルタイムで監視し、緊急時には即座に自動帰還モードを発動できる設計としています。JIRAで各要件をユーザーストーリー化し、ビジネス部門・法務部門・運用部門と合意した内容を見積もり依頼時の標準ドキュメントとして活用しました。
ドローン制御とフェイルセーフ設計
ドローン制御モジュールは、PX4オートパイロットをベースにカスタムMAVSDKクライアントをNode.jsで開発。ミッション開始前にはバッテリー残量やGPS精度、コンパスキャリブレーションを自動チェックし、基準未達成時は飛行を停止。飛行中は地理フェンス(ジオフェンス)をリアルタイムで監視し、フェンス侵入や通信途絶が検知された場合は自動でホバリングまたは指定帰還地点へ戻るロジックを実装しました。加えて、墜落検知センサーやプロペラ故障検知アルゴリズムを組み込み、これらのイベント発生時はオペレーターへ即時アラート送信しつつ、安全モードに遷移する二重保護体制を構築しています。
画像取得とエッジAIモデル適用
ドローン搭載の高解像度RGBカメラとサーマルカメラから取得した映像は、Jetson Nano上のEdge AIパイプラインで直列処理。まず画像歪み補正とテンポラルノイズ除去を行い、YOLOv5モデルで橋梁のクラックや欠損、鉄塔の腐食箇所を検出。検出された領域はU-Netモデルでピクセル単位にセグメンテーションし、亀裂幅や腐食エリアを定量化します。推論結果はJSONデータとしてMQTTペイロードに組み込み、即時にクラウド側へ送信することで、オペレーターはリアルタイムに点検状況を把握できます。また、Edge AIモデルはONNX形式で管理し、Azure Machine LearningのCI/CDパイプラインでバージョン管理と自動デプロイを実現。フィードバックループを通じてモデル精度を継続的に改善できる体制を整えました。
クラウド連携とデータパイプライン
クラウド側では、AWS IoT CoreがMQTTトピックを受信し、Lambda関数がJSONデータをS3バケットに永続化。S3イベントトリガーで起動するStep Functionsが、追加分析(Rekognitionラベル付与、異常スコア再計算)を実行し、結果をAmazon DynamoDBに保存します。DynamoDB StreamsとLambdaを連携させることで、GraphQL API(AppSync)へリアルタイム更新をプッシュ配信。フロントエンドのReactダッシュボードでは、高速なサブスクリプションでマップ上に異常箇所をプロットし、クリックで詳細画像とAIスコアを参照できるUXを提供しています。
UI/UXとレポート出力機能
フロントエンドでは、Mapbox GL JSを用いて3Dマップと衛星画像を表現。異常箇所はカスタムアイコンで可視化し、クリック時にサイドパネルで検出画像と時系列データをグラフ化します。点検完了後は「点検レポート生成」ボタンでPDFエクスポート機能を実装。バックエンドではPuppeteerを用いてHTMLテンプレートをレンダリングし、電子署名フィールドやQRコード埋め込みを行うことで法的要件を満たした報告書を自動生成します。また、S3に保存されたレポートはS3オブジェクト権限とCloudFront設定で安全配信を実現しました。
実装中の課題と解決策
屋外環境特有の課題として、強風による機体揺れで画像ブレードが発生し、AI推論精度の低下を招きました。これには、ドローンのジンバル制御を強化し、リアルタイムで電子式手ブレ補正(EIS)アルゴリズムを適用。さらに、AIモデルに「揺れ特性」を含めて訓練し、ブレ画像でも頑健に動作するようデータ拡張を実施しました。バッテリー寿命の問題には、飛行ルートを区分けしてエッジデバイス間でバッテリー交換タイミングを最適化するスケジューリングアルゴリズムを導入し、ノンストップ運用を実現しています。